空中分解2 #2883の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
毎日毎日楽しいことばっかり! 何だって手に入るし、大事にされててちやほ やされててヤなことなんてないし、うちはお金持ちだし彼氏はカッコイイし、 私、欲しいものなんてなくなっちゃった。きっと今が一番きらきらしてるんだ と思う。もう十八歳だもの、これから先は年をとるばっかりでどんどんツマン ナクなってく。だからせめて“今のうちにかっこよく死のうね”ってユタカく んと約束をした。明日、誰にも何も言わないで私たちは心中の旅にでる。 場所はモチロン日本海側。 切り立った崖っぷちから 荒く打ち付ける波間にふたり 手に手をとって身を投げ込むの。 駅弁を買ってたら時間がぎりぎりになっちゃって、私とユタカくんは荷物と駅 弁と切符を手に新幹線に駆け込んだ。平日だってゆうのに立って乗ってる客が いた。私たちはグリーン席でよかった。席についたあと“るるぶ”の“東北の 旅”をめくりながらあれこれ考える。はじめは“有名どころでTかなー”なん て思ったんだけどちょっと月並みでしょ? 死体は上がらないほうがいいけど、 万が一にそなえてお気に入りのワンピース着てきたしィどこにしよーかな〜。 だんだんワクワクしてきて、私は隣でワンカップを飲んでいるユタカくんに声 をかける。ユタカくんはカッコいい。顔が良くてオシャレで目立つ。“それだ けじゃん”ってゆう人もいるけど、いーのよ それだけで。 「ねえねえユタカくん、どこがいい?」 ユタカくんは“るるぶ”をちらっと見てから言った。 「何で日本海側なワケ〜? やだよ〜。ハワイとかバリとかさぁ、いろいろあっ たのにさー?」 珍しく口答えするユタカくんを私は睨みつける。「何か勘違いしてない? 観 光旅行じゃないのよっ! 腐っても心中なのよ?! これはいわゆる様式美っ てヤツよ。死ぬ前には日本海側のひなびた漁村のある海岸を歩いたり、そうい うことしたいの〜っ」 「暗いっ、暗すぎるっ!!」 ユタカくんは露骨にイヤな顔して言った。私、口答えするのは好きだけど、さ れるのは許せないのよね。でもいいんだ。もう新幹線に乗ってるんだから何言っ たって遅い。何だかんだ言ったってこの人、私の言うなりだもの。私は売店で 買った駅弁の包みを開けて、食べ始める。さっきの“るるぶ”でちょこっと載っ てた秋田の海に私の心はすでに飛んでいた。 森岡で新幹線を降りて、私とユタカくんは海を目指した。一日に数本しか出な い電車を三回も乗り換えた。だーれも乗ってない車両。いつもはお喋りな私も ユタカくんもなんとなくしんみりと黙り込んでいる。列車は海沿いを走って終 点につく。それからまた今度はバスに乗り換えて先に進んだ。そこまできて何 でそんな面倒くさいことをしたかというと、飛び込むような高さのある所にな かなか出られなかったからだ。夕日と潮の匂いを感じながら1時間近くバスに 揺られたあと、某というところで降りた。草の台地だけどその先は切り立った 崖になっていて、私の気分はいやがおうなく盛り上がってくる。 「行こうか」 「うん」 私とユタカくんは手をつないで山道みたいにごつごつした道のほうを歩いていっ た。波の音が響いてくる。海が近い。さよならさよならさよなら……私はいろ んなものに心のなかで一通り別れを告げた。海風がごうごうとふいていた。崖 の途切れたところが見える。手が汗ばんでひんやりとしてくる。おずおずとユ タカくんが言った。 「なあ、やっぱりヤメにしない?」 私は返事をしないでそのまま歩く。近づいていく崖の先端。あと四歩も踏み出 せば、私たちは崖の下の黒い海の藻屑だ。つないでいたユタカくんの手が私の 手を擦り抜けて後ろへ逃げた。 「俺イヤだぜ」 「今さらそーゆーコト言うわけ?」 「俺やっぱりいやだ。こんなトコで死ぬのは」 「そんなこと言ったって……じゃあ死ぬのやめる気なの?」 「どーーしても死にたいんら、勝手に死ねばいいだろっ」 「一度決めたことをやらないっていうのは、カッコ悪いことよ」 「何とでも言えよ」 私は崖の下の見えない黒い海を睨みながら、砕ける波の音を聞いていた。 でもじつは私も、だんだん怖くなってきちゃったのだ。 「……そうねえヤメようか? 明日の朝帰って、次に旅行するときには南の島 でだらだら過ごそうよ。今ってどこがいいと思う?」 「…………プーケットなんかどうかな? 先輩が良かったって薦めてくれた」 私たちはにっこりと笑ってまた手をつないだ。 「ユタカくんごめんね。よく考えたら馬鹿よね。」 ユタカくんと私は崖の下の黒い海をそうっと覗きこんだ。 「それにしても……スゲーよなこれは。」 闇のなかでも砕ける波の白いのが少し見えるような気がした。一瞬吸い込まれ るような気がして、今度は私がユタカくんの手を振りほどいて。 それから私は彼の背中を突き飛ばした。悲鳴にもならないような小さな呟きを 残してほんとうにあっけなく、ユタカくんは崖の下に消えていった。 こんなつもりじゃなかったんだけど、誰にも言わないで家を出てきて助かった なって思った。普段口答えしない奴に口答えされると無性に腹が立つわけよ。 ユタカくんが落ちるとき崖に激突しないでちゃんと海に落ちるといいなとお祈 りしたのは、私のせめてものやさしさだ。だってそのほうがキレイでしょ? でももったいないなーユタカくん。ホントにかっこよかったのに。 あんな男だったとはね、イザとなったら人間の本性分かるとはよくいったもの だわ。いい勉強になりました。いろいろあったけど今回のことで私って人間的 にひとまわり成長したような気がする。もったいないからやっぱり死ぬのは止 しておこーかなーなあんて……テヘヘ。ちょっとカッコわるいね。 もう電車もバスもなさそうだからさっき見た電話ボックスでタクシーでも呼ん で帰ろうっと。 おしまい
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