空中分解2 #2182の修正
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(3) 神社は山の中腹にあった。 長い階段を上がれば、開けた世界が広がる。 遠くに山。 広い空。 眼下には家。そして、ビル。 恵は、そこから見える風景が好きで、写生の時は必ずその場所を選んでいた。 平らな場所にシートを敷き、座る。 スケッチブックを開くと、この半年の授業で描いてきた絵。 ・・・・・・高校にもなって、写生の宿題が出るなんてね・・・・・・ 軽いため息。 選択科目で、美術と書道と音楽。 書道は何となく嫌で、音楽は音痴。となると、 美術。 美術=絵。 今日の写生も、先生が芸術の秋だから、という理由で出した、宿題。 絵を描くことは、嫌いではない。 ・・・・・・だけど。 宿題は、嫌い・・・・・・ それでなくても進学校故に、毎日多量に出る宿題、予習復習に四苦八苦している恵にとって、好きな絵といえど描く時間などなかった。 そして、絵が描ける、という事でも、それが宿題故に、嫌いであった。 それでも。 それでも、救いは、それが写生であったというべきであろうか。 「こんな理由でもなければ、家から出れないものね」 ため息。 教育熱心な恵の母親。 暇さえあれば、『勉強しなさい』。 国立大学に入ることが目標。 小さいときから、常に、それが目標。 しかも、小学校の頃、塾の夏期合宿があったせいで、大好きな祖母の葬式にすら出してもらえなかった。 これで、どうして勉強が好きになれようか。 ・・・・・・。 「写生、か。何を描こうかな」 暗くなった自分の気持ちを振り払うように、恵は、努めて明るく言った。 辺りを見渡す。 「時間もないものね。家々を描いてると時間かかるし・・・・・・」 時間がかかることは避けなければならなかった。 と、恵の瞳に、白い塊が横切った。 雲。 空。 水色の空。 流れるような白い雲。 神社のさらに上方へ伸びる山の頂で、くっきりと色が変わる。 山の緑と空の青。 そして、雲の白。 描きたくなった。 「そうね。神社と山と空と雲」 恵は、場所を変えた。 指で四角をつくり、描く場所を選ぶ。 鉛筆を握った。 「神社と山と空と雲・・・・・・」 直線的な、神社と 複雑な模様の、山と 広大な、空と そして、 柔らかな真綿の、雲。 (4) 白い紙に、黒いかすれた線がはしる。 左下方に、鳥居。 その後ろに、神社。 A3の大半を覆う、山。 そして、残り3分の1は空。 雲を示す線が伸びている。 「これで、下書きはいいわ」 恵は鉛筆を置いて、下書きと景色を見比べる。 と、空を見上げた恵の目が、はたと止まった。 「雲が増えてる」 それまで、薄く伸びていた雲が、どんどん厚くなり、増えている。 色も、白から灰色へ。 こころなしか、辺りがどんよりとしてきた。 色が、沈んでいる。 「雨が降るのかしら?」 そんな筈はない。 恵は、昨夜の天気予報を思い出す。 『晴。所により曇。降水確率は十パーセント・・・・・・」 ・・・・・・そんな筈、ない、ことも、ないのか。 十パーセントというのは、まったく降らない、ということではない。 降るか降らないか、どちらか。 その確率が降る方に十パーセント。 たとえ、十パーセントでも降る時には降る。 そうこうしているうちに、どんどん空の雲は厚くなる。 どこか、夏のにわか雨のような雲行き。 恵は、慌てて荷物をまとめ、神社の軒下へ避難した。 「下書きは描けてるから、ここで色つけようっと」 絵の具のセットからパレットと筆、そして、絵の具を取り出す。 絵の具は、水性だが、油性のような雰囲気も出せるもので、水をできるだけ使わずに描くように言われていた。 「鳥居の赤。山の緑。空の青。雲の白・・・・・・」 恵は、まず山の緑から手をつける事にし、緑、茶、白、黄の絵の具を少量ずつパレットに取りだした。 その時。 ぱらぱらと音がし、直後、軒先の葉先ではねた水滴が、恵の足元に落ちた。 「・・・・・・雨。よかった、避難してて」 恵は、それ以上、雨を気にせず、次々と色を載せていった。 雨はそう激しくなく、ぱらぱらと、それでも降り続く。 時間が経つにつれ、もやが発生し始めた。 参考にしていた、山の色が、どんどん見にくくなってくる。 「この山の色では、空を青くすると、アンバランスよね。もっと明るい色にしなきゃ・・ 」 白を混ぜ、黄色を混ぜ、少しずつ明るい山の色を作り上げる。 神社は茶色がメイン。 鳥居はできるだけ鮮やかに、ほとんど赤一色。少し影をつけて。 空の青は、白と青、そしてほんの少し紫を混ぜて、作り出す。 そして、雲。 できるだけ、白一色にしたいため、新しい筆を用意し、白のみを取り出して筆につける。 下書きに描いた線は、空の青に隠れてもう、見えない。 恵は、山から空の端に向けて、すうっと白を延ばした。 できるだけ、淡く、真綿のように、白を載せる。 山の頂上付近の空に白を載せる時、ふと、恵の手が止まった。 ふっと山を見上げる。 雨に濡れ、重く、暗い山の色。 「あの時。おばあちゃんの葬式の日の合宿の時、登った山。あの山も、濡れてて、こんな色だったわね」 神社の茶と、赤。 山の、緑。 空の、青。 そして、雲の、真綿の、白。 思い出すのは、あの時の山。 それは、『死』の色。 *****************************続******
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