空中分解2 #2211の修正
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1時間が経過した。途中でイヤピースが通信を求めたが、玲子は気がつきもしなかっ た。タイラントも強いて対話を求めず、すぐに接触は切れた。そしてようやく網膜残存 映像は意味のとれる光景にかわりつつあった。 あふれる涙にぼやけているが、少女に凄惨な死をもたらした相手はほぼ人間大の影だ った。緑色と黒い塊が少女の身体に迫っている。人間と同様に2本づつ手足があり、直 立してるらしい。大きく広がった両手は片方が1本の鋭く尖ったエッジ、片方が逆に複 数の触手のように見える。 ようやく敵の正体が見えてきた。もう少し映像をはっきりさせようと玲子は作業を続 けた。 何かが空気を切り裂きながら玲子を襲った。 とっさに意識に閃いたのは<従者>の攻撃だった。玲子の手に数枚のメダリオンが現 れた。五芳星形が浮き彫りになっている。 身をひるがえし、殺気の方向へメダリオンを投じようとしたとき玲子は間違いに気付 いた。<従者>の気配はなく、3人のSEAL隊員の姿を認めたとき、灼けた銃弾が左 腕を貫通していった。血には飽食しているであろう地面に、新たな血がほとばしった。 SEAL隊員は夜になるのを待っていたのである。そして、秘かにS−村の様子を探 ろうと侵入したのだろう。スターライトスコープとサイレンサーを装備したアサルトラ イフルやサブマシンガンで武装し、包み込むように村に侵入した。そのうちの数人が死 体に向かって妙なことをしている玲子を発見し、誰何も無しにいきなり発砲したという わけである。普段なら玲子の方が先に相手を発見したであろうに、少女の網膜に刻まれ た映像を解析するのに、ほとんど全意識を集中させていたため遅れをとってしまったの である。 玲子は己のうかつさを呪いながら、少女が串刺しになっている農家の入り口に飛び込 んだ。銃弾が後を追う。 送電が停止しているのか家の中は完全に闇に包まれていた。 家の中に死体がないことはわかっていた。少女の両親は外に飛び出して殺されたのだ ろう。古い農家には似合わない電気温水器があるタイル貼りの浴室に逃げ込む。左腕の 上腕部の鈍い痛みに顔をしかめながら、通信機に囁いた。 「SEALが村に侵入してきました。左腕を撃たれました。反撃していいですか?」 『かまわんが君の力を使ってはいかん。相手の武器を奪い取っての反撃なら許可する が、相手を殺すな。怪我の具合は?』 「普通はそれを真っ先にきくものじゃありませんか?ええ、貫通銃創です。骨や筋肉 にはそれほど影響はありません。苦痛を遮断すれば動けます。でも、プラーナを使わな いでどうやって相手の武器を奪い取るんですか?」玲子はかみつくようにいった。外の 様子を窺うが、物音一つしない。この家を半包囲しているのだろう。 『それができんのなら、逃げるんだ。今、軍の上層部とコンタクトして、SEAL部 隊の撤退を命令させようとしてるところだ。しかし、おそらく無理だろう』 「長官でもできないことがあるんですか」つい、皮肉が口をついて出た。 『監視衛星を北海道上空に配置した』タイラントはそれを無視した。『こちらからも 敵を探してみる。何かわかったか?』 玲子は少女の網膜残像の影のことを説明した。「でももう続きはできませんよ。SE ALを皆殺しにでもしない限りは、どの死体にも近寄る事もできないでしょう」 『人間型だというのか』タイラントは確認した。 「見た限りでは。不定形の<従者>がたまたま人間の形をとってたのかも知れません が、細部の確認まではできなかったので。でもインスマウスやトゥチョ=トゥチョ人で はないようです」 『よし、村はとりあえずもういい。速やかに脱出して、ヘリの墜落地点に向かってく れ。ヘリを調べてもらいたい』 「簡単にいいますね。世界最強の特殊部隊を相手に反撃せずに包囲網を突破しろとい うんですね。片手が不自由なままで。いったい私を何だと思ってるんです?プール一杯 のショゴスを相手にしたほうがまだましですよ」 『わかった』さすがに冷静なタイラントも閉口したようだった。『殺さない程度に反 撃してもよろしい』 「いちいち条件がつくのが気に入らないわね」と、これは口の中だけで呟き、肩をす くめて返事をする。 「了解。ヘリの墜落地点に向かいます。でもどうして、衛星から走査しないんですか ?」玲子はハンカチを引き裂くと腕を縛った。すでに傷口は麻痺させてある。出血はほ とんど止まりかけている。外科医が見たら驚嘆するだろう。 『ヘリは無傷で着陸しているのだ。ローターや尾翼は木にぶつかって折れているが、 機体そのものは無事なので、上空からではわからない。誰かがドアを開けて中をのぞく 必要がある』 玲子は疑問を呈しようとしたが、忍び寄る気配を感じて素早く通信を切った。 「了解。以上」 農家の周囲を10人以上が、決して同志撃ちをしないような位置から少しずつ接近し てくる。玲子を完全に敵だと思いこんでいるようだ。こそりとも音をたてないのはさす がである。相手がテロリストや犯罪者なら数秒で制圧されてしまうであろう。 玲子はゆるやかに意識を解放した。自分を中心に波紋を起こすようにプラーナを広げ SEAL隊員の位置を探り、頭に刻み込んだ。 音もたてずに台所に移動する。きれいに並べてある食器やナイフ、フォークをさっと 見渡す。SEAL隊員は12人。玲子はナイフを4本、フォークを4本、それに手ごろ な大きさの皿を抜き出した。さすがに無音でというわけにはいかず、皿とナイフが触れ 合う音が小さく響いた。SEAL隊員が集音マイクで屋内の様子を探っているなら、確 実に探知されただろう。そして台所を目指して突撃してくる。 攻撃命令が出たようだ。開けっ放しの玄関から3人。反対側の裏口から3人。教科書 通りの侵入を行ってきた。玲子はSEAL隊員達の動きを映画の1場面のように脳裏に 描きながら、ナイフとフォークを両手に掴んで身構えた。左腕の痛みはすでにほとんど 感じない。 ハンドガンを持った隊員が台所に現れた。 その直前、玲子の手から閃光が走り、闇を切り裂いていた。 型どおり、室内に弾丸をばらまこうとした隊員は、次の瞬間右手からオートマティッ クの重さが消失しているのに気付いて唖然とした。数分の1秒で、本能的に床に身を投 げる。その上空を次のナイフが完全に計算されたタイミングで飛び、続いて突入してき た隊員の右手を貫く。 玲子が跳躍した。 銃を取り落として数瞬立ち尽くした隊員の横隔膜のすぐ下に、体重の乗った蹴りが炸 裂し、その身体を後方へ吹っ飛ばした。3人目の隊員はそれをよけきれず、2人の隊員 はもつれあって倒れこんだ。 最初の隊員は床に転がったまま時を費やしてはいなかった。ヘッドセットに何か英語 で囁きながら、ナイフを抜いていた。そのきらめきが消えぬうちに、玲子の長い脚が弧 を描くように宙を舞い、隊員の顎先を鋭くかすめた。脳をシェイカーで揺さぶられたよ うな気がしたであろう。190センチ近い巨体がぐらりと揺れた。 白目をむいて崩れ落ちた隊員を見向きもせずに、玲子は先ほど蹴り飛ばした2人の隊 員に向かった。玲子の蹴りを受けた隊員は呼吸困難に陥って喘いでいたが、その下敷き になった隊員は、邪魔なサブマシンガンを捨て、ハンドガンを抜いたところだった。 トリガーに指がかかった瞬間、銃口にナイフが突き立った。最初の隊員が倒れるとき 玲子がもぎとったコンバットナイフである。ハンドガンを振ってナイフを落としたとき 玲子は隊員の視界から消えていた。自分の上で喘いでいる仲間を荒々しく押しのけ、半 身を起こしたとき、玲子の膝が正確にこめかみにヒットした。 3人の隊員の戦闘能力を奪うのに5秒とかかっていない。 玲子は倒れた隊員のMP5を拾った。息もつかずに裏口に走る。玄関から外で待機し ていた隊員が突入してくるのがわかった。 裏口は玲子が始め飛び込んだ浴室のすぐそばにある。玲子は銃口を床に向けてトリガ ーを絞った。サイレンサーが銃口をかき消す。ちょうど踏みこもうとした隊員の文字ど おり足元に軍用フルメタルジャケットが着弾する。反射的に隊員は応戦した。玲子は床 に足からすべりこみ、頭上の火線を見ながら隊員の両足を蹴った。虚をつかれた隊員は バランスをくずして畳の上に倒れかかった。玲子は相手の体重を利用して、逆さに構え たサブマシンガンのストックを胃に叩きつけた。隊員は胃液を吐きながら悶絶した。 後続の隊員の姿がその向こうに見えた。その2人はすでにハンドガンを構え、正確無 比な狙いを玲子につけている。トリガーが絞られた。しかし、すでに玲子の手から2本 のナイフが顔面に飛んでいた。さすがの優秀な隊員たちもわずかに躊躇し、さらに玲子 の女豹のような身のこなしも加わって、発射された弾丸は玲子を捉えることができなか った。ハンドガンでナイフを叩き落とした隊員たちは、次の瞬間玲子の容赦ない蹴りを それぞれ心臓の真上と腎臓の正面に浴びてしまった。 これで半数が片づいた。玲子は向きを変えた。玄関から突入した3人は銃を乱射しな がら向かってくる。玲子を裏口の方へ追いやり、残りの3人がアンブッシュをかけると いうわけである。玲子は突入組に攻撃をかけた。 3人の突入班は飛んできた数個の白い円盤状の物体を視界に捉えた。銃火が浴びせら れ、それは空中で砕け散った。その破片を突き抜けるようにして、こんどはナイフとフ ォークが飛来した。 身を沈めてそれをかわした3人は、銃撃をわずかな間だが途切れさせてしまい、玲子 の接近を許す事になった。すぐに玲子の身体に狙点を定めたが、それは稲妻のように跳 躍した玲子の残像にすぎなかった。身体を丸めて低い天井を避けた玲子は、得意の蹴り を頭上から見舞った。1人が脳震盪で倒れた。銃弾が身体を掠めるのを気にも止めずに 着地した玲子は別の隊員の背後から手刀を首筋に叩きつけた。 銃を捨てナイフを抜いた3人目はそれをふるう間もなく、玲子の蹴りを正面から受け 止める結果となった。かろうじてブロックしたものの、ほっそりとした肢体からは想像 もできないほどのパワーを受け止めかねて後ろに飛ばされ、壁に激突した。態勢を立て 直す間もなく、第2撃をまともに腹部に食らい意識を失ってしまった。 玲子はそのまま玄関に向かった。裏口で待ちかまえている残りの隊員は無視するつも りだった。あまり遊んでいる暇はないのだ。 玄関を駆け抜けようとして、玲子は足を止め少女の死体に近寄った。優しくまぶたを 閉じさせてやる。 「何もしてやれないけど、仇はとってあげるからね」玲子は短く呟くと走りだした。
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