CFM「空中分解」 #1732の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ウサギは家に帰えると地下の大きな書庫に飛び込み、「タヌキの発想「「その傾向と 対策」を読んだ。どんな大学をでようとも、所詮タヌキはタヌキ。突拍子もない考えを するはずがあるまい、と踏んだからである。 しかし、「火遁の術」を使った例は見つからず、タヌキには珍しく「工学部的思考」 をするタヌキであると解ったにとどまった。 「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」 戸口に立った彼女の父がそう言った。 「あのタヌキは只のタヌキではない。『カチカチ山タヌキ』だ。それがどういう意味か わかるか、我が娘よ。彼は先祖の復讐をしたいのだ。即ち、泥の舟で溺れたことへの恨 みがある訳だ」 「お父さん。解ったわ。奴は必ずあの湖で仕掛けてくる訳なのね」 「そうだ。これで相手の出方は九分九厘解ったも同然。こんどは己を知ることだ」 「己を……」 しばらく考えてもどうゆうことか解らなかった彼女は、再び戸口を見たが、父はいな くなっていた。 「わかんないわ。自分を知る……私はウサギ。ウサギ……」 彼女は手当り次第に書庫の本を拾って読んでみた。「因幡ウサギ」、「ウサギが亀に 勝てない理由「「そのウサギの遺伝的欠陥」、「ルフルン、ルフルン、雪ウサギ「「C Mソング大全」……など。そしてそれはウサギ関係以外の本にも及んだ「「「昇天は夢 か」、「ビジネスマンの父より30通の絵葉書」、「第五の波「「波動と場」……など など、読んでも読んでも、己は見えてこなかった。 一方、第一ターンで勝利をおさめたタヌキは、呑気にも「のりぴーはうす」周辺、避 暑地「バラ宿」へ行っていた。もちろん、人間に化けて。そして人ごみの中を、彼の好 物である缶入り「抹茶コーヒー」という、想像するだけでも不味そうな飲み物を手にし て歩いていた。 「あの人カッコいいじゃん」 「まあ、そこそこってとこじゃない。目の辺りの不自然な化粧が少し気になるけど」 『ナンパされ目的』的思考の女子中高生のささやき声を耳にするうち、タヌキは、調 子にのった。つけあがった。音で表現すると「ぐおぉぉぉー」といった調子であった。 『おれって案外モテるんとちゃうか』 タヌキはこういうときだけ関西風の言葉になるのを不思議がりながらも、ランクの高 い女を物色していた。夜学に通いナンパをする暇さえなかった彼の、抑圧された性欲は 化けた彼の人間風の体毛からオーラとなって放たれていた。その彼の体表をさまよう液 体のような稲妻、すなわちオーラは、更に彼の周りに女を集めることとなった。 『今夜はねむらせまへんで』 続けて訳の分からない関西言葉風思考系に没入していったタヌキは、酒池肉林のバト ルロイヤル、到底筆者には書き尽くせない「ものすごH」な場面を想像していた。 可愛い娘のためにタヌキを見張ったウサギ親父は、その一部始終を見届け、激しい嫉 妬の嵐の中にいた。 「あのタヌキ野郎ー。あんな可愛い中高生たちをむさぼりクイやがって」 あんな色情狂タヌキと我が娘を戦わせるなんて……こりゃまずい。父ウサギはそう考 えた。頭を抱えるほど悩み始めた。 タヌキ家とウサギ家は代々憎しみあってきたのだった。しかし、あのタヌキが変なこ とをちょっと思ったら、タヌキとウサギの混血の子が生まれてしまう。 それは、ますますまずい。ウサギ親父は考える。混血の子が生まれたら、タヌキ家の 下品がウサギ家にも移ってしまう。タヌキを懲らしめることで長年契約を保ってきた村 人との条約はあっさり破棄され、我々はミンクのコートにされてしまう。ウサギ親父は 娘に貞操帯をつけて送り出そうかとか、子宮を取っちゃおうかとか、いっそわしが戦お うかと考えた。 こんなところで一人悩んでも仕方ない。家族会議だ。森のウサギを全員、臨時召集し て、対策本部を設立せねばならないだろう。そして、彼ウサギ親父の頭には、それによ る多大なる出費をどうやって工面するかということを、ちらりと考え、頭が余計痛くな った。 タヌキは日の光を浴びたシオシオに萎びたの吸血鬼のような姿で、森に戻ってきた。 もー、とーぶんしたくないという、彼の気持ちは、その姿を見ただけでわかる。 家に帰りつくと、彼はムチャ食った。冬の貯えが無くなるほど飯食ったために、彼は 父のタヌキ・一徹に「外で食物を探してこい」と怒鳴られた。しかたなしに外に出た 睡眠不足の意識もーろー状態の彼は、食べ物とそうでないものの区別がつかなかった。 それは一方で都会慣れした彼の生活にも原因があった。金さえあれば食べるものが手に はいるという、金本位の考え方は、森には通用しなかった。 タヌキは厳しい現実に直面し、何かとてつもなく難しいことを考えた。一つの哲学、 一つの人生観といったものだった。彼は木の根元に座り込むと、まぶたが自然に下りて いった。そして難しい考えは、夢の中へ消えていった。 臨時対策本部は「カチカチ山ウサギ」家、本家家長、ウサギ親父によって設置され、 緊急に対策が練られていた。 「そ、それでそのタヌキは女子中学生をどうしたんです」 「早く続きを教えてくれ。そうでなければ対策が立てられん」 「だから……って、そこで嫌がる彼女に無理矢理……」 「無理矢理何をしたんです。早く言ってくださいよ」 「そうだそうだ。そうでなければ対策が立てられん」 ウサギ親父は一生懸命説明した。時たま、彼がでっち上げた嘘も入っていた。 「す、すっげー。なんてぇタヌキだ」 「しかし、この目で見なければ信じられませんな」 「どこでこういうスケベな知識を得るんでしょうかね」 「静かにしろ。いいか、そんなタヌキがどこにいる。何一つ証拠がないじゃないか。こ んな嘘っぱち聞いている暇があったら、自分の畑にかえって人参育てたほうがましだ。 ウサギ親父は娘が心配で少々頭にきているようだな。皆、帰ろう」 今一つ盛り上がりに欠けたウサギ親父の話し方のせいで、会議は騒然となり、あちこ ちからブーイングがおこった。話し上手のはずのウサギ親父が、なぜここでこんな失態 を演じたのだろう。それは、娘が会議の席にいたからである。そして娘の反応が「そん な事とっくに知ってるよぉーん」といった風だったので、更に動揺していたのだった。 「み、みんな、頼むから帰らないでくれ。これはウサギ家の危機なんだぞ」 しかし、対策本部に集まったウサギ達の騒ぎは治まらなかった。半立ちにされながら、もう一歩で抜ききれないその歯がゆさは、会議場の中で喧嘩を起こしかねないほどに盛 り上がってきていた。その場を静めるため、ウサギ親父はハンディカム55を掲げてこ う言った。 「ここにその問題のビデオがある。今からこれを証拠として提出する」 「ヒューヒュー」 「ええぞぉおい。ええぞぉ」 ウサギ親父は議題が完全にズレてしまったと思った。 「では、次なる議題に移りたいと思います。撮影者はポコ山のポコ山ウサギ一家。タイ トルは『恐怖のポコ山ペンション』」 娘ウサギはとっくに会議から抜け出していた。ウサギ親父は頭を抱えていた。会議が いつの間にか、それぞれが持ち寄ったビデオを皆で見る上映会になってしまっていたか らだ。マイクはカガミ湖のウサギが握っていた。親父はなす術なく、ただ座ってそれを 見ていた。 しかし……親父は思った。この作品は良くできている。特にメーキャップ技術が素晴 らしい。これはメーキャップ賞候補だな。と、十点と書かれた札を上げた。 ビデオ大会で盛り上がる家を後に、娘ウサギはタヌキに最後の決戦を挑むため、タヌ キの家を目指して歩いていた。彼女は歩きながら考えた。「今日ちょっと化粧濃いかし ら」 そして、コンパクトをしまった後、きっと今度は「水遁の術」を使ってくる違いない わ。いや……もしかしたら「水蜘の術」かもしないわ そうきたらどうやって対抗しよう。スキューバでも習ってこようかしら。 考えがまとまらないうちにタヌキに出合ってしまった。タヌキは寝惚けた顔をしてい た。ウサギはタヌキがどうしてそういう顔なのかがわかっていたため、腹が立った。こ っちは散々悩んでいたのにこのクソタヌキときたら…… 「どんな御用件かな」 すぐにも寝てしまいそうな、調子はずれの声。 「湖にいきましょう」 「ウサギが水着に着替えたら」 「全然くだらない。そんなこと聞きにきたんじゃないわ。勝負よ。ボート・レースで勝 ったほうが負けた方のいうことをきくのよ。ルールは簡単。昔からのしきたりに従って、あなたは土の船。私は木の舟。向こう岸に早く着いたほうが勝ちよ」 「いいでしょう。うけてたちますよ」 半分眠っていたタヌキは、あっさりと土の舟という条件をのんでしまった。ウサギは 思った。これで勝ったも同然、いくら水遁の術を使おうと無駄よ。勝つためには向こう 岸に早く着かねばならないんだから。 「さあ、行きましょう。日が暮れないうちに勝負つけたいのよ」 ウサギを追って、タヌキはのそのそと歩き始めた。 寝不足のため、タヌキの動作は鈍かったが、せっせと土で舟を作っていった。ウサギ はウサギで、マニュアル通り、立派な木の舟を作っていた。ウサギはこれまで悩んでい たのが嘘のように晴れ晴れとした気持ちになった。なにも悩む必要無かったわ。勝手に 向こうが自滅してくれるんですもの。いくら工学部出の優秀な頭脳だって、考えるだけ の体力が残ってなきゃどうにもならないのよ。ざまあみなさい。所詮タヌキはタヌキ。 溺れ死ぬがいいわ。 「ほほほほほほほ」 悲鳴のような笑い声をあげたウサギの目には狂気が宿っていた。 「それじゃ。ぼくがピィーと口笛を鳴らしたらスタートだよ。いいね」 タヌキはうつろな目をウサギに向けて言った。 「いいわ。いつでもどうぞ」 「ぴー」 スタート十秒後。すでに十メートルの差をつけてしまったウサギは、タヌキの舟が沈 むのを楽しみにしながら見ていた。タヌキは相変わらずの鈍間な動作で櫂を動かしてい た。どうせ沈むのにあなたは無駄な努力をするのね。そうウサギは思った。 しかし、なかなか沈まない。ウサギはガンガン差をつけてはいるが、舟が沈まないの は如何にも気に食わなかった。どうも変ね。土は泥となり、湖の中に崩れ落ち始めてい るのに。タヌキの舟は僅かづつであったが、確実に前進している。 いつの間にか池の周りに集まった森の動物達が盛んに応援している。大半はウサギ側 だった。なかには「変態タヌキを森から追い出せ」の垂れ幕を用意する鹿たちも交じっ ていた。そして彼女の親衛隊、追っかけイノシシは「うさっぎちゃん」コールをして、 レースを盛り上げてくれていた。 再び「しかし」、なんと湖の半分まできても、タヌキの舟は沈まなかった。ウサギは 岸近くにきて舟を止め、目を皿のようにしてタヌキを見た。このままタヌキが岸にたど り着けば勝敗は別にしてタヌキに同情が集まってしまう。タヌキに主役を取られてしま う。 ウサギの心配を他所に、湖の周りに集まった動物達は、「沈め」コールをかけていた。「ばかやろー。早く沈め」 「沈んじまえ。二度とその面見せるな」 ウサギはさっさとゴールしようと思った。どう頑張ったって周りの動物の言う通り、 タヌキの舟は沈むだろう。それよりこの盛り上がりが続いているうちに、ゴールしたほ うが格好がつく。 彼女はちらっと岸を見やると、森の唯一のテレビ局「KBS」のカメラに気付いた。 そして考えた。私の顔、汗だくで化粧が流れてしまっている。やっぱり汗に強いファン デーションを使うべきだったわ、と後悔し、ポシェットをひっくり返して化粧を直し始 めた…… 誰もの予想のとおり、タヌキは勝った。ウサギは化粧を直しているうち、自分の美貌 にみとれ、鏡と話し込んでしまったのだった。タヌキはテレビカメラの前で、インタビ ューを受けていた。 「なぜあの舟は沈まなかったのですか」 「それは、このかたに聞いてください」 タヌキは手を差し出した。その手には亀がのっていた。 「この亀……ですか」 「その他大勢の亀さんのおかげです。そしてこの亀は「ウサギと亀」の亀さんなのです」「なるほど、亀の恨みは万年と言いますからね」 「そうです。亀さんはウサギに言われた「のろま、のろま」という罵声を忘れていない のです」 アップで映し出された亀は、少し照れ臭そうだった。 「第一回、ウサギ・ビデオ大賞、最優秀作品は……」 ドラムが鳴った。照明が暗くなる。 「作品名『女学生、折って畳んで裏返し』、ウサギ親父さんと決定しました」 会場は割れんばかりの拍手に包まれた。 「やはり、ノーカット、ノンフィクションは強いですな」 「いや、女学生の可愛さが大きく票を伸ばした原因では……」 ウサギ親父はこれを喜んでいいものやら、悪いのやら迷った。そして決心した。第二 回も大賞を取るぞ、と。 これでタヌキの復讐は終った。だが、タヌキと人間のハーフを生んでしまった女の子 達が引き起こした「認知騒動」で、再び森は大揺れに揺れることとなった。結局、タヌ キは森を追放となり、ウサギを初めとする森の動物達に平和は戻った。しかしそれも数 年後のリゾート・ブームがくるまでの、短い一時であった。 おわり
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