CFM「空中分解」 #1730の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「……うそでしょ」 手児奈は手に持ったスコアブックをとりおとした。 「そんなこと、……」 「ほんとです。梅田さん、僕は本気ですよ」 「・・・わっ、分かったわ杉野森君・・・でも・・・ その返事はこの試合が終ってからにしてちょうだい この試合は私達 野球部3年生にとって とっても大事な試合なの 甲子園に行く最後のチャンスなの 杉野森君も一緒に応援してちょうだい」 杉野森は素直に諾くと手児奈の隣に座った 試合はいつのまにか9回裏まで進んでいた 米俵高校の4点リードで向かえた9回裏三本松高校最後の攻撃だった 米俵高校のピッチャー腰光の今日の出来具合いと4点の点差を考えると 三本松高校が逆転するのは絶望的なことが誰の目にも明らかだった しかし手児奈は まだ諦めていなかった 「野球は9回ツーアウトからよ・・・」 手児奈は自分に言い聞かせるように言った 「きっと みんなは やってくれるわ」 9回の裏 三本松高校の攻撃は打順良く1番からだった 「喜三郎君からだわ!」 喜三郎は手児奈の期待どうりセンター前にクリーンヒットを放った 「さすがはキャプテンの喜三郎君だわ!」 「2番ライト天津君」場内アナウンスが告げた 「ああ・・・私のあこがれの人 天さま・・・」 バッターボックスに立った天津は ピッチャーの投球を制すると静かにバットでレフトの上空を指した 「おお 予告ホームランだ!」場内は騒然となった 「天さま素敵・・・」 金属バットが傾きかけた夕日にキラリと光るのを見ながら 手児奈は胸がキュンと締め付けられるのを感じた 米俵高校のレフト玄米は この予告ホームランを警戒してフェンス際まで後退した 観衆が固唾を飲んで見守る中 大きく振りかぶって第1球目が投げられた 「おお!」場内が再び どよめいた レフトに予告ホームランと みせかけて 天津は やや後退したサードの前にバントを転がしたのだった 不意を突かれたサードは この処理を誤りオールセーフ 「せっ、せこい・・・」手児奈は1塁ベース上でガッツポーズをする 天津を見つめながら思わずつぶやいていた 「でも私の天さまへの愛は変わらないわ・・・」手児奈はきっぱりと言いきるのだった 「3番は罵蔑君だわ 頑張ってー!罵蔑くーん!」 「彼は本当に野球選手かい?」驚いたように杉野森がきいた 「そうよ 何故?」 「何故って 彼はどう見ても文学青年じゃないか野球をやるようには見えない」 「そりゃあ彼は野球部一の知識人だわ でも彼がどんなシュアーなバッティングをするか見てるといいわ」 罵蔑は1球2球と絶好球を うむうむと一人で何やら諾いて見送った 「ツーストライク」大目立主審のオーバアクションの判定を横目で見ながら バッターボックスに立った罵蔑は額にかかる前髪を静かにかき上げると 憂愁をたたえた横顔に「ふっ」と皮肉な微笑を浮かべた 3球目 罵蔑は篠塚を彷彿とさせる渋いバッティングを見せた 打球は ものの見事に三遊間を抜いた セカンドランナーの喜三郎が一挙にホームを突いてクロスプレーになったがセーフ 「おお さすがは3番バッターだ うむ!」杉野森は感心した ここにいたって8回まで完璧に腰光に抑えられていた 三本松高校の打棒にも ようやく火が付いたようだった 「ギゥン!ギゥン!・・・」迫り来る不気味な音に 米俵高校のキャッチャーは驚いて振り返った そこに高校野球史上最強の4番打者乱菜がいた バッターボックスに立った乱菜の胸元目がけて ピッチャー腰光の剛速球がうなりを上げて迫った 「ビシュリ!」 見事にインコース高目に決まったかに見えたが・・・ 「ぼっ、ボール!」大目立主審が叫んだ ほんの僅かストライクゾーンから外れていたのだった 並のバッターだったら つられてバットを出していただろう だが乱菜は眉一つ動かさずに見送るとキャッチャーに言った 「今の球は157Kmのストレートだ 今日投げた中で一番速い球だ」 彼の眼窩に埋め込まれた電子眼は 瞬時にして相手ピッチャーの球速と球種を読み取るのだった かって このようなバッターが高校野球にいただろうか・・・ 第2球目が投ぜられた 「138Km インコース低目のフォークボールか・・・」 乱菜はブツブツ呟きながら その球が まさにホームベース上を 通過しようとした その瞬間バットを一閃した キーン(空を切るバットの音)バッシュツッ(バットがボールを打った音) 彼のバッティングは音で判断するしかなかった いまだかって彼のバッティングをその目で見た者はいない バットをスゥイングする速度があまりに早いため目に見えないのだった 打たれたボールは 音速に近い速度でピッチャーの股間を抜け 砂煙を上げながら ついに一度も地上に接することなく センターフェンスに達した そこで弾かれた球は またもや猛スピードでピッチャー腰光の所に返って来た あまりのことに呆然とするピッチャー腰光にキャッチャー笹錦が叫んだ 「早くファーストに投げるんだ!腰光!」 その声で やっと我に返った腰光は慌てて そのボールをファーストに送った 「アッ、アウト!」1塁 塁審が右手を挙げて叫んだ 打った当の乱菜はギゥン!ギゥン!という金属的な音を発しながらも まだホームベースから3mほどしか進んでいなかった この史上最強の4番バッターにも足が遅いという弱点があったのだった 「当たりが良すぎてピッチャーゴロになっちゃったわ!」 手児奈はホゾを噛む思いだったが その光景を見た杉野森は殆ど埴輪と化していた 幸いヒットエンドランのサインが出ていたため 天津、罵蔑が3塁2塁に進塁した 9回裏ワンアウト ランナー2塁3塁で3点差を追う三本松高校 向かえるバッターは5番埋火 「おおおっ、女だ!」 ヘルメットの後ろからポニーティルがのぞいているのを見て 杉野森がとんでもない声を上げた 「うううっ、うちのチームは女に野球をやらせているのか?」 「そうよ 女だって馬鹿にしたら駄目よ埋火さんは・・・」 その言葉は観衆の歓声にかき消された 彼女の打った球は見事に左中間を抜き走者一掃の二塁打になった 「ほらご覧なさい2点返したわ あと1点で同点よ!」 「次のバッターは6番山椒太夫君だわ」 「野球の選手にしては小柄だね?」 「大丈夫 山椒は・・・」 「わわわっ、わかったよ 君の言いたいことは」 「ぐわぁんばってーーー!!!山椒太夫君ーーー!!!」 手児奈が黄色い声を張り上げると 何故か山椒太夫の顔色がサッと青ざめた 「何かを恐れているようだ・・・」 「私 何か悪いこと言ったかしら?」 「さあ・・・」 山椒太夫は急に生彩を欠き三振した 「とうとうツーアウトになったわ でも野球はツーアウトからだわ・・・」 「次は交換留学生のSOPIAさんよ」 ヘルメットから金髪がのぞいている 「ぬぬぬっ、ぬあんだって うちの学校では女子の交換留学生まで レギュラーにしているというのか!」 杉野森は急に頭痛がしてきた頭を抱えこんだ 見ていると ますます頭痛がひどくなりそうなので観戦を諦めて ここからは 近くで実況中継しているアナウンサーの声を聞くことにした 9回裏ツーアウト 同点のランナーをセカンドに置いて バッターは交換留学生SOPIA 既にカウントはツースリーのフルカウント ピッチャー投げた すっ、ストライク!バッターアウト! おや!SOPIA さかんに何ごとか主審に抗議しています 早口の英語でまくしたてています 主審まったく英語が分かりません 困っています 大目立主審 困っています おおっと!ついに大目立主審フォアボールの判定です ストライクの判定をボールに変えました SOPIA スキップをしながらフォアボールで1塁に進塁です 9回裏ツーアウト ファースト、セカンドにランナーを置いて 1点を追う三本松高校ここでバッターは8番氷山 米俵高校はバックホームに備えて前進守備 ピッチャー投げました 打ちました! 氷山打ちました!ヒットですヒット! サード、ショート、レフトの丁度まん中に落ちる好運なテキサスヒットです とうとう三本松高校満塁です 野球はドラマです!筋書きのないドラマであります! 9回の裏ツーアウト満塁 最大の見せ場がやってまいりました 1点を追う三本松高校 この回1番から始まった攻撃がついに 打者一巡してラストバッターの九重です 緊張したかピッチャー腰光 ストライクが入りません ここにきてボールが3つ続いてノースリー バッターボックスの九重クロマティのような やや腰の曲がったバッティングフォーム 腰光投げにくそうです 九重 しきりにチアーガールの方を気にしています ピッチャー振りかぶって4球目 投げました! 「九重くーん!!! ぐぁんばってー!!!」 おやおや どうしたことでしょう チアーガールの声援に つられたか九重 バットを出してしまいました 見送れば明らかにボール球 しかし打球は大きい センターに向かってグングン伸びております センター小麦 懸命にバック なおもバック 入るか? センター フェンス際までバック 入るか? センタージャンプ とっ、捕りました ファインプレーです センター小麦の超ファインプレーです 「ゲームセット!」大目立主審の声と共に 試合終了のサイレンがグランドに響き渡った 「夏が終った・・・」西の空に落ちる夕日を見ながら手児奈は何故かそんな気がした 「私達 3年生の野球部員の夏は これで終ったんだわ・・・」 手児奈は溢れる涙をぬぐおうともせず心の中で何度もそう繰り返していた つづく ===================================================================== ※この物語はフィクションであり登場する人物・団体は総て架空のものです
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