空中分解2 #2929の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
主要登場人物一覧 天奏 智可 天奏家の二番目の若君。二の君。世継の君・一の君の双子の弟。 天奏 被沙 天奏家の世継。一の君。 天奏 被可 被沙、智可の父。天奏家の当主 神月 宗春 被可の腹心。 由貴野の方 被沙、智可の母。通称・由野。 智可は、ぎゅうっと唇を噛みしめた。そうしなければこの怒りはとても抑えられそう になかった。うまれてすぐに自分は余り者として捨てられた。 それが十二年もたった 今、突然自分を捨てたはずの親が引き取るといってきたのだ。 自分勝手だ。 幼い頃、自分には両親がいないと聞いたとき、どんなに淋しい思いを味わったことか。 その思いは十数年たった今の今まで、鮮やかなまでに残っていたのだ。 「智可・・」 気遣うような養母の声さえとどかない。 幼い若君はただただ無表情を装おうと必死だった。母親、そして何より自分を捨てた父 親のまえで取り乱すということは、自分をさらに惨めな立場に追い込むことになるとい うことを彼は直観的に知っていた。そんなことは彼の自尊心が許さない。 ふいに人の気配。 「皆様、参られましてございます」 侍女の声がして、すっと障子が開く気配とともに三人の貴人がまるで風のように入って きた。それと同時に隣に座っていた義理の母−正確には彼の叔母にあたる−が、恭しく 頭を下げた。しかし智可はそんなことに構いもしない。何とか用意できた無表情の仮面 で素顔を覆って、父親である『城主様』に針のような視線をなげかけた。 やがて智可 は口を開く。 「今更どういうおつもりです?あなたはうまれたばかりの私を余り者として、叔母上の 尼寺に捨てたのでしょうが。それを突然引き取るとはどういうことです。智可を猫の子 か何かと考え違いをしているとしか思われぬ!」 途端、わあっと母親が泣き伏した。 ちくりと胸が痛んだものの、初対面の母が泣いたくらいでこの怒りが消えるほど、それ は小さいものではなかった。 「智可、すこしは・・」 「叔母上でも口出しは無用に願います!」 天奏という家の犠牲にされた若君は、再び自分を捨てた父親に向きなおった。 「私は自由に生きる。今更城に入る気など全くない。それを阻む権利など、あなたたち にはないはずだ」 そして、最後の言葉を紡いだ。 「もう二度と会わぬ。会いとうもない!失礼する!」 言い終えるなり智可は身をひるがえした。自分を呼ぶ声が後を追ってきたが、振り向こ うとも思わなかった。 一度は自分をすてた親に、再び引き取られるなんてそんなこと、絶対に嫌だ。それこ そ猫の子か何かのように。 そして何より。 世継の君と瓜二つというのが原因で、まわりに疎まれ、一方ではいいように利用されか ねない自分という存在を、この城におくなんて絶対に耐えられない。 複雑にいりくんだ廊下を、彼はただ夢中で走った。 途端。 ぎゅっと左手首をとられた智可は、無理矢理先を阻まれた。 「なっ何者!」 憎悪もあらわな若君ににっこりと微笑みかけたその男は、彼の手首を掴んだまま優雅に 一礼した。 「お初にお目にかかります。今日から二の君・智可さまのお側ちかくに御仕えさせてい ただく神月宗春と申す者にございます」 オソバチカクニオツカエサセテイタダク? 冗談! いつ自分がこの城の二の君になることを承知したというのだ! 今、自分がここにいるのは、自分を捨てた親に一矢報いてやろうとしただけなのだ。こ の城の若君になるためにきたのでは断じてない。 「宗春−っ!」 嬉しそうな声にハッとしてふりむくと、思ったとおり、自分の後を追ってきた双子の兄 ・被沙だった。 「は、離せっ!はなせぇぇ!」 どんな小さな醜態でも、あいつには、被沙にはさらしたくない! それはそのまま、被沙より自分が劣っていることを認めさせられることになりそうで。 「若君、御免!」 宗春の張り詰めた声が耳に届いたまさにその時。 胃の腑のあたりに鈍い痛みがはしり、智可の意識は闇にのまれた。 ★ 気がつくと目の前に被沙がいた。 「あ、気がついた?」 心底安堵したように、まるで光がこぼれおちるように笑って、世継の君こと被沙は双子 の弟をみつめた。 「あれ・・?僕、どうして・・」 ここにいるんだ?と口にしかけて、神月宗春を思い出した智可は一気に不機嫌になった 。加えて、枕元にいるのがついさっき醜態をさらしたばかりの相手というのも、さらに それに拍車をかけるはめになった。 「あのさ・・宗春のこと・・」 敏感に智可の心を察してしまった被沙は、相手の様子を気にしながらもおずおずときり だす。 「ちゃんと謝らせるから・・許してやってくれないか・・?」 ムッとしてそっぽをむく弟に、被沙は尚も言い募る。 「宗春だって、悪気があったわけじゃないんだ。頼むから・・許してやってよ、ね?」 瞬間。 智可は、あれっと思った。 被沙の言葉はそっちのけで、智可は城の『気』のほうに集中する。 これは・・この『気』は・・。 「・・この城、なんか気味悪い・・」 「え?」 あまりに唐突な智可の言葉に、被沙は一瞬たじろいた。 「・・いやな気だ・・」 先程まで気がつかなかったのが不思議なくらいの『邪気』である。 智可はおもむろに顔をしかめた。 「帰る」 さっさと立ち上がりかけた弟を、被沙はあわてて押さえ付けた。 「ちょっと待ってよ!今日から智可は正式に二の君として城に入ったんだよ!智可の帰 るところはここなんだから!勝手な行動は僕が許さない」 「勝手なのはそっちのほうだろう」 「それにさっきまでそんなこと一言だって言ってなかったじゃないか。うまく僕を騙そ うったってそうはいかないんだから」 背筋がどんどん冷えてくる。物分かりの悪い兄に智可は怒鳴りつけた。 「だれがこんな嘘つくもんか!こんな・・」 言いかけて智可は息をのんだ。 襖ごしに気配がした。 それは認めたくはなかったが、人のものではありえないもの。 身体が凍りつきそうな恐怖に、智可は表情を強ばらせた。 「智可・・?」 ただならぬものを感じて、被沙は不安を隠しきれない声で弟の名を呼んだ。 「智可、どうしたっていうんだよ?襖ごしに何かいるの?」 兄の問いに答えようともせず、智可は何かに憑かれたように襖の辺りを窺っている。そ の尋常でない様が、被沙の心を不安に掻きたてた。 「ねえ、答えてくれたっていいだろう?智可!」 まるで人形のように押し黙っている弟を、被沙は渾身の力で揺さ振った。 「智可!智可!智可ぁっ!」 途端、ぴくりと智可の頬に緊張がはしった。 「来る・・!」 何が?と問う前に被沙は見た。 襖をすうっと通り抜けて、今にも智可に襲いかかろうとしている鎧武者の姿を! 「智可ぁっ!」 被沙が叫ぶのと、智可が絞めあげられるのは殆ど同時だった。 「うっ!」 「智可ぁっ!」 武者は細い首をもぎ取ろうとするかのように、ぎりぎりと智可を絞めあげる。 「父上ぇっ!」 この部屋からの声が父に届くのは殆ど奇跡とわかっていてもそれでも、被沙は呼ばずに はいられなかった。 「こんな結界ごときに阻まれてわが子の声を聞き逃すなんて、化物の異名が泣くぞ!そ れでも宜しいのかぁっ!」 追い詰められると無意識のうちに毒舌を披露して憚らないこの若君は、次の瞬間、襖を 蹴倒す音に我に帰った。 「父上っ!」 丁度いいところに来てくれた、とさえ言い兼ねない被沙に苦笑でこたえると、この城の 城主は魂まで凍りつかせそうな笑みを口元に浮かべた。 「失せろ」 口にしたのはただそれだけ。 その言葉が終わるか終わらないかのうちにすべては片付いていた。 鎧の男はその身を引き裂かれたような絶叫を残し、跡形もなくその場から消えていた。 それこそ「失せろ」の言葉そのままに。 ★ 「帰るぅ!帰るんだぁっ!」 「だめったらだめぇっ!」 化物騒動の直後にそれはおこった。 「こんな城に住むくらいなら、坊さんになったほうがまだましだ。帰るっ!」 「そんなの認めない!僕はずっとお前を待ってた。お前の言ったとおり、五年もの間た だひたすらお前が現われるのを待ってたんだ」 「え・・?」 智可は小首を傾げた。 「心変わりしたなんて言わせない。お前は約束してくれた。五年後に会いにくるって。 そうしたら今度はずっとそばにいるって」 「・・知らないよ。そんな約束・・」 心の奥で何かが引っ掛かった。けれどそれがなんなのか、あまりにも漠然としすぎてい て、智可にはそう答えることしかできなかった。 それが悪かった。 その言葉が被沙を本気にさせた。 被沙は智可を睨みつけたその目をみるまに涙で溢れさせた。 「あ、そう。なら、僕にも考えがある」 ややもすれば揺れがちな声を必死にこらえて、被沙は無理に微笑んだ。その微笑みが智 可には例えようもなく凄みを含んだものにみえて、彼は思わずたじろいた。 「な、なんだよ・・」 「ふふっ。考えっていうのはね」 泣き笑いをしながら、智可によく似た愛らしい顔にいたずらっぽさをたたえて、被沙は 智可をみつめる。 「思い出すまで一生でも僕のそばから離さないの」 一笑に付そうとして、智可はできなかった。 口元はたしかに笑っていても、瞳にたたえた光は恐ろしいほど真剣だった。 「どんな小さな行動でも僕と一緒にとる事。これは命令だよ。智可。逆らうことは許さ ない」 智可は言葉をなくした。 それこそ逆らおうとして、何かを言い返そうとして兄をみたが声がでなかった。 智可は唇をかんだ。 どうしようもなく、くやしかった。 ★.. [A[C[C[C[C[C[C[C[[C[C
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