CFM「空中分解」 #1739の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
(5)スモーク・リングのように 「視察団長」 「あらたまって、どうしたの? ルヲ」 中央管制室を見下ろすオフィサールームにいたアニタに、ルヲは声を掛けた。 豪華なイスに腰掛けた彼女は、まさに女王の風格があった。彼女の前ではルヲはみ すぼらしく見えた。 「二人だけで話したいんだが……」 「ベンソン、あそこにいるゴードンに、次のマスドライバー射出時間を、あと三百秒 縮めるように命じて来なさい。やればできる筈よ」 ベンソンは素直に頷きオフィサー・ルームを出て行った。 「さあて、何のお話かしら?」 「実は奇妙な噂を聞いた。あのマスドライバーの発射した鉱石が、地球には向かって いないという噂だ。しかも、鉱石はイオを出発する恒星間移民船団を狙っているとい う」 「ふーっ、幼稚な話ね。まさか本気で信じてるんじゃないでしょうね」 「いっ、いや、勿論、信じてはいない。信じてはいないが……」 「いい男が、情け無い話ね。誰? そんな馬鹿な話をしたのは?」 「う、いや、もういいんだ」 ルヲはアニタに背を向け、ドアを開けようとした。しかし、アニタはイスに座った ままで、ドアにロックを掛けた。 「そうはいかないわ。変な噂をこの鉱山で広げられては困るわ。作業員の士気にもか かわるわ。ルヲ、あなたも下手に他人をかばうと、不利になるわよ」 「分かった。しかし、仲間を売ったと知られたら、ここの奴らは何をするか……」 「大丈夫、秘密は守るわ」 「分かった。それは、輸送監督官の……」 「そう、分かったわ。ロック・マツオ。彼ならやりそうなことだわ。ルヲ、あなたは 今まで通り職務につきなさい。あとのことは私達がやるわ。あなたには関係ないわ」 ルヲはこくりと頷いた。 ボーイは、マスドライバーのパケットの後ろに隠れていた。ほんの数分前、自動シ ャベルが、大量のイリジウム鉱石をパケットに入れた。あと五分もすると、パケット は宇宙空間に地球への軌道に向けて射出されるのだ。 そのパケットに二人の黒いスペーススーツの人影が近づいて来た。二人は何か大き なものを運んでいた。引力が殆どないため、軽々と運んでいるが、結構重そうな代物 に見えた。二人はパケットの中にそれを放り込むと、急いで去って行った。 ボーイはパケットの陰から出ると、中を覗いた。二人が運んで来た黒いドラム缶の ような物体が鉱石の上に乗っていた。表面にプレートが貼ってあった。ヘッドライト の中に照らされたそのプレートには「SMFG」と書かれている。更に文字の側には 軍のマークであるブルーの地球マークが描かれている。 よく見ると、文字の下には『81の1』とナンバーが打ってあった。 81……? ボーイは首をひねっていた。そうだ! 新型のマスドライバー・ガイ ダンス・システムを導入してから次の発射で八十一回目だ。81の1? 1って何だ ろうか……。何だ、簡単だな。このパケットはマスドライバー1号機のパケットだ。 黒いドラム缶の表面には、丸い脹らみが幾つか付いていたが、こじ開けることはで きない。そこに「姿勢制御バーニヤ」と赤く書かれていた。 こいつと同じものが、他のマスドライバーのパケットにも入れられているのだろう か? しかし、何故、こんなものを…。 <マスドライバー発射まで、あと一分。作業員はパケットレール、及び超伝導コイル から離れてください。作業員はエアロックか退避所に退避してください> ボーイはヘルメットについたカメラでその物体を撮影すると、その場を離れた。 第八十一回目の射出も順調に行われた。 浮遊鉱山の深層部の現場事務所に、数名の男達が集まっていた。 彼らは、有線通話ケーブルでベルトに付いたプラグジャック同士をつないでいた。 ケーブルを通して、皆のヘルメットの中に、ゴードンの声が響いた。 「今までの情報を整理する。ロンがトランプに残した特殊インクの文字には、軍の捜 査部隊は気が付かなかった。それに書かれていた文字はこうだ。 『地球からの視察団は、太陽系浮遊鉱山会社の連中ではない』 人事情報をコンピュータで調べた結果、アニタ・グレイなる女性は、我が社の幹部 には存在しないことが分かった。その正体はまだ不明だ。 次、『マスドライバーはJQ61200の航路パターンで鉱石を射出するが、木星 に近づくにつれて微妙にずれ始め、やがてイオから発進する恒星間宇宙船のコース、 JQ61199に重なる。マスドライバーは恒星間宇宙船を狙っている』 これに関してはロックがまだ調べているが、疑問な点がある。鉱石はJQ6119 9のコースに近づくが、あくまでもJQ61200のコースを外れることはない。仮 にJQ61199に乗せても、木星近辺に到着する頃には、恒星間宇宙船は既に出発 したあとだ」 「よく分からんな。宇宙船はあと数時間で発進する。鉱石が船に体当たりできないこ とが分かっていて、奴らはどうして無駄なことをする?」 一人の鉱山労働者が質問した。 「ゲイリー、いい質問だ。それじゃ、ボーイ、話を聞かせてくれ」 「俺は、さっきのマスドライバーの発射の際、パケットの陰に隠れていた。そこに黒 いスペーススーツ姿の二人組がやって来た。奴らはパケットにドラム缶のようなもの を投げ込んだ。その映像がこれだ」 ボーイがベルトのバックルのボタンを操作すると、ケーブルでつながった皆のヘル メットの内側に、ボーイがさっき見た光景が繰り広げられた。 「SMFG……まてよ、どこかで見たことがあるぞ」一人の男が呟いた。 「グローバル、こりゃなんだ?」 「ウーム、今思い出しているところだ……」 「ここを見てくれ、この丸い脹らみは恐らく内部に姿勢制御用バーニヤを内蔵してい ると思われる。マスドライバーで鉱石と一緒に発射されたあと、こいつは自分の姿勢 を指示された状態に維持するように働く。その目的はなんだ?」 ボーイは皆に尋ねた。 「こいつは、新しいシステムになってから、毎回発射されてるだろうな」 「新システムになってから、六基のマスドライバーは同時に発射するから、鉱石はス モーク・リングみたいに輪を形作って飛んでるだろうな」 「輪の数は八十個か……。輪でトンネルができるな」 「それだ!!」グローバルが叫んだ。 「トンネルだ。トンネル。磁気トンネルだ! SMFG、超磁場発生器。強力なエネ ルギーを磁気トンネルに閉じ込めて、遙か彼方に発射する」 「トンネルの入口はこのKLS9023B浮遊鉱山。出口が恒星間宇宙船か。ここか ら発射した強烈なエネルギーは、数百万キロの磁気トンネルを通って船に届き、かく して船は宇宙のもくずとなる」 「しかし、まてよ? そのエネルギー発生器は? 磁場の中を突き進む強烈なエネル ギーなんかここにはないぞ?」 「あるさ、フリゲート艦コンステレーションに」 −−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−
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