CFM「空中分解」 #1734の修正
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【遙かなる流れの果てに】 作 コスモパンダ (1)浮遊鉱山 「ジェニファー、どうして行くんだ?」 「どうして? それはわたしにじゃなく、あなた自身に聞いたら? どうして、あな たが宇宙にひかれるのか、それが知りたくてわたしは行くの」 「どういうことか分かっているのか? 行けば二度と戻れないんだぞ」 「答を知るために行くのよ。戻る必要はないわ」 「君には十・五光年の距離の意味が分かっているのか? 目的地に到着できる保証は ないんだぞ。それに……それに目的地に到着した時には……」 「あなたはいない……。既に私にとって、あなたは歴史上の人……」 「残酷な話だ……」 「残酷? 残酷なのはわたしじゃないわ。残酷なのは、二度と戻らない時間。二人の 間を吹き抜けた一瞬……」 こんな時にどうして……? コンソールのボタンに添えた指に力がこもった。 「あっ! 輸送監督官。まだ、駄目です。作業員が一人戻っていません!」 だが、彼はコンソールの発射ボタンを押していた。 太陽系最大の巨星、ジュピター。その赤い巨人をバックに、ぽっかりと浮かぶ最大 長二キロの黒々としたぶこつな岩の塊。 KLS9023Bと名付けられた質量百五十億トンのイリジウム浮遊鉱山だった。 蟻のように、その中に巣くっている人間達。その命の証である明かりが、巨大な岩 山のあちこちから漏れていた。 巨岩の岩肌に、第23鉱区と書かれたハッチが埋もれていた。ハッチの内側のエア ロックでは、赤い室内灯に照らされた宇宙服姿の一人の男がいた。 「五……、四……、三……、二……、一……、ゼロ。発射!」 ガクンという微かな衝撃が、鉱区全体を揺らした。 ボーイ・ショウは、手近のグリップにつかまった。身体が衝撃で振り回される。歯 を食い縛って、それに耐える。下手に壁や床にぶつかろうものなら、無重力空間でも 変わらぬ自分の質量をいやという程、味わうことになる。 マスドライバーの超伝導マグネット駆動の五百トンパケットが、イリジウム鉱石を 宇宙空間へと放り出している衝撃だった。発射の衝撃は数度続いた。 発射されたイリジウム鉱石は木星の周囲をかすめ、その運動エネルギーを吸収して 太陽への落下軌道に乗る。更に鉱石は太陽の周囲を周って金星の内側の軌道まで入る。 その後、月周回軌道上のステーションで回収された後、加工されるのだ。 マスドライバーは、輸送費用は安上がりなのだが、回収までの時間が掛かるという 欠点がある。マスドライバーで発射された鉱石が月周回軌道上のステーションに回収 されるのは、発射されてから三十ヵ月も先のことになるのだ。 KLS9023Bは細長いラグビーボールのような形状をしていた。マスドライバ ーはその長軸方向に沿って六本設置されていた。鉱石がバラバラと発射される衝撃は、 浮遊鉱山全体を揺らせる。彼はユラユラと揺れながら、通路を歩いていた。 「ボーイ、何をもたもたしてたんだ」 宇宙服を脱いで休憩室に入ると、ロンが鼻眼鏡で彼を覗き込んだ。 「まったく、ロックの野郎。現場の人間を殺す気か。パケットの滑走路にでかい小石 が挟まってたんだ。それを取ってるうちに発射時間がきちまった。発射を延期しろっ て言ったのにな」 「そりゃ、しょうがあるめえ。輸送監督官は、鉱石の月ステーション到着が遅れて、 本社のお偉方の機嫌を損ねたくないのさ。おっ! お前さん、ついてるぞ。近々遺産 が入る。心当たりはないか?」 「誰が、他人の人生占いをしろって頼んだ。止めてくれ」 薄暗い明かりの下で、ロンはトランプの一人占いをしていた。 「馬鹿なお偉方の機嫌を取るなんてまっぴらだ」 ボーイはいきまいた。腹の虫の居所が悪かった。 「地球からの視察団が、今日到着するってえよ」 「本社がなんで今頃。先月、公認会計士が来たばかりだぜ」 「作業効率が一向に改善されないという報告があったらしいぜ」 「けっ!」ボーイが投げた手袋は、空中を漂っていった。 「視察団は邪険にしない方がいいぜ」 「なぜだ? 『ゴマすりルヲ』みたいになれってのか? いつもいつも本社の奴らの 一言一言にビクビクしている。そうなれってのか?」 「視察団の団長さ?」 「えっ?」 「女だ。しかも若くて美人とくる」 「けっ、女は嫌いだ!」 ボーイは、休憩室のベッドの中にもぐり込んだ。 <省報第203のA1923、第58175のA16航路管理部より連絡。宇宙標準 時間2000時から第四レベルの流星雨警報が発令された。当該管区の各航路標識は、 オール・レッド。航路パターンJQ61201からJS89011までは封鎖される。 また、これと交差する定期航路は全て封鎖する。該当する定期航路は、クラリス23 0、マルス20から30、スイフト404から………> <第3エアドックから連絡、地球からの視察団一行のシャトルを収容した。受入れ準 備委員は、第3エアドックの1号ハッチ前に集合のこと> <辺境航路管理局より連絡。ソル標準時間、0189・2309時、不定期船が航行 する。航路は、木星圏イオ近辺から、JQ61199の航路パターンにより、外惑星 へ航行する。これに伴い……> 中央管制室の夥しい数のコンソールのスピーカーから、大量の音声情報が洪水のよ うに流れ出していた。 湾曲した壁面には、様々な形や大きさのディスプレイ・ウインドゥが表示され、途 方もない量の情報を表示していた。 「また不定期船か。しかも、この鉱区のマスドライバーのコースと交差する。この時 期は最も航路が混雑する時間帯だ。それに流星雨も出現して、定期航路さえ封鎖して いるんだ。不定期船なんてのは馬鹿げてる。鉱石が送れない」 大型ディスプレイの前に立っていたひょろっと背の高い男が不満そうに呟いた。 浮遊鉱山KLS9023Bのロック・マツオ輸送監督官である。 「構わんさ、ぶっ飛ばせばいい」 コンソールの前に座っていた小太りのルヲ・コルグ鉱区監督官が答えた。 「何を言ってる。もし事故でも起こってみろ、この鉱山のマスドライバーは使用禁止 になる。そうなれば地球に大量に鉱石を送る手段がなくなる」 <なお、この不定期船団は乗員五万人、対消滅エネルギー駆動の五千万トンクラスの 恒星間移民船であり、エリダヌス座のイプシロン星に向かう総勢五隻の船団である> ジェニファーの船だ! ロックは声に出さずに叫んでいた。 「大移民船団だとは……。これでは暫く鉱石発射を見合わせない……」 「そうはいかなくてよ。鉱石は予定通り発射して貰うわ」 ロックとルヲは、その声に振り返った。 そこには、淡いパープルのコスモルックに身を固めた背の高い女性が立っていた。 −−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−
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