CFM「空中分解」 #1738の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
(4)戒厳令下 ロンが死んだ。 誘導衛星の電子装置を点検中に、ロンの乗った保守作業船の燃料タンクが爆発した のだ。作業船はもとより衛星は宇宙の塵となった。当然、人間などひとたまりもなか った。ロンを始め三人の男が死んだ。 相棒の死をいたんでボーイは号泣した。まさに男泣きだった。 数日後、KLS9023B浮遊鉱山の近くにいた地球連邦のフリゲート艦「コンス テレーション」が、事故調査のために訪れた。 フリゲート艦は浮遊鉱山の木星が見える側に接舷した。 およそ優雅さのかけらもない無骨なコンステレーションは、巨大なエンジンと燃料 タンクの化け物であり、太い単結晶ハイパーカーボンの鋼材を、同じくハイパーカー ボンの強化壁が包んでいた。最大直径五十メートル、全長百五十メートルの船体の中 央を巨大な円柱が数本走っていた。船首部分でその円柱は一本に束ねられ、トランペ ットの口のように開いた構造体につながっていた。 鉱山の中には、到るところに連邦軍の制服を着た男女の兵士が歩哨として立ってい た。彼らは一様にバレンタイン・レーザーを携帯しており、荒くれ者の鉱山の男達も おとなしくしていた。鉱山の中は軍に制圧されたように見えた。 爆発した保守作業船の整備係を始め、鉱山のあらゆる部署が軍によって調査され、 立入り検査を受けた。 しかし、アニタは鉱石の射出作業を止めなかった。奇妙なことに、フリゲート艦の 艦長、ニック・トミタも射出作業の続行を認めたのだ。 「気にいらねぇ〜。やだやだ、こんなろこはさっさと引き払おう。こんなろこ、られ が居てやるもんか。へっ、そおら、られが……」 休憩室では、ボーイが薄暗い照明パネルの下で、ボトルを空けていた。 エアロックを兼ねたドアがガチャンと開くと、ロックが入って来た。 彼は部屋の中央のテーブル、ボーイの目の前にドサッとザックを放り出した。 「受け取れ」 アルコール漬の濁った目で、ボーイはそのザックを見た。 「なんらよ、これ」 「遺産だ」 「遺産? られの?」 「お前の仲間だった男だ」 ロックは、ボーイが抱えていたボトルを取り上げた。 ボーイは取られるのをごねるかと思ったが、以外にあっさりとロックに渡した。 彼の視線は、テーブルの上に乗ったボロボロのザックに注がれていたのだ。 ロックはボーイから取り上げたボトルの口を開けると、ラッパ飲みを始めた。 ボーイの耳にはロンの声が聞こえていた。 <そりゃ、しょうがあるめえ。輸送監督官は、鉱石の月ステーション到着が遅れて、 本社のお偉方の機嫌を損ねたくないのさ。おっ! お前さん、ついてるぞ。近々遺産 が入る。心当たりはないか?> <誰が、他人の人生占いをしろって頼んだ。止めてくれ> ザックを暫く見つめていたボーイはその口を開けると、中から横に細長いレンズの 老眼鏡とプラスチック製のトランプを取り出した。 眼鏡をいじっていたボーイは鼻の上にちょこんと乗せ、ロックを見た。 「似合うかな?」 「いや、止めといた方がいい」 口元を拭いながら、ロックが答えた。 「ロンは、ころ部屋のころ場所が好きらった……。ここれ飽きもせず、いつもこのト ランプを触ってら。ころ薄暗い明かりの下れ……」 鼻眼鏡を掛けたまま、ボーイは手の中の数枚のトランプを見つめた。 ボーイの動きが止まった。掌のトランプをじっと穴の開くほど睨んでいた。 突然、ロンが立ち上がると、ロックがラッパ飲みしていたボトルを取り上げた。 「何、する!」 「これを、これを見ろ!」 ボーイはロックにロンの老眼鏡を掛けさせると、目の前にトランプを突きつけた。 そのカードを見つめていたロックの顔が次第に険しいものに変わっていった。 「ルヲ、話がある。ちょっと来てくれ」 中央管制室のコンソールの前でふんぞりかえっていた鉱区監督官のルヲに、ロック が声を掛けた。 「ここじゃ、まずいのか?」 管制室にいた軍の兵士の一人の視線が二人を捉えた。 「大声を出すなよ。取って食おうってんじゃない。あんたにとっても重大な話だ」 まだ、ぐだぐだ言っているルヲをロックは連れ出した。 ロックは廊下に出ると、管制室から浮遊鉱山の内部に向かうエレベータ・ターボシ ャフトにルヲと乗った。内部で二人は作業用スペーススーツに着替える。 「いったいどこへ…」 ロックは自分のヘルメットをルヲのヘルメットにくっつけ、『チークダンス』でル ヲに話し掛けた。 「無線は使うな。いたる所で盗聴されている」 「盗聴だと? どういうことだ」 「着いたら話す。自然に振る舞え、このエレベータの天井にも監視カメラがある」 ターボシャフトが着いた場所は、第23区鉱山事務所だった。 薄暗い照明の中、空中を微細な粉塵が漂っていた。ヘルメットのヘッドライトに照 らされた粉塵がキラキラと輝く。 「あい変わらず……無線………が……。だめだ……」 空電ノイズの中、ルヲの耳にロックの声が微かに聞こえてきた。 「有線通話……。プラグを……」 ロックはベルトの工具箱の一つから細いケーブルを引き出すと、ルヲのベルトのプ ラグジャックに差し込んだ。 「ここなら、有線通話を使っても怪しまれない」 「ロック、どういうことだ。面倒なことは沢山だ。本社に睨まれたくない」 「本社に睨まれるどころか、あんた表彰されるさ」 「アニタが表彰してくれるっていうのか?」 「ルヲ、アニタにへつらってると、冥王星鉱山送りだぞ」 「なんだって?」 「アニタは地球本社の人間じゃない。あの地球連邦のフリゲート艦、コンステレーシ ョンから派遣された特殊部隊らしい」 「ば、ばかな! 何を証拠に。ロック、お前、アニタが気に入らないから」 「もう一つ。ロン達の作業船は事故じゃない。事故に見せ掛けて殺されたんだ」 「なんだと? 殺された。どうして?」 「ロン達は知ってしまったんだ。新型マスドライバーが発射しているのは、鉱石だけ じゃないことを。それにマスドライバーが狙っているのが、ソラリア連邦の恒星間大 移民船団だってことをな。それには二十五万人の移民が乗っている」 その中にはジェニファーもいる、とロックは思った。 −−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−
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