CFM「空中分解」 #1718の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ブルーorグレイ?−−もしくは「読後感想は?」−− 策斜和誰堕弄 何て単調で退屈で下らないんだ。 午前7時、目覚しの脅迫的とも言える音で目を覚ます。それから食事して、歯 を磨いて、着替えて、時間があれば新聞読んで、午前7時30分に家を出発。 自転車に乗って、午前7時45分に駅に着き、5分後には電車の中。午前8時 5分に電車は、うたた寝している内に駅に到着。そこから歩いて20分、学校 だ。挨拶もそこそこに宿題を写し、小テストに備える。忘れてならないのは、 忘れ物を借りて来ること。授業は適当、休み時間はしゃべりまくる。昼飯すん だら、後はお昼寝。授業がおわりゃ、掃除もせずに部活へ。部活があるのはま だましで、帰宅部は情けなくも寂しい。途中、どこかに寄って行きゃ、平のサ ラリーマンとどこが違う?違うとしたら、もらう物が宿題と金の違いか。ああ、 何て単調で退屈で下らなくて、そして満ち足りないのだ、どこかが。 「高橋勝秀、95点。」 ここのクラスの担任である佐藤達郎が言った。ここはH高校第2学年第4学級。 今、放課後前(この言い方で、正しいのかしらん)のSHR(ショートホーム ルーム)で、この間の小テストが返されているところだ。高橋は通称名人と呼 ばれている秀才だ。だが、名人も及ばぬ神様が、ここにはいる。 「河野美記、100点。」 この河野っていうのがそうだ。通称は、正しく言えばカミ様。神様ではない。 河野のかと美紀のみを取って付けられたものだからだ。この2人はいつも、学 年順位の1,2番。どうしたことか、高橋名人はどうしても、カミ様にかなわ ない。1年生の時からで、2年になったのを機に、名人は部活をやめ、塾を2 つから4つに増やした。しかし、かなわないのだ。元々、付き合いの悪かった 名人は、現在すっかり孤独だ。だが、本人は気付いていない。さて、カミ様の 方は、英語研究会に入っている。女子との付き合いはあるようだが、はっきり 言って、勉強を教えるだけの付き合いだ。この2人、何が楽しいのだろう。そ りゃ、いい成績であることは楽しいかも知れないけど、高校生、いや、若き人 間の楽しみって、どこか他のところにあると思う。どうして、こうなったのか。 誰が悪いのか。これから記すある事件は、その答の一部になっているのかも知 れない・・・。 「おはよ。ねえねえ、昨日のさあ・・・。」 廊下で顔を合わせた2人の女生徒がそう、会話を交わしながら、2年4組の教 室に入ろうとした。ところが鍵が掛かっていた。この時間だと、いつもならも う開いているのに。見ると、廊下に同じクラスの男子生徒が3人、誰かが鍵を 持って来るのを待っているようだ。 「誰か鍵、取りに行っとん?」 「いや。さっき、俺が取りに行ったけど、なかった、職員室には。」 「え?どういう事。先生に聞いてみた?」 「うん、でも、知らないってよ。」 「おかしいの。どっか窓、開いてへんの。」 「だめ、どこも閉まってる。」 「そうや、隣の組の鍵、借りてきたら。同じ型のはずやから。」 そこで、鍵を借りてきて、錠を開けた。意外にも、教室内には人がいた。河野 美記が自分の席に座り、腕枕をしていた。顔は見えない。鍵は教卓の上にあった。 「ちょっとお、カミ様。いたのなら、開けてくれたっていいじゃないの。」 女子の一人が、冗談ぽく言った。ところが河野は答えない。先の女子は、ちょ っと腹を立てたようだ。 「ちょっと、河野・・・さん。どういうつもり?返事くらいしてよ。」 それでも答えない。 「何よ。」 フン、と言った感じで、その女子は去って行った。やがてみんなが揃い、予鈴、 本鈴と鳴って、授業が始まる時刻になった。教師が来て、委員長の荒木田博行 が号令をかけた。 「起立!れ・・・。」 続けて礼!と言おうとしたらしいが、河野が起立していなかった。ずっと同じ 格好をしたままだ。教師が言った。 「勉強のし過ぎか。起こしたれや。」 「先生、起きませんよ、河野さん。」 「しょうがない。」 そう言って、河野の席の横に来たその教師は、起こそうとして身震いしてしま った。何せ、 「死、死んでる。」 のだから。一瞬、ぽかんとした他の生徒達は、次の瞬間、一斉に笑い始めた。 「先生、冗談キツイ!」 「ばか!本当だ!おい、委員長、と、とりあえず、保健の先生を読んで来い。 ああ、みんな、見ちゃいかん。」 委員長が保健医を呼びに行っている間、生徒達はまだ、死というものが実感で きず、普段おしゃべりをするように、騒いでいた。見るなと言われても、同じ 教室の中、どうしても目が行く。教師が、 「こういう場合、どうすればいいのだろう。やはり授業は中止だろうか。中 止するとしたら、このクラスだけでいいのだろうか。」 等と、口に出してブツブツ言っている。保健医が来て、少し河野を見ていたが、 首を横に振った。 「では、校長の耳に入れてから、警察に連絡と言うことで・・・。」 「ここの子らは、どうしましょう。」 「別室に移して、自習させといたらいいんじゃないですか。」 そんな会話が聞こえてきた。結局、みんな、図書室に移され、自習となった。 何分後だったか、パトカーの音が聞こえた。それからまた何分か後、クラス担 任の佐藤達郎が図書室にやって来て、 「河野が死んだ。今、警察の方々が来てるんだが、何か見聞きした者は、名 乗り出てくれ。」 初めは誰も、名乗りでようとはしなかったが、その内、1人が小学生のように 手を挙げて、 「おっ、本山、何だ?」 と言われてから、 「はい、実は・・・。」 と、今朝の事を話し始めた。この挙手をした本山永矢、今朝の出来事に関わっ た最初の男子3人の1人なのだ。 「・・・分かった。ようし、朝の事に関わった残りの者、男子2人に女子2人 ちょっと来てくれ。ああ、もちろん、本山もだ。」 教師が言うと、本山を除く当人達は嫌な顔をしながら立ち上がり、教師につい て行った。 「5人の証言に、食い違いはありませんね。」 刑事の一人が、主任の吉田警部に言った。 「それでは、これは自殺と判断して良さそうだな。」 「と思います、警部。仏さんの死因はヒ素、正確には動物駆除の亜ヒ酸によ る中毒死。そして現場は密室状態にあった。決め手となる遺書も見つかってい ます。」 「あの『何のために勉強しているのか、分からなくなった。だから死ぬ。』 ってヤツか?確かに本人の筆跡のようだが、どうも変だ。せめて『何のために 生きているのか・・・。』だったら、分からんでもないが、勉強する意味が分 からないくらいで、死ぬかね?第一、被害者はT大を目指していた優等生だろ う。」 「分かりませんよ、きょうびの高校生は。」 「不審な点は、まだある。勉強が理由で自殺するのなら、場所として学校を 選ぶか?」 「それは抗議という風に採れば・・・。」 「そうか?分からんなあ。それから遺書に使われた紙が、原稿用紙と言うの もおかしいと思わんか。便箋か、せめてノートの切れっ端ぐらいに書くもんじ ゃないかね。しかもあの原稿には、右肩の部分に小さな穴が2つ、開いていた。 丁度、ホッチキスでとめておいて、また引き抜いたような跡だ。あれにはどう いう意味があるんだろうか。」 「何もないでしょう、意味なんて。警部もそう、深く考えないで。ヒ素の入 手経路が分かれば、ケリが着きますよ。どうも、流さんの影響を受けてますね え。」 「しかし・・・。」 吉田刑事(警部だが)はそれっきり、黙り込んでしまった。まだ、おかしい点 はあるぞ。現場に、毒を入れておく容器がなかった事だ。ヒ素は効き目の遅い 毒だから、どこか別の場所で飲んで、それから教室に行ったとも考えられるが、 そんな事をする理由はないだろう。何か変だ。よし、もう1度、当日の被害者 の行動を検討してみるか、と彼は思い、部下の調べた河野の当日の行動を表に した物を見た。 ・午前7時30分、家を出る(母親)。 カッコ内は証言者である。家を出るまでは、いつもと変わった様子はなく、時 間も普段通りだと言う。ちなみに、自転車による通学。 ・午前7時50分頃、学校着(正門当番の教師)。 これもいつも通り。 ・午前7時55分頃、職員室に教室の鍵を取りに来る。(室内にいた教師1名。 但し、声を聞いただけ)。 これもいつも通り。ただ、声の確認だから、絶対確実とは言えない。そして、 ・午前8時25分頃、教室内で発見さる。この時既に、死亡していたものと思 われるが、気が付いたのは、午前8時45分頃(多数の同級生、1時間目の 教師)。 となる。不審なところは、なかった。 「やはり、考え過ぎなのかな。しかし、信じられんなあ、8時25分の時点 で気付かなかったと言うのは。」 吉田刑事は思った。しかし、河野を殺す者なら、多数いるようだ。彼女は常に、 1番の成績だった。つまり、彼女が死ねば、同学年の生徒は全員、確実に1つ 成績が上がる訳だ。中でも、いつも2番に甘んじていた高橋とか言う生徒だ。 彼は、図書室で勉強をするために、朝早くから学校に来る習慣らしい。当日も、 河野より早くに学校に来ていた事が、証言で分かっている。その他、当日、河 野の同級生で、彼女より早く学校に来ていたのは、早朝練習のために来ていた 陸上部員の荒木田。彼はクラスの委員長でもある。同じく陸上部員の、鈴木太 郎。荒木田の恋人と言うことになっている、美術部の田中素美礼。高橋を含め、 この4人は河野より早く学校に来ているが、校舎内にいたのは高橋だけであっ た。また、4人共河野は見かけなかったと言っている。あと、教室前に来た男 3人と女2人の名は、先に名の出た本山の他、A男、B男、C女、木原真子と いう。A,B,Cと言うのは、完全に事件とは無関係と分かったので、名前を 伏せた。木原と言うのは、本山の友達で、恋人と言う程ではない。本山は文芸 部所属。木原はどこにも入っていない。男子3人は、午前7時45分頃学校に 来て、外で遊んでいたと言う。女子2人は、冒頭記したように、午前8時10 分過ぎに学校に着いた。もし、河野の死が殺人だとすると、 「ま、こいつらの中に犯人がいると考えざるを得ないな。河野は教師の間の 評判は良かったと聞くし、他のクラスには友達と言う程の者はいなかったそう だから、同じクラスの者の中に、犯人がいると考えて・・・。おっと、部活の 事があったな。」 そう、吉田刑事は思い、調書を見た。 「何々、何だこりゃ。英語研究会っていうのは、河野一人しかいないじゃな いか。それじゃ、やはり、同じクラスの者かな。」 しかし、それは、殺人だとしたらの話である。実際のところ、疑問の余地はほ とんどなく、親の希望もあって、遺体解剖は行われなかった。毒物がヒ素だと 言うことを確かめた以外は。 −続く−
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