CFM「空中分解」 #1743の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
(9)石に託されたもの コンステレーションは、SMFG(超磁場発生器)が作り出す見えないトンネルの 入口の宇宙空間にいた。 艦の前方には大きく赤く見えるジュピター。そして、視界を覆う巨大惑星の輪郭に 接する所に、滲んだようにイオが見える。そのイオの先に、ソラリア連邦の五千万ト ンの恒星間移民船が、エリダヌス座イプシロンに向け、航行しているはずだった。 「SMFGスタンバイ、オーケー」 「エネルギー反応炉、十の二十乗ジュール。臨界点に達した。発射管制装置はオール グリーン」 「スペース・パラソル一番艦の現在位置は、イオから五十万キロの宙域、コースJQ 61199で外惑星に向かって秒速三十キロで航行中。二番艦以降は、各艦とも三十 秒差で航行中」 「ターゲットは一番艦。同艦撃沈後、二番艦以降を順次攻撃する」 ハイパーカーボンを基調として構造設計されているコンステレーションは、船体中 央部を貫く数本のパイプが特徴だった。そのパイプは、後部エンジンに直結する球形 のエネルギー反応炉から船体中央を抜けて、船首のラッパ状の開口部につながってい る。 既に臨界点に達していたエネルギー反応炉では、最終段階へ移行するために、磁場 エネルギー制御バリアを徐々に弱め、船体中央のパイプに送り込み始めた。 船首の直径五十メートルあるラッパ状構造物の中央部が、次第に明るくなり始めて いた。 「艦首ビーム砲、エネルギー上昇中。発射四十秒前」 ビーッ・ビッビッビッ。ビーッ・ビッビッビッ。ビーッ・ビッビッビッ。 「接近警報!」 「何事だ。確認しろ!」 「非常事態! 艦後方から、高速で接近中の物体あり。流星雨と思われます」 レーダー手の悲痛な声が報告した。 「本艦への直撃コースです。衝突まで、あと二十七秒」 「エンジン全開!」 「メイン・エンジン、始動できません!」 「補助に予備パワー投入! コンピュータに最適回避行動を取らせろ」 ビーム砲にエネルギーを投入しているコンステレーションは、メイン・エンジンが 使用できなかったのだ。 「ビーム砲へのエネルギーをカット。メイン・エンジンに回せ!」 「艦長、そんなことをしたら、エンジンが吹っ飛びます」 「分かってる! 少しだけ回せ。いいか少しだけだ」 コンステレーションの側面の高機動バーニヤが、猛烈なエネルギーを吐き出した。 その炎は、全長百五十メートルの船体の三倍にも及んだ。 「衝突まで、あと十五秒」 艦はゆっくりと動き始めたが、巨大な質量と慣性はなかなか乗員の思いを理解しよ うとはしなかった。 「衝突まで十秒……。九秒……八秒……七秒…」 マスドライバーの五百トンパケットが発射したイリジウム鉱石は、小は豆粒ほどの 大きさから、大は直径数メートルのものまで数万個。それが、コンステレーションを 狙っていた。 「第一陣、左舷方向を通過!」 艦内に歓声が上がった。回避行動が間に合ったという安堵の歓声だった。 しかし……。 コンステレーションの艦尾のエンジンノズルの一つが吹っ飛んだ。 強烈な衝撃が艦を襲う。乗員は、耐Gシートに座っていたが、ベルトを着用してい なかった者は、投げ出され、床や天井にぶつかった。 エンジンノズルから、数十個のイリジウム鉱石がエンジン内部に食い込んだ。 衝撃を受けた艦は、胴体中央を中心にゆっくりと回転を始めた。そのため、流星と 化した鉱石に対する面積が大きくなり、被弾する確率が上がった。 六本のマスドライバーが一秒間隔で角度を変えて発射した鉱石は、ものの見事にコ ンステレーションの回避コースと一致した。 船体に次々に穴が開く。無数の鉱石が散弾となって、船体に食い込んだ。 その艦内は、まさに地獄絵図さながらだった。 空気の流出する音。非常ハッチやドアが緊急閉鎖される音。乗員の悲鳴。回路がシ ョートし火花が散る音。罵声。命令。警報。ハッチの吹き飛ぶ音。何かの爆発音。 照明が消え、非常灯で照らされた暗い船内に、火花が散り、閃光が光る。白、黒、 青、様々な色の煙が壁や天井、床から吹き出す。 小さなイリジウム鉱石は、秒速二十キロで船内に飛び込むと、その運動エネルギー を熱に変えて、可燃物を燃え上がらせた。その後、鉱石は壁や天井で跳ね返り、その 過程で脆い肉体をいくつも貫いた。 操舵室では、トミタ艦長が血が溢れ出る腹を抑えて耐Gシートにうずくまっていた。 「エンジン……。エンジンを……」 トミタの周りの乗員の殆どは動かなかったが、声にならない艦長の声を航法手が聞 いていた。 彼は、コンソールの蓋を開けると、赤い非常始動スイッチを右にひねった。 ビーム砲に注ぎ込むはずだった反応炉内の臨界点に達したエネルギーは、その矛先 をメイン・エンジンに向けた。 突然のエネルギーに生き返ったエンジンは、後部ノズルから推進エネルギーを噴射 しようとしたが、エンジン・ノズルの大半は破壊され、エネルギーパイプは途中で破 壊されるか、詰まっていた。 行き先の無くなったエネルギーは、コンステレーション自身を内側から破壊した。 木星をバックにとてつもない規模の閃光が走った。 浮遊鉱山の者には、あまりにも強烈な光のために、木星そのものが爆発したかのよ うに感じた者も少なくなかった。 無音の宇宙で、その爆発音が聞こえなくて幸いだった。もし聞こえていたなら、そ の轟音を聞いた者は、ことごとく鼓膜を破られていたはずだ。 だが、爆発の衝撃で飛び散った破片と強烈なエネルギーは、遮るものの無い真空中 を伝わり、千キロの空間を越えてKLS9023Bを襲った。質量百五十億トンの小 惑星は、人間の作った船とは違い、脆くはなかったが、それでも機械や部屋の幾つか が破壊された。 特に真空に剥き出しの中央管制室の被害は酷く、僅かに残った鉱山の男達に微小な 流星が襲いかかった。 猛威が去ったあと、スペーススーツを着た一握りの人間が、ゆっくりと床から立ち 上がった。 その中にロックの姿もあった。 −−−−−−−−−−−(TO BE CONCLUDED)−−−−−−−−−−
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「CFM「空中分解」」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE