空中分解2 #2940の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
* 真夜中の処方箋 * 十一月十日。あなたは窓を憂鬱に覆っているカーテンを開けて 「なんて寒いんだ、、、。」と、独りつぶやきなさい。外だけじ ゃない、あなたの心の窓に吹き付ける北風が、つい二日前の失恋 を思い出させて、冷え切ったあなたの物想いを少しずつ凍らせて ゆきます。家の中だって、もちろん財布の中より寒い。安アパー トの吹抜けに面した壁は、そんな北風に吹かれて音を立てて開い ては閉じる。すずらん通りから吹き上げてくる顔なじみのラーメ ン屋さん、味噌と醤油の入り混じる「こってり、もってり」した 匂いに誘われて、あなたは何故かしらさっぱりとした塩ラーメン が食べたくなります。 「この頃やっぱり俺は少しいかれている。」その事にあなたは 早く気づきなさい。昨日、窓の外をぼんやりと、二時間も別れた 女のことを思って煙草を一箱すっかりあけてしまったり、そうか と思うと急にどこかへ引っ越してみたくて、安物件ばかりの載っ ている住宅情報紙をわざわざ雨の中買いに出かけたり。あなたは そんな自分の中に吹き込んでくる殺風景な気分を、少しでも早く 食いしん坊な食欲にかえなさい。あなたを支えている湿っぽい彼 女への想いに、トイレの便座に深く腰掛けメンソール煙草をちび りちびりふかしながら物想いに独り泣きするのだけはやめなさい。 そんな戸惑いは、すっかり流してしまいなさい。二度、きちんと 拭いてからしっかりと流しなさい。それから、あなたはほとほと 女運がないと素直に諦めなさい。彼女と過ごしたベットに募る思 いから抜け落ちて、安アパートのしけた便所に吸い込まれてしま ったのだ。そう思いなさい。 この季節、あなたは決ったように失恋してしまいます。不意に 起こる不幸な事態に、あなたは前に一度、月夜の寒い冬空に友人 の家を追い出されてアパートに帰ってきた夜のことを思い出しな さい。隙間風が物悲しい窓辺に置いたままの灰皿がテーブルの上 に凍り付いて離れなくなるくらい長いこと家を開けていたことを。 その間じゅう友人のアパートを渡り歩いて愚痴をこぼしては朝か ら酔った浮浪者のように寝そべっていたことを、今だからこそ思 い出しなさい。煙草に火をつけて、その灰皿に線香を立てるよう に、そっと置きなさい。今、あなたはそんな気分のはずなのだか ら。 そんな失恋も、春になれば隙間風が入ってきてもさほど気には ならなくなっているものなのです。しかしあなたは気がついてい るのです。あなたはむしろ隙間風を歓迎しなさい。あなたの女は あなたの求めていた優しさに今だ気づいていないのかも知れない のですから。或は知っていて、まるであなたの気づかぬところで 恥ずかしげもなく多くの男を持て遊んでいたのかも知れません。 街で偶然出くわす彼女の男たちに送るそれぞれの含み笑いを、そ れは完璧に用意している、そう疑ってかかりなさい。そんな疑い に満ちたあなたの醜い心は、隙間風で凍えそうになっています。 十一月十五日。 しかしながら、失恋の冬だけはどうしようもなく寒いものです。 それは認めます。身も心も財布も冷え込んで、あなたはふたたび トイレに駆け込み、便座にぺたんと腰を落し、気分はふさぎ込ん でしまいがちなのです。そんな時に煙草をすうなら、メンソール だけはやめなさい。別れた女のキスの味を思い出してしまいます。 彼女はバージニアスリムを一日二箱も吸ってしまうので、女の真 っ赤なルージュの唇までもが冷たいのです。スースーした北風が あなたの心の窓に吹きつけている始末なのです。
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