CFM「空中分解」 #1760の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
3.カナノコはイズコ? 当然かもしれなかったが、海の家に『カナノコ』はなかった。彼女も連れがいたの すぐ海を離れる訳には行かなかった。これは、ご都合主義だ。俺はそう思った。ずっと 何処へもいかず、時も止まって、二人でいれればいい。馬鹿みたいだが、そう思った。 「あの男の子を探すしかない」 「ずっとこうしてれば、誰か助けてくれんじゃない」 実際、夜までこうしていたかった。助けてくれることなんて、体に付いた砂粒ほども 思っていない。 「うるさい! 探す!」 僕は重大なことを思いついた。例えて言うなら、アインシュタインが物理学を変えた ような衝撃だった。深遠なる謎を一気に解き明かす、魔法のキーワード。 「ねぇ。君の名前はなんてぇの」 「あー? なんなんだ、おまえは」 「君の名は? 俺は山村伸彦。ねぇー、これも何かの縁だしぃ、君って可愛いしぃ」 「あー、むかつく」 何度も、しつこくたずねた俺はようやく硬直した局面を乗り切った。 「……小島さやか」 「さやかちゃんっての?」 「うっさい。なれなれしく呼びやがって」 俺の勝利。思わず『赤くなった。やーい』と叫びたかった。言葉が悪いぶんだけ、赤 くなった彼女が可愛く思えた。普段、俺は『不良のほうが案外、やさしかったりする』 という一般でよく言われることを嫌っていた。普段悪い事してれば、たまに善いことを するとすごくよく見えるなんて、卑怯な気がしていたのだ。しかし、このときばかりは 別で、『やっぱり根はかわいい女の子なんだ』と思った。 俺と彼女は二人でバスタオルを干しているかのように見えただろう。鎖をピンと張る には結構腕力がいる。俺はもっと近寄って、鎖を引きずるように提案したのだが、彼女 は意地を張って、 「バスタオルが落ちるほど近寄ったら、承知しないからね」 と、そう言った。 浜は混んできた。さやかさんも腕が疲れたらしい。言った自分のほうからこっちに寄 ってきた。 「人がいっぱいで、邪魔になるから、そうしただけ」 きっと腕が疲れたんだ。いや、結構、俺のことが気に入ってたりして…… 「彼女、ひとり?」 ステレオタイプのかびの生えた文句。一番分かりやすい、ナンパ男を表現する台詞。 だが、その言葉をさやかに言った男は背が高く、男前で、焼けた肌としまった筋肉。… …は、でかそうだが、身につけている水着は小さい……という、色男。どう見ても勝ち 目はない。この設定じゃ勝ち目がない。まるで、ブルーワーカー(だっけ?)の宣伝漫 画みたいだ。『彼女はぼくを貧弱な坊やと呼んだ……』みたいな。 「ひとりよ」 「一人なんだ……ずっとひかかっててね。君がメロンプラッペが好きか、それともイチ ゴかって。無論、おごるよ」 案外気取った誘い方だな。俺は右腕を振り上げ、振り下ろし、思いっきり鎖を振っ 鎖は『Ω』になって彼女の左手に進み…… 「いてっ。平手打ちを……なんだこの女。鎖つけてんのか」 さやかは俺を睨みつけた。 「この野郎……」 さやかはその男の前から走り去ろうとしたが、鎖が伸びきってコケた。俺もコケた。 4.かれー 「あー、うざってぇ」 旨くもないカレーを食っていた。 「この損害、あんたにわかる?」 俺はテーブルの下に右手を隠さねばならず、カレー食うには、けっこう辛いもんがあ った。 「あんな男、そうそう声かけてくれないぜ。どーしてくれんだ」 こんなに左手で食う事が難しいなんて、初めて知った。別に鎖してるからって、それ を隠さなくてもよさそうなもんなのに。その上、食事中、ずっと喋りまくりやがって。 うるさい、うるさい、うるさい。 「マキ、トモ、カズエ……皆心配してんだろうな。それもこれも、お前が悪いんだ」 「どーして俺が悪い」 「あんた連れてったら恥かいちゃうだろ。さっきの男ならまあまあ威張れるのに」 「俺の何処が悪いっ! さっきのやつよりゃ、少しは背は低いが、お前よりは高いぞ。 それにさっきの男の……」 ○○だったら俺のがでかい、と言いたかったが、ふと冷静にもどってしまった。どっ こいか? いや、少し小さいかな…… 「あーうざってぇ」 さやかは半分食べたところで止めた。タオル地の上着をつっかけてる。そして、びっ くりするほど細いタバコを取り出した。 「こっちが食ってるところにケムを吹きかけるなよ」 「あんだって?」 「怒るぞ。俺だってなー、怒るときはだなー、いいかー、よく聞けよー、あるんだぞ 「語尾伸ばすの止めろよ。くらげ男」 くっ、くっ、くらげ男だとぉー。か、完全に怒ったぞ。 「こっ、こっ、この「「」 「コケェーコッコッ」 俺は言い返す出鼻をくじかれた。周囲の笑いを浴びてしまった。開き直りが肝心だ。 ここで怒るほうがどうかしてた。冷静になれ。伸彦、ギャグで切り返せ。さあ、頭をフ ル回転させて、ターボをかけろ。なんかうまい言葉はないのか。 「さあ、行くよ。しょうがないから」 「……うん」 結局、なんにも浮かばんかった。あー。自分でもヤんなる。これだけ言われて、何に も言い返せないなんて。 「ほら、ボケっとしてないで、金だせよ」 「おごれってのか?」 「あ、た、り、ま、え。それが当り前ってもんよ」 あんだけ恥かかされておごれだとぉー。んっっったく! どーゆー教育を受けてきた んだ、この女。 「やっぱ、しょうがないから友達に話して相談しよう。どう? あんたの友達って頼り になる?」 「んー。信ちゃんならね。スコップ持ってくるくらいだから、なんか道具持ってるかも しれない」 「何処にいるの」 「多分、さっき俺が埋まってたところだろう」 「私の友達も多分そこにいると思うんだ。男めっけてなければね」 「友達に相談するより、ここらへんの工場見つけて、切断したほうが楽になるんじゃな いかなぁ?」 俺は正直、あいつらに顔を会わせたくなかった。とーぜん、さやかの方の友達にも 目茶苦茶に悪口言われて、一生恥かくことになる。その光景が目に浮かぶようだった。 さやかはぐいぐい左手をひっぱって、俺を歩かせた。 つづく
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