空中分解2 #2873の修正
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被崎騒動 美濃の国・向鷲見城内 薄暗い廊下(夜) T(1547年・冬) ひとりの少年が、気配を殺して歩いてゆく。 天奏の二の君・智可である。 智可「あ」 びくりとして、目前の渡廊下を凝視する。 ぼんやりとした釣り灯篭の薄明りのなか、柱にもたれる人影。 被沙「どこへ行く?」 わずかに微笑む被沙。 目を逸らす智可。 被沙「被崎・・速騎のとこか?」 智可「・・・(瞑目)」 被沙「被崎のこと・・だれに聞いた?」 智可「・・小姓達の話を小耳にはさみました。被崎の一の君が高熱をあげて・・死の床 にあると」 沈痛な面持ちの智可。 じっと見つめる被沙。 智可「・・・被崎とは、12年もの時を一緒に過ごしてきた幼友達です」 被沙「そのことは・・知っている」 智可「だからこそ、助けたいのです!」 食い込むように被沙を見つめる智可。 冷然と見つめかえす被沙。 智可「兄上!」 被沙「・・お前が突然この城に来たいと言いだしたのは、この城が被崎のいる勝山城に 一番近い城故か?」 智可「・・はい」 被沙「私の目を盗んで勝山城へ行き、被崎の病を癒そうとしていたのか?」 智可「・・はい」 被沙「(吐息して)・・大分目が曇っているようだ。らしくもないぞ、智可。被崎があ んなことになって、家臣達は一層、厳重な警戒体制を敷いている。その厳重さのせ い被崎の病のこと自体、ほんのわずかな人間しか知らないくらいだ。そんな中に、 動揺しまくったお前がどうして入りこめる?」 智可「被崎のそばには、天奏の息のかかった者が数人いると聞いています。その者たち を頼って・・」 被沙「智可!」 びくりとする智可。 凝視する被沙。 被沙「あの者達が被崎のそばにいるのは、被崎の命、救うためではない。天奏に対して 不穏な動きが見られないか、見張るためのもの!そもそもお前は誰だ?天奏の人間 でないのか?天奏にとって被崎速騎は敵対する者以外何者でもない。黙っていれば じき失せる敵をわざわざ助けるなど、愚考の至り!」 目を見開く智可。 睨み付ける被沙。 智可「(掠れ声で)ならば、私は『天奏』を棄てます」 被沙「なに?」 智可「(毅然と)私を除籍してください、兄上。そうすれば何をしようと私の自由でし ょう?」 被沙「・・許さぬ」 智可「・・・(見据える)」 被沙「そのようなこと、私は許さない!」 声 「このような所で口論でございますか」 ぎくりとする二人。 被沙のすぐ後ろに、いつのまにか神月宗春が立っている。 宗春「智可さま」 智可「・・・(見る)」 宗春「どうか、ご自分のお立場をお考え下さい」 被沙「・・・(宗春を見る)」 宗春「除籍なんて、我侭が許されるお立場ではないでしょう?」 智可「(ムッとして)お前は黙っていろ。私は兄上と話している」 被沙「構わぬ、宗春。申せ」 睨みつける智可。 無視する被沙。 宗春「然れば、智可さま。智可さまは一の君である被沙さまの、双子の弟君でいらっし ゃいます。そういうお方を、他国の者どもが放っておきましょうや?」 智可「私が利用されるとでも言いたいのか?」 宗春「(伏し目がちに)お家の災いになりかねません」 智可「私は他人に利用されるほど馬鹿ではない!」 宗春「たしかに。智可さまは聡明なお方でいらっしゃる。されど時折、ご自分の感情に 流され、誤った行動をなされるときがあります。現に今がそうでございましょう?」 智可「なんだとっ!」 宗春「(諭すように)除籍をしてまで敵を救おうとなさるなど、正気の沙汰とも思われ ませぬ。下手なお情けはおやめなされませ」 智可「被崎は・・っ」 被沙「‘被崎は・・’なんだ。敵じゃないなんて言うんじゃないだろうな?」 キッと睨み付ける智可。 冷然と見つめ返す被沙。 被沙「速騎の父は2年前、主君をしいして自分が一国一城の主となった油断のならない 男だ。その血を継ぐだけあって、速騎はたいした策略家で父親の片腕的存在と聞く。 そんな危険人物、これを機会に消えてくれたほうがありがたい」 智可「だまれッ」 掴み掛かろうとする智可。 押さえる宗春。 宗春「智可さま、お止めください!」 智可「放せッ、宗春!」 被沙「つまらぬことでお前を失いたくない。被崎のことは忘れろ」 鬼のような形相で兄を睨みつける智可。 智可「お前こそ・・消えてしまえ・・」 被沙「・・・(凝視)」 宗春「・・・(愕然)」 智可「兄上なんかよりずっと・・ずっと、被崎は大切な幼友達なんだ」 被沙「・・・(絶句)」 宗春「・・おさな友達・・?(驚愕)」 智可「被崎が死ぬようなことになったら、僕は一生お前を許さない!一生憎んで憎んで やるッ!」 被沙の頬がひきつる。 一瞬の沈黙。 被沙「宗春」 宗春「は・・(困惑)」 被沙「智可を幽閉する。てきとうな部屋に放りこんでおけ!」 冷たく言い放って立ち去る。 絶句する智可。 息をのむ宗春。 曇り空 チラチラと降る雪。 越前の国・勝山城全景 雪がうっすらと積もっている。 同・被崎速騎の居室(夜明け) 部屋の中央に病床についている被崎。 その脇に薬師。 それを遠巻きに藤綺竜可、在元可継、西原許信ら、速騎直属の臣が沈痛な面持 ちで控えている。 ふうっと目を開く被崎。 被崎「藤綺・・」 藤綺「・・は・・」 被崎「近うー」 藤綺「はい・・」 被崎の枕辺ににじりよる藤綺。 被崎「(わずかに微笑んで)そのような顔をいたすな」 藤綺「・・お許し・・下さりませ・・(俯く)」 被崎「・・なぁ、藤綺」 藤綺「・・はい」 被崎「俺は夢を見ていた」 藤綺「・・・(見る)」 被崎「智可の・・夢だ・・」 藤綺「天奏殿の中の君、でございますか」 被崎「ああ」 藤綺「殿とは随分と親しい仲だったとか・・」 被崎「そうだ(微笑)」 藤綺「中の君は何とおっしゃいました?」 被崎「・・何も言わなかった・・。ただ、屈辱に震えていた」 藤綺「屈辱・・ですか」 被崎「(視線をながして)あれはたしか、智可が天奏の城にあがる折の・・。というこ とは、もう4年も前のことになるのか・・。一方的に捨てられて、今度は強制的に つれもどされて、あいつの自尊心はボロボロだった」 <回想> 物々しい出で立ちの使者達が、少女の衣装を身に纏った智可を押さえ付けてい る。 使者「殿のご下命にございます!何卒速やかにお城に参られますよう」 凄まじい形相で睨みつける智可。 屈辱と怒りのあまり声も出せず震えている。 藤綺「・・・(瞑目)」 被崎「ここ数年、忙しさに取り紛れて失念していたが・・。今、智可は・・?」 どこか不安げな表情。 藤綺「(微苦笑をうかべて)兄君のご寵愛を一身にあびていらっしゃるばかりか、家臣 達からも随分と好かれておられると、聞き及んでおりまする」 被崎「・・そうか・・。それなら、大丈夫だな・・(安堵)」 沈痛な面持ちで俯く藤綺。 怪訝そうに見つめる被崎。 被崎「藤綺・・?」 藤綺「どうか・・お願いですから、今はご自分のお身体のことだけをお考え下さい」 被崎「・・・(微苦笑)」 藤綺「(切なく)一日もはやく、病を癒すことだけを・・」 絶句する藤綺。 静かに目を閉じる被崎。 美濃・向鷲見城・表(早朝) うっすらと雪が積もっている。 同・渡廊下 宗春が明と何やら話している。 一礼して小走りに去っていく明。 同・薄暗い一室 智可が膝を抱えてうずくまっている。
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