空中分解2 #2183の修正
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(5) 小学校五年の時。 塾の夏期合宿。 勉強が嫌いに、なった時。 恵の祖母の葬式と塾の合宿が重なったとき、母親はいやおうなく恵を合宿に行 かせた。 「わたしも、おばあちゃんの葬式でるの!おばあちゃんとお別れするの!」 恵にとって、母親よりも大切な祖母が、昨日死んでしまった。 仕事を持っていた母親は、勉強以外の恵のことを、祖母に任せていたから。 恵にとって、母親とは、勉強にうるさい、人、だった。 おこずかいをくれるのも、おやつを用意してくれるのも、服を買ってくれるの も、テストの点が悪くて母親に怒られたときなぐさめてくれたのも、すべて祖母 だった。 そんな大切な祖母がもういなくなった。 最期のお別れ。 なのに。 「何言ってんの。お別れなんて今日済ませておけばいいじゃない。葬式なんて、 子供は出なくてもいいの。あなたは、塾に行けばいいのよ」 母親は、頑として恵の願いを受け付けず。 結果、葬式の当日。 恵は、家から遠く離れた山の中にいた。 バスで3時間。 暑い日。 緑の山は光輝き、空は青く、白い雲が浮かんでいた。 そんな風景の中に、合宿所は建っていた。 緑の中の白い建物。 ーーー病院、みたい。 祖母が倒れてから一週間、通っていた病院に似ていた。 毎日、学校と塾のわずかな合間に、何度も見舞いに行った。 そんな恵を、母親は叱る。 『遊んでばかりいないで、勉強なさい』 ーーー遊んでない。遊ぶ暇なんてない。おばあちゃんのお見舞い行っただけなの に・・・・・・。 母親にとって、勉強以外の行動は、皆『遊び』だった。 塾こそが、最高の教育機関。 国立大学に行く事こそが、子供の幸せ。 そう信じて止まない母親が、恵の母親。 ーーー勉強は、好きだったよ。何かを知るって、計算を解いて、答を見つけるの って、好きだった。 好きだった、のに・・・・・・。 「加藤君、急がないと怒られるから・・・・・・」 窓の所で、ぼおっとしていた加藤 慎に話しかける。 「うん」 気のない返事。 近所で、よく母親に比較されている慎。 勉強熱心だと。 成績は恵の方が良かったけれども、いつ抜かれるか判らない。 しかし。 恵にとっては、ライバルというより、同じ境遇の仲間といった感覚だった。 「ねえ、天国って空にあるのかな・・・・・・」 だからこそ、こんな言葉が口について出た。 彼は、黙っていた。 そして、 空を見上げる。 白い雲。 それは、天国だよ、と。 夏期合宿では、心身強化も兼ねて、山登りがあった。 朝早くから、山に登る。 勉強しかしてきていない子供達にとって、それは体罰にも等しい責め苦であっ た。 それでも、山を登りきった時の景色。 眼下に見えるは、白い雲の絨毯。 今にも掴めそうな、真っ白な真綿の、絨毯。 掴みたかった。 乗りたかった。 あの上に乗れれば、どんなに気持ちいいだろう。 と。 その時。 慎が崖から身をのりだそうとしているのが見えた。 手をまっすぐ雲に伸ばして。 だけど。 ーーー危ない! 「加藤君!」 「加藤っ!!」 「慎っ!!」 幾多の声が重なった。 そして。 その声におされるように・・・・・・。 加藤 慎は、雲の絨毯に身を沈ませて行った。 (6) 雨が止んだ。 山や空が明るくなっていく。 恵は、白い絵の具をふんわりと青色に染めた空に、のせた。 「こんな色の空、だったわね。加藤君」 あの時、恵は、一人取り残されたような気分になった。 慎は、雲を掴みたくて、死んでしまった。 ーーー私だって、掴みたかった。 あの雲は夢、だったのよね。 現実から逃れられる、夢。 今だって信じてる。 天国は、雲にあるのよね。 「雲を掴みたいよ、加藤君」 空に雲を描いたら、家に帰らなければいけなくなる。 勉強漬けの毎日が、また始まる。 「雲を、雲を・・・・・・」 恵の頬を、涙が流れた。 涙を拭く。 スケッチブックを置いて、立ち上がる。 ゆっくりと、崖の方に歩いて行った。 大きな岩が張り出し、絶好の景色が見れる場所。 しかし、今は霧が漂い、はっきりと見れない。 「これも、雲、よね・・・・・・」 霧はまだ発生したばかりで、濃い塊のように、崖下を漂っている。 何となくだが、境界がはっきりしているように見えた。 まるで、絵に描かれた雲のように。 恵は、身震いした。 寒かった。 初秋とはいえ、まだ朝早い。 しかし、それだけではないような寒さだった。 「この雲を掴んだら、そしたら、そしたら・・・・・・」 恵の腕が伸びる。 「雲を、掴むよ、加藤君・・・・・・」 恵の手が霧の中に入った。 (7) くすっ。 くすくすくすくす。 恵は笑っていた。 くすくすくすくす。 「こんなの、掴んでも掴めないわよね。これは、細かな水滴なんだもの。掴める わけないものね」 一気に現実に引き戻された。 宙を掴むしかなかった手は、引き戻された。 崖下を見おろす。 霧はゆっくりと拡散していた。 もう、どこからが境界かは、判らない。 否。 境界があったということ自体、錯覚だったのかも知れない。 「もう、小学生じゃないもんね。雲を掴む、っていう事は夢のまた夢」 くすりと笑う。 空を見上げる。 雨を降らせた雲は遠ざかり、秋晴れのいい天気になりそうだった。 いろいろな形の雲が、空にある。 「私、夢なんかに逃げないわよ」 恵は、きっぱりと言った。 「お母さんが、国立大学に行けっていうんなら、私行くもの」 強い決意。 今までの想いが、吹っ切れたように。 「勉強しろってうのなら、私、するわ」 くすくす。 「私、お母さんの言う事聞いて、私自身は、私の中に潜ませるの」 ーーー今までしてきたように、これからもずっと・・・・・・。 恵は、絵を描き上げるために元の場所に戻っていく。 「早く絵を描き上げて帰らなくっちゃ」 スケッチブックを手に取る。 「お母さんの言うとおり、大学行って。それが、お母さんの目標だものね。大学 に入ったら、私は、私自身を表に出すわ。おばあちゃんしか知らなかった私自身 筆を持ち、白い絵の具を取る。 「負けないわよ、夢なんかに。加藤君、あなたみたいにならないわよ。覚えてら っしゃい、お母さん」 青い空の上に、白い雲を描く。 「これが、私の復讐なのよ。お母さんの目標どおりにしてあげることが、ね」 「大学さえ入れば、私は、私になるわよ。それが私の目標であり、そして、復讐 よ。何者にも束縛されない私になるのだから」 くすくすくすくす。 「お母さんの理想の未来像っての、そこで断ち切って上げる」 くすくすくすくす。 くすくすくすくす。 直線的な、赤い鳥居。 そして、茶色の神社。 その後ろの、複雑な模様の、緑の山。 山を囲むように、透き通るような、青の空。 そして。 そして、柔らかな真綿のような、白い雲。 雲。 「これが私の復讐なのよ」 「これが私の目標なのよ」 声が流れる。 その言葉と共に。 最後の、白い雲が、描かれた。 ーーー『雲』2ーーー 舞火 *****************************終*****
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