空中分解2 #2171の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「え? 今日ですと?」 「はい、そうなんですよ。いつもは締め切りの火曜日に、いつの間にか届いて いるんですがね。今週は、先刻、電話があって、『予定より早く仕上がったの で、たまには取りに来てもらいたい。場所はX公園。時間は午後二時』という ようなことを、言ってきたんです」 「げっ! もう二時十分ではないですか! どうして連絡してくれなかったん です! い、いや、それよりも、誰が会いに行ったんです? それから、どん な声でした、電話の声は?」 吉野の剣幕に、佐木も早口になる。 「あ、会いに行ったのは、二宅徹というウチの編集者の一人です。それから、 狂本氏の声は、そうですな、何か押し殺したような声でした。男か女かもはっ きりしないような……」 「くそっ。いや、どうも」 吉野刑事は、たたきつけるように電話を切ると、一人でX公園に直行した。 X公園は郊外にある、割と大きな物で、それでいて人通りは多くない。吉野 は午後二時二十分に何とか到着したが、そこに狂本らしき人物の姿はなく、目 に映ったのは、連載原稿の第二回目と、受け取りに行った編集者、二宅徹の遺 体であった。 二宅の遺体は、X公園の奥の小さな林で見つかった。死因は、ロープ状の物 による絞殺。凶器と思われる電気コードの切れ端が、現場には落ちていた。死 亡推定時刻は、佐木編集長の証言を合わせて、午後二時〜二時十五分頃と出た。 遺留品である原稿や電気コードからは、やはり指紋は出なかった。 ただ、原稿は全てワープロで書かれているものと思われていたが、一箇所だ け肉筆の部分があった。内容は今度の二宅徹殺しまでとなっているので、被害 者の名前を書く必要があったらしく、何という名前の編集者が来るか分からな いので、肉筆となったのだろう。 原稿自体は、今まで通り、事実のようであった。驚いたことに、人の台詞ま でが、ほぼ忠実に再現されていた。ただ、一つだけ、まだ実現していない点が あった。それは、 <『今度の事件も、彼に頼むしかないな。そう、私立探偵の赤川修に』 吉野刑事は、こう考えた。 > という点である。 「赤川修か……。彼の名前を知っているということは、どうやら、今度の事件 にも、超人仮面が関係しているようだな。狂本の小説通りになるのはシャクだ が、赤川に会ってみるか」 「俗に『週刊推理ing殺人事件』と呼ばれている殺人事件を御存知ですか?」 翌日、赤川修を訪ねた吉野は、すぐに切り出した。 「ああ、知っていますよ。今朝の新聞に第二の殺人があったと出ていましたし。 それが何か?」 「マスコミには一応、伏せといたんですが、第二の事件で、現場にあった狂本 の原稿に、あなたの名前が出てくるんですよ。これは、例の超人仮面と関係が あるんじゃないかと思いまして、来た訳で」 「……あると考えられます。さして有名でない私の名前を出す、いや、知って いる人で、わざわざ名指しで挑戦めいたことをしてくるのは、超人仮面ぐらい でしょう。まあ、次回の原稿に、私が超人仮面の名を口にしていてれば、確実 でしょう」 「なるほど。では、赤川一郎名義のの小説として、私とあなたが解決した二つ の事件が出版されているが、弟の一郎さんは、亡くなられている。出版社に問 い合わせても、不明だった。となると、誰か作者に心当たりは?」 「いや、分かりません。あれは、出版社が自分達には無断で出した物だから。 少し、腹も立ちましたが、裁判沙汰も面倒だし、名前が売れると思えば……」 「ふむ。一つ、手がかりが見えたような気がしますな」 「ど、どういうことです?」 赤川修は、急に緊張感を高めたように見えた。 「今度の事件の小説の作者・狂本死郎、これまでの事件の小説の作者・赤川一 郎−−これは偽名でしょうが−−、この二人は同一人物、しかも超人仮面とも 同一ではないか、ということですな」 「そう言われると……。でも、『交通信号殺人事件』や『超人仮面登場』では、 犯人が二人いるかのようにほのめかしてある……」 「それは、そう思わせるための手かもしれないし、本当に二人なのかもしれな い。だが、偽の赤川一郎、狂本死郎、超人仮面の三人が仲間のような関係であ ることは、明白でしょうが」 「では、正確な会話はどうやって?」 「盗聴器を使ったのだと思いますね。超人仮面は変装の名人だから、どこにだ って入り込めるし、自分で事件を行う訳だから、だいたい、どこに仕掛ければ よいかも分かります」 「ふむ……。でも、しかしですね、偽の一郎にしろ狂本死郎にしろ、あるいは 超人仮面にしろ、結局のところ人前に現れていない、正体不明の人物なんだか ら、あまり意味がないと思いますが、それらの推測は」 「確かに。赤川一郎名義の原稿も調べているんですが、指紋は出ないようでし て。今度の事件でも、凶器は大量生産で期待できないし、郵便配達の制服は手 製のようで、これも無意味になりそうです。しかし、奴は筆跡を残した。これ が決め手となり、犯人が逮捕できると確信している。おっと、それから、呂久 分喜子に急の原稿を頼んだ出版社によると、穴を空けた作家は、赤川一郎だっ たのです」 「これはもう、確定ですかね。だが、どうして超人仮面は、呂久のアリバイを 作ってやるようなことをしたのかな?」 「あなたの方が詳しいかもしれませんが、超人仮面は自ら犯人と名乗りたいの ではないでしょうかね? だから……」 「ところで、第二の事件の、一応の容疑者は?」 「芳しくないですな。仕事ぶりは真面目だし、仕事仲間や作家とのトラブルも なし、家庭生活もうまくいっていた。二宅という男は、珍しいほどの真面目人 間だったようですなあ。ただし、理想家肌が強かったみたいで、しょっちゅう、 雑誌の作り方において、佐木編集長と口論になったこともあったみたいですが、 それはあって当然ですからな」 「で、佐木という人の、第二の事件でのアリバイは?」 「調べるまでもなく、私と話し中でした。電話でね」 「やはり、超人仮面が犯人ですか」 「そのようです。ところで、最後に、近日内に怪しい人物が訪ねて来たり、電 話をかけてきたりしませんでしたかな?」 「別に……。それが何か関係あるんで?」 「いや、盗聴器を仕掛けに、ここにも超人仮面が来たんじゃないかと思いまし て。念のため、ご自身でも捜してみて下さい。では、この辺で」 吉野刑事はこう言い残して警察に戻ると、真っ先に盗聴器を捜した。だが、 どこにも見あたらない。 「おかしいな。おい、わしがいない間に、誰か外の者が来たか?」 吉野は、その場にいた若い刑事の一人に聞いた。 「いえ……。ああ、ラーメン屋なら来ましたよ。醤油ラーメン一つを出前しに。 誰が注文したのか分からないんで、そのときおられなかった吉野さんが頼んで いた物だと思い、机の上に」 「やられた! そのラーメン屋は、超人仮面の変装だ! この部屋に仕掛けた 盗聴器を外しに来たんだ。ラーメンのどんぶりを調べろ」 若いのがどんぶりを調べてみると、底に盗聴器とワープロ文字のカードがあ った。 <さすが、日本の警察は優秀だな。だがね、私を見つけることはできまい。ま あ、せいぜい、赤川修と協力して、頑張りたまえ。超人仮面より> カードには、こうあった。 吉野は、赤川修の家に、とって返した。 「……という訳です。やっぱり、盗聴器だったんだ」 「それで、吉野刑事。他の場所にも盗聴器が?」 赤川は、興味深そうに質問をした。自分の家だというのに、相変わらず、袖 の長いコートを着ている。 「いや、第一の事件の現場となった目田の部屋、週刊推理ingの編集部とも に、見つかりませんでした。恐らく、超人仮面が変装した上で、取り去って行 ったんでしょうな。そして多分、この部屋にも残っていないでしょう」 「あ、大事なことを言い忘れていた。盗聴器、見つかったんです、この家で。 捜すように言われてからやってみたら、ありましたよ。この灰皿の下に」 赤川修は、目の前のテーブルにある、大きな灰皿を指さした。 「で、盗聴器はどうしたんです?」 「聞かれないようにと思い、金槌で叩き壊しました。残骸ならまだ手元にあり ますが」 「駄目ですなあ。すぐに知らせてくれなくては。一応、こちらに渡してもらい ますか」 吉野は、赤川の行動をたしなめつつ、残骸を預かると、また戻って行った。 数日後、「週刊推理ing殺人事件」の第三回分が届けられるはずの日とな った。今回は、先週のように、急に指定しては来なかった。 吉野刑事は、用心のため、二日前から編集部に通っていたのだが、何事もな く、今日を迎えたのであった。 「来ませんな」 と、吉野刑事。 「いつも、いつ来たのか分からないんですよ」 答えたのは、佐木編集長。彼は続けた。 「いやあ、しかし因果なもんです。私の親は、私に医者になってもらいたくて、 名前も命救人なんて付けたんですが、その私が、空想とは言え、殺人が山と出 てくる推理小説が好きになって、こんな雑誌の編集長をやってるなんて。その 上、現実の殺人事件に巻き込まれるとは、好運……。おっと、こいつは不謹慎 でした。どうです? もし、今度の事件で謎解きをやるような場が持てたなら、 私にも一つ、推理を述べさせてもらえませんかねえ」 「何か考えがおありでしたら、今、ここで伺いますが」 吉野は、にがむしを噛み潰したような顔になりながらも、落ち着かせた声で 言った。 「そりゃないです。ぜひ、自分の口から、発言したいのですよ。事件の全関係 者の前で」 「分かりました。勝手にやって下さい。ただし、あんまり目に余るようでした ら、公務執行妨害となりますんで、ご注意を」 呆れつつ、吉野は釘をさしてやった。 それからしばらくして、 「すみません、こちら週刊推理ing編集部でしょうか。狂本死郎って方の原 稿を持って来たのですけど」 と、わざとらしい丁寧さを含んだ口調の、女の声がした。 緊張感を高めた吉野は、佐木に目で合図を送った。「はい」と佐木編集長が 答えると、ドアが開く。そこには、黒服でサングラスをした、厚化粧の女性の 姿があった。 「そちらは?」 「私、狂本氏に頼まれて来ました、吹口増夜という者ですの」 女の答に戸惑った佐木は、吉野の方を見た。編集長に代わり、吉野刑事が聞 き役になる。 「ええと、あんた、狂本氏にあったのかい?」 「ええ。昨日、道端でいきなり。原稿と十万円を渡されたときには、びっくり しちゃったわ」 「そ、それで、どんな男だった?」 たまりかねて、叫ぶようになる吉野。 「そうねえ……。黒のサングラスかけてて、よく分からなかったんだけど、い い男だったわ。……あれ? 言われてみると、印象に残ってないものねえ。身 につけていた高級品に気を取られてたせいかしら」 「くそっ! やられたか。とにかく、あんた。詳しい話を聞きたい。事件のこ とは知っているだろうね? ……」 吹口増夜は、とある小さな飲み屋のホステスだと名乗った。年齢不詳。化粧 でごまかしているが、かなりの年齢だと見える。 狂本と名乗る男とは、昨日の午後一時頃、目が覚めて朝食を買いに行く途中、 道で声をかけられ、いいバイトとして、原稿運びを頼まれたと言う。 原稿の中身は、謎の女が狂本の原稿を届けに来たところで終わっていた。今 度も全文ワープロ、指紋もなしであった。 −NEXT
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