空中分解2 #2891の修正
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−まなぶのお風呂シリーズ2− * そんごくうは、髪の毛をぷいっ、と吹いてそれを分身に変え、相手を惑わすと いう術を使いますが、では、鼻毛を抜いて、それをぷっ、と吹いたらいったい何 に化けるのでしょう。 まなぶは、そんなことを考えると、もう気になって気になってなりませんでし た。母さんに聞いてみようか、それともお姉ちゃんにしようか。妹のちひろはあ てにならないし、やっぱり、父さんが帰ってからお風呂で聞いてみたほうがいい かな。 それにしても、ときどきおとなが鼻毛をひっこぬくのを見かけますが、あの、 ひきぬかれた鼻毛は、いったいどこへ行くのでしょう。まなぶは、ついそんなこ とまで考えてしまうのでした。 * 「それって、そんごくうの鼻毛のこと? へえ、おサルさんにも鼻毛ってあるん だ」 母さんは、わざとらしくうなずいてみせました。 「なにへんなこと考えてんの。笑われるだけだからよそでいっちゃだめよ、いい わね」 お姉ちゃんは、そういっておもいっきり、しかめ面をしました。 「ぶう、ぶう」 妹のちひろは、歩行器のはじっこにくっついたごはんつぶをひろっては、口に 入れています。 こりゃ、だめだ。やっぱり父さんを待つしかないか。 * 「そうだな。うん、まったくだ」 そういいながら父さんは、えいっ、とかけ声をかけました。その夜、一緒にお 風呂に入ったときのことです。ごぼごぼ、とあわが浮かんできたかとおもうと、 まなぶの目の前でぱちん、とはじけました。でも、すこしもくさくありません。 「あれ」 父さんは、首をかしげています。 まなぶは、まだお風呂の中でおならをしたことがありません。だって、もしお ならでないものが出てきたら・・・オシッコならごまかせるけど・・・。いま住 んでいる団地に引っ越してくる前は、まなぶたちは川崎のアパートに住んでいた のですが、そのとき、近くのお風呂屋さんでウンチが浮いているのを見つけたこ とがありました。母さんは、赤ちゃんのよ、これ。お風呂にはいって気持ちが良 くなっちゃって、自然に出ちゃったのね、よくあるのよ。そう言って、手ですく いあげました。 * 「そうだね、鼻毛はなんに変身するのかなあ。ハリネズミとかライオンになるの かな」 さすが父さんです。まなぶの思っていたとうりのことをいってくれました。 「怪じゅうかもしれないね」 まなぶは、だったらいいなあと思いました。 「ははは、そうか。もしかしたら、ハナゲザウルスなんて名前の怪じゅうかもな」 父さんは、ばしゃっ、と顔にお湯をかけると、両手でぶるぶるこすりました。 「よし、ためしてみよう」 父さんは、言うなり鼻の穴に指をつっこみました。そして、 「あちちっ」 顔をくしゃくしゃにさせながら、鼻毛をひっこぬきました。 「いたくないの」 まなぶは、思わず顔をしかめました。 「そりゃ、いたいさ。お、しめしめ」 父さんの指には、鼻毛が二本ばかりくっついていました。 「いたいっ」 まなぶです。父さんがいきなり鼻毛でほっぺたをつっついたのです。父さんの 鼻毛は、まるで針金のようにとがっていました。 「そんなものが鼻の中にあって、痛くないの」 まなぶは、父さんからにげるように、からだをそらしました。 「ありゃりゃ。こりゃ、すごいわ」 父さんは、へらへら笑いながら、自分の手のひらになんべんも鼻毛をチクチク 刺しました。まるで、大発見でもしたようなよろこびようです。 * 「どれ。いいか、まなぶ。よく見てろよ」 父さんは、そういうと鼻毛を口元にもってきて、 「ぷっ」 と息をふきかけました。 「あっ」 まなぶは、思わず目をつぶりました。鼻毛が飛んで行ったあたりの湯気のなか に、なにかまっ黒なものが姿をみせたのです。 そして、あっというまに大きくなると、まなぶめがけて飛びかかってきたので す。 「わあ」 まなぶは、父さんに抱きつきました。ところが、まなぶの両うでは、するりと 湯気をとうりぬけただけでした。いつのまにか、父さんがいなくなっているでは ありませんか。 まなぶは、湯舟から飛び出ようとしました。しかし、気持ちとは反対にからだ は少しもいうことをきいてくれませんでした。 そんなことをしているうちに、湯気の向こうの黒いものの中から、まっしろな ものが、まなぶに向かってにゅう、っとつき出されたかと思うと、あっ、という まもなく、まなぶの肩をわしづかみにしたのです。 「た、たすけてー」 まなぶは、大声で悲鳴を上げました。 * 「いつまで入ってんの、のぼせるでしょうが。父さんはもうとっくにでちゃった わよ」 見ると、母さんが、ばらばらになった髪の毛をふりみだして、たっていました。 「で、でも」 まなぶは、それが本当にほんとうの母さんなのか、心配でした。 「さあ、早くでて」 母さんは、両手でまなぶを抱き上げました。 まなぶは、まだ信じられません。たしかに、見たのです。父さんの鼻毛が変身 するのを。それが黒いものに姿を変え、まなぶに襲いかかろうとしたのを。いま 起きたばかりの、ほんとうのできごとです。 それなのに、父さんはまなぶをおいてきぼりにしたままいなくなるし、母さん は勝手に入ってくるなり、出ていけというし。 「そうじゃないのに」 * まなぶは、風はどこからやってきて、そしてどこへ行くんだろ、そのことを考 えると、もう、気になって気になってなりませんでした。 母さんに聞いてみようか、それともお姉ちゃんにしようか。妹のちひろはあて にならないし、やっぱり父さんかな。まなぶは、こまっています。 −おわり− 2/14
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