CFM「空中分解」 #1763の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
7.人のいる無人島 歩き疲れた。鎖を持って動くのは大変な運動量だ。二キロの海岸を行ったり来たりす るだけで、疲れるのに。ただでさえ暑いのに。 そろそろ家族連れは帰り始めていた。もうそんな時間だった。三時を回りかけて 砂浜も短くなってきて、波も気のせいか荒くなったようだった。 「どーしよう。ほんとに絶望的になってきたね」 「私、嫌よ。手首切り落としたりするのも、このままこんなの付けてるのも」 「弱気。なんだよ、その顔。平気だよ。何とかなるって」 「自分で絶望的だって言ったんじゃない」 そんなこと言ったってさ。どうしようもないよ。鎖は切れるだろうけど、手首のこれ は鍵がなきゃ…… 「そうだよ。合鍵つくるところで鍵作ってもらえば?」 「なに馬鹿なこと言ってんの。元の鍵がないのよ」 彼女の言葉遣いも変わってきてる。このまま、悲しくなるのはやだった。カレーを食 ってたときのように、今こそギャグで明るくせねば。 「そうか、それはキィつかなかった」 沈黙。失敗だっ。あまりにくだらなすぎた。ここまでくると、自分自身をフォローす る気にもならない。 「……さやかさん。俺、海入っていいかな。今日、このせいで遊んでないし、せっかく 海に来たのに、全然入らなかったんじゃ、もったいないから」 「やだ。泳げない」 「俺も泳げない」 また沈黙。どーにもなんない。砂浜にへたりこんで、ただ海見るよりしょうがない。 一人で海入って、バシャバシャしてたらアホ同然。だけど、一人にもなれない。 「ねぇ。黙ってないで、なんか話そう」 自分でそう言っといて、何にも話題が思い付かなかった。しばらく膝を抱えて、海を 見てた。サングラスも外した。空いてるほうの手で、砂をすくったり、落書きしたりし た。そんなこと、面白い訳もなかった。 これが恋人同士ならわけが違う。沈黙が金になったりするのだ。だが、俺達はそうは いかなかった。だから、ダメでもともと…… 「俺さ、毎年砂に埋められてんだよ。中学生の頃からだぜ。今年埋められて、七年目だ よ。去年は東京ドームの形にされた。その前だと……面白いのは……ラッコとか、ウー パールーパーかなぁ。そうそう、エリマキトカゲってのもあった。うつぶせに寝かされ て、シャンプーハットって知ってる? あれを首にかけられたんだ」 さやかは、こっちを向かなかないで、正面の砂を見ていた。けど、笑ってくれた。 「誰がそうゆうの考えると思う? あの三人の中で?」 ちらっとこっちを向いた。でもまた砂を見つめ、 「信一さんって人でしょ」 「あったりー。ピンポンピンポン」 俺も、どっかで鎖のこと考えてて、笑いが突き抜けなかった。 「なんかさ、人がいなくなってくると、ここ、無人島って感じしてこない? 俺達は本 物の囚人でさ。船で運ばれてるとき難破しちゃうんだ。しかたないから、二人で暮らし 始める……」 俺の本心だった。今日一日、彼女と一緒にいなければならなかっただけで、なにか、 とても遠くに流されてきたような気がする。 「やめて。黙ってて」 さやかには気に入って貰えなかった。ひょっとすると、俺自身も嫌われてるんじゃな いかって思った。 時間が来た。もう四時になりかけてる。待ち合わせの場所に行かなきゃ。 人は減った。後残っているのは、監視員と夕日を待って店でお茶してる若い男と女。 鍵を持ってるかもしれない子供と家族はもういない。 鎖が砂をズルズル引きずった。かったるそうに、しょぼくれるさやか。俺は男だ、い っちょ言ってみるか。 「歩くの疲れた? なら、おぶってやるよ。ほら」 「……うん。重いかったら言って」 「ちっとも重かないよ。さやかさん、スリムだし」 「ありがと」 8.ざ・でい・あふたー 鎖が切れて、それっきり。まるで鎖が彼女との唯一のつながりだったみたいだ。ま 確かにそうなんだけど。 もし外せた場合のことを考えて、互いの住所と電話番号は知ってた。でも、電話する 気にはならなかった。パワーリストのように、纏わりついてるこの重たい腕輪のことを 考えると、とてもそんな事はできない。タワーで撮った写真も、現像しただけ。彼女に は送ってない。しっかり、鎖も写ってるし。もう、こんなこと思い出したくもないか おそらく、さやかさんもそうだったに違いない。だから、もう彼女とはなんでもない。 受験勉強にも手が付かなかった。とにかく重い。二時間も勉強すれば、手が震えてし まう。外そうとして、むりやり引っ張って血だらけになることも、度々だった。彼女の ほうはもっと苦しんでるんだろうって思うことはある。でも……もう他人だ。 八月の終り、差出人のない封筒が届いた。開けると、ハートの付いた鍵と、メッセー ジが出てきた。メッセージは、遅れてすみませんって事と、悪意のある悪戯ではないと いうことが書いてある。その紙の隅に、キューピッドのマークが描いてあった。 俺は気になる事があって卒業文集を見た。手書きをそのまま印刷したやつで、なんと もワイルドな卒業記念の品だった。迷わず信一の文字を見た。 そうか……そうだよな。それにしても意地の悪い…… そう思いつつ、顔がほころんでいた。俺は電話に飛び付いていた。 笑顔で彼女に会えるんだ…… おわり
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