空中分解2 #2205の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
2.戦線布告状(予告状) 「春がきた。ああ、ついに来た、春が来た」 と、美香江は頬杖をつきながら、ぼんやり呟いた。 「美香江さん……それ、一体、何なんです?」 側で聞いていた佐山は、ついに尋ねた。 「何って……?」 そう答えた美香江は目も虚ろ。 「さっきから、春がどうのこうのって。もう、これで5回目でしたよ、呟いたの」 「そうだったかしら?」 いや、実の所、長井美香江はこの台詞をずっと呟いていたのだ。 これでは、佐山が声をかけたくなるのも当然であろう、というところ。 この女性の名前は長井美香江。25歳。そして、ここの場所は警視庁捜査一課。 彼女は結構、長くやっている刑事である。 まだまだ、衰えには遠い美貌を持ち合わせている。 ただ、少々、短気な所とユニークな所もあって……。 ----この佐山という男の方は、本名、佐山安弘。随分と若い23歳。 警視庁に入ってきてからは、日が浅く、美香江の部下として、忠実に任務をこ なしているが……余計なくだらない事まで口を出してしまうのが玉に傷。 今もほら……。 「大丈夫ですか? 独り言は老化の始まりなんですよ」 途端に美香江は顔を上げた。 「誰が老化の始まりですって!? 私はまだ十分、若いわよ!」 と、怒鳴った。 女性に歳や老化の話はタブーである。 「今度そんな事言ったら、パトカーで引きずってやるからね!」 佐山はその剣幕の凄さに少し後ずさりしながら、 「す、すみません! お若いですとも! いや、美しい! 薔薇の花さえ散って しまうようなその美貌と才知……」 美香江はここまで言われると、かえって馬鹿にされているような気がしてプイ と、そっぽを向いた。 その時----。 「おい、長井美香江くん」 と、声が聞こえた。 ん? 今、私の名前を読んだような……? はて、どこかしら? 美香江がキョロキョロ見回していると……。 「おい! ここだ!」 と、ついに雷が落ちた。 美香江は、やっとその声に気づき、その『雷』の方を向いた。 「……あら、課長、出張じゃなかったんですか?」 その『雷』にも怯まず、美香江は冷静に聞いた。 「……そんなもの、もともと行っとらん!」 捜査一課の課長、塚川浩三は、ため息をついた。 少し太り気味で、背広が伸びきっている。髪には白いものも混じってはいたが、 まだまだバイタリティはあるといった様子。 「大体、わしが目の前におるのに気づかない奴があるか!」 「あら、すみません。全然存在感がなかったものですから」 美香江は平気な顔で言った。 「……大体、わしも聞きたい。さっきから春がどうしたのとは、何だ?」 「ああ、あれですか。いえね、春になるといい気分になるでしょ。陽気になるで しょ。天気もよくなる一方だし。実に平和そのもの何ですよね」 「実にいいことじゃないか。わしたちの仕事がないと言うことは、世界が平和な 証拠じゃないか!」 塚川課長は、立ち上がって力説した。「それとも、何か? 君は仕事を増やし たいのか?」 「そうじゃありませんけどねえ」 美香江は、曖昧に返事すると、 「私は、バリバリ働くために、ここに敢えて女の身で入ってきたのに『トワイラ イト・キャッツ・アイ』を盗んだ、トワイライト本人たちも捕まえてないし……」 美香江刑事----彼女は、実際に前回、すんでの所でトワイライト----(前述の 通り、敬、類、優美、輝雪の事だが)取り逃がしてしまったのである。 くやしがるのも当然のことだろう。 美香江は、ため息をつき、頬杖をついた。 「あーあ。いっそ、もう一度トワイライトが現れてくれたらね……」 その呟きを塚川課長は聞き取って、目を見開き、とんでもない、という表情を した。 「わしは、この平和がずっと続いてくれればいい……」 塚川課長は、警察らしからぬ発言をした……。 が。 その時----。 「ちわーっ! 金山食堂でーす! ご注文のカツどん、お届けに参りましたーっ!」 と、元気のいい男の声が警視庁捜査一課に響いた。 そして、 「はいっ! お待ち!」 と、課長の机に置いた! 「なんだ?」 課長は不審気にその男を見上げた。「こんなもの頼んだ覚えはないが……」 「え? そんな筈は……だって勝川課長さんでしょ?」 「……わしは塚川だ!」 その出前男はキョトンとして、次の瞬間、笑いだした。 「ええっ? 嫌だなあ。間違えちゃった! まだ新米なもので……ハハハ……」 「ほら見ろ。----他の課の奴と間違えたんだろ」 課長は上目使いににらんだ。 その出前男は、眼鏡の具合いを直し、ポケットからくしゃくしゃになったメモ を覗いて、 「いいえ……。なんか、全然、違っちゃったみたいです……」 課長はその心許ない返事に、頬杖をついていた肘をガクンと思わず外してしま った。 「うーん、じゃあどうしようかなあ、これ」 と、その出前男殿は、どんぶりを困ったように眺めていたが、何かを思い付い たように、 「あ、じゃ、これどうぞ食べて下さい」 と、言い課長の机に再び、置いた。 「何?」 「どうせ、持って帰るのもかさばって面倒ですし。それに間違ったお詫びですから」 「い、いいのかね?」 たちまち、課長の顔は緩み、出前男殿をにらんでいた目は、神を見上げる目に 変わった。 「ええ、どうぞ」 その出前男殿は微笑して、「じゃ、どうも毎度!」 と、言い残して一課を出て行った。 一人ニヤついているのは課長だけである。 「実にいい青年だ……」 課長は猛烈な勢いで食べ始めた。 思わず、佐山や美香江、他の刑事らが目を見張る程の食べっぷりだった……。 「いやあ、旨かった! ごちそうさん!」 と、課長が言い、箸をカランと投げ出した。 食べ始めてから、たった5分だった。 いやあ、近ごろの若者はこうでなくてはいかん……」 「ん?」 お盆の中に何か紙が置いてある。何だろう? 自分の食堂の宣伝かな? ----ひょっとして請求書とか? ----まさか! 課長はそれをひったくって見た。 数字も何も書いてないところを見ると、請求書ではなさそうだ。 課長はホッとしたが、 ----次の瞬間、愕然とした。 警視庁捜査一課殿。 ついに近代美術館で、皆さんも知っておられる、例の美術品が公開されます。 宝石の川----。もう、お解りですね。 つきましては、その中のメイン、『女神』を狙わせて頂きます。 一般公開後、近日中にて。 では、近い内にお会いしましょう……。 トワイライト。 「大変だ! おい……一体、どういうことなんだ!?」 と、課長は一人で喚き散らした。 美香江はぼんやりしていて全然、気にも止めない。 「どうかしたんですか? 課長!」 仕方なく(?)佐山をはじめ、他の刑事達が寄って来る。 「そ、それが……」 課長はワナワナと震える声で言った。 「トワイライトからの予告状だ! 戦線布告文だ! まただ、また!」 課長は半狂乱のように喚いていて、頭を抱えていた。 「もう、おしまいだ! またしてもやられたら、もう、クビだ! 私の立場は ……私の立場があっ!」 他の刑事は、顔を互いに見合わせ、なす統べもなく黙って見ている。 それは、『面倒見きれないよ……』と、言った風情。 その時も、美香江は自分の世界に浸っていた。 トワイライト? それがどうしたって言うのよ。……それ位の事でガタガタ騒 ぐんじゃないの。たかが……。 そこまで美香江は考えて----考えるのをやめた。 さっきから聞こえていた言葉は、トイレのト、ワインのワ、イカのイ、ラッパ のラ、インクのイ、トマトのト……。 だったわよね、確か。 それで、全部をつなぎ合わせると……。 トワイライト……? 美香江は、ガタッと、椅子から思いきり立ち上がった。 トワイライトですって!? 「か、課長!」 美香江は、そう怒鳴ると、課長の胸ぐらを掴んだ。 「ほ、本当にトワイライトから、予告状が来たんですね? そうですね!」 「そうだと言っとるだろうが!」 課長も負けずに----いや、半ばやけ気味に怒鳴る。 ついに……また現れるのね、トワイライト。 前回は惜しい所で逃がしてしまったけど……。 今度こそ。 私が捕まえてやるわ。ついに年貢の納めどきってね! 今度こそ、正々堂々と勝負よ! 美香江は知らず知らずの内に拳を握りしめていた。 「ところで、課長、この予告状、いつ来たんですか?」 と、一人の刑事が尋ねる。 「い、今、カツどんと一緒に来た……」 課長はまだ呆然としながら言った。 「はあ……?」 「----あ」 と、その予告状を眺めていた刑事が、声を上げた。 「裏に、まだ何か書いてありますよ」 「何っ! なんて書いてあるんだ!」 「ええと」 一人の刑事が読んだ。「……カツどん、おいしかったですか、って……」 課長がヨロヨロとよろけて、ドスンと椅子に座り込んでしまった……。 <続く>
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