CFM「空中分解」 #1696の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
文庫本殺人事件 平野 年男 翌日早く、流次郎が俺の家にやってきた。 「何だ。電話してくれれば行ったのに。」 「他の人には聞かれたくないんでね。」 「で、話ってなんだい。」 「3×3を九九で発音すると、どうなる。」 「さざん、だろう。それがどうした。」 「じゃ、南の事を英語で言うとサウスまたは・・・。」 「サザンだ。そうか、それで3×3が南なのか。じゃ次は2×4だから、 髏シ?」 「そうなるはずだ。あ、それから吉田刑事に聞いたんだが、神風来坊の第 二の事件でのアリバイが成立した。生徒達の目の前で授業をしていたと言う んだ。」 「なるほど。でも、共犯がいるかも知れない。」 「可能性はある。ともかく今は、西が殺されぬよう見張るだけだ。」 しかし、そう結論を下してから五日が立っても西は殺されるどころか、狙わ れもしなかった。こう言っちゃ何だが、俺は記述者として、西が殺されるの を期待していた(この文を書いたのを流次郎は大変嘆いた。)。そんな折、 事件の関係者の一人一人に、こんな葉書が来た。 『殺人パーティにご招待しますARAHENホテルに来られたし日時は今 月の4日午後1時』 一応吉田刑事のところへ行ってみて相談をした。出た結論は、行ってみよう と言うことになった。なお、カードやしおり、葉書からは指紋はでなかった。 4日まで間があったので、それぞれ暇をつぶした。俺と次郎は、二人で推理 をしていた。秋子は書店経営が忙しかったらしい。東、西、北は他の事件の 依頼を次郎に片付けるよう言われ、走り回っていた。下岡はずっと留守番だ った。神風は授業をしていたらしい。吉田刑事はこの事件を推理し、どうや ら解決したようだった。金田正樹は依然、行方知れずだった。 当日となり、ホテルに行ってみた。下岡は西と一緒に行くと巻添えを食う とか言って、一人で先に行ってしまった。気の弱い彼女らしい。そのため彼 女は会場に一番に着いたらしかった。会場には出席者として流次郎、流秋子、 平野年男、東、西、北、下岡安子、神風来坊、金田正樹、吉田刑事と書かれ てあったが、金田正樹だけは来ていなかった。犯人も居所を突き止められな かったのか、それとも彼が犯人なのか。吉田刑事によると、金田正樹は、西 と同じぐらいの体格で髪はぼさぼさ、小さな目が特徴ということだった。流 次郎にとってはこの時が初対面の神風来坊は、高校の時とは違い、ずいぶん あか抜けした涼しい目の二枚目になっていた。チェッカーズカットをしてい るのが少し、大人げないが。すでに会場の大きなテーブルには料理や酒等が p意されていた。みんな恐る恐る、勝手に席に座った。当然、椅子は一つ余 った。誰も料理に口を付けようとはせず、お互いを観察し会っていたが、次 郎一人、ワインを自分で注ぎ(後で聞くと彼は酒は駄目で、ジュースだった そうだ。)、口を付け、料理も少し食べた。大丈夫なのを見て安心したのか、 他の者も少しずつ手を付け始めた。そんな中、吉田刑事がしゃべり始めた。 「こんな物騒なパーティからは早く退散したいので、言わせてもらおう。 わしは今度の殺人事件の謎を解き、犯人を見つけました。そして、わしはこ の9人の中に犯人がいると断言できる。金田正樹という男が来ていませんが、 彼は南殺しの動機が無いので、関係はないとします。それではいったい誰が 犯人なのか。」 「犯人は誰?早く言って。」 と下岡が横から口を出す。吉田刑事が答えた。 「そう、それを今から言うのです。では、わしの考えている犯人を言いま しょう。まず、東、西、北の三方は南を殺す動機はあるかも知れないが、流 達也を殺す動機が無いので除きます。それから下岡さんは達也氏を好きだっ たと言うことですが、この場合、殺すとしたら秋子さんの方でしょう。これ は冗談として、アリバイの件からいっても下岡さんは除けます。つぎに平野 氏の場合ですが、これも達也氏を殺す動機があったとしても、南のはありま せん。よってこれも除きます。次郎氏の場合は、南殺しの時に完全なアリバ イがあるので、残念ながら除きます。」 こう区切ると、吉田刑事は次郎の方をちらりと見た。どうやら吉田刑事は探 偵の流次郎がでしゃばるのが、気に食わないらしい。次郎の方は何とでも言 え、という風な感じである。吉田刑事が続けた。 「次に神風氏は、第二の事件において完璧なアリバイ、つまり小学校で生 徒達の目の前で授業をしていたという事実がありますので除きます。金田氏 は先にも申し上げたように除くことが出来ます。もちろん、わしは犯人じゃ ない。又カード等から見て、単独犯だと思われます。となると犯人は最後に 残った秋子さん、あなたです。」 「冗談じゃないわ。動機は何よ。言ってみなさいよ。」 と秋子が立ち上がって怒鳴った。みんなの目が、いや次郎を除いてみんなの 目が彼女に集まる。吉田刑事は平然と、近頃の若い者はこれだから困る、と 言うような顔で再びしゃべりだした。 「動機は、御主人が読書ばかりをしてあなたを相手にしなくなった、だか らでしょう。」 「それじゃあ、密室の作り方は。」 「それについてはわしも少し、悩みました。初めは合鍵を使ったのかと思 「ましたが、鍵は達也氏が肌身はなさずもっておられたそうなので、この可 能性はありません。そこで考えられるのは、達也氏が食後、いつも自室にこ もり、鍵を掛けて読書するのを利用し、うまく室内で死ぬよう時を見計らい 食事の中に青酸カリ入りのカプセルをいれたんだと思う。そうして流次郎氏 と平野年男氏が来たのを良いことに自分のアリバイを作り、ドアを壊しても らい中に入り、二人が達也氏の遺体に目を奪われているすきにあの文句を書 いたしおりを本に挟んだんだ。3×3=南、2×4=西の思い付きは素晴ら しいですな。ついでに言っときますと、南を殺した動機は、流次郎に事件を 嗅ぎ回るのをやめ、手を引くようにという警告でしょう。つまり素人の流次 郎氏が名探偵ぶって事件を解決しようとしたため、南は殺されたのです。」 と吉田刑事は言うと流次郎の方を見てから、秋子の方を見た。秋子がもう一 度怒鳴ろうとするのを次郎が制して、 「あなたの推理は欠陥だらけだなあ。」 とサラッと言ってのけた。 「どこが欠陥だらけだと言うんだ!」 吉田刑事が怒鳴ると、次郎はクスクス笑いながら言い返した。 「言ったでしょう、欠陥だらけだと。つまり、どこもかしこもですよ。第 一に証拠が無い。達也の体内からカプセルでも見つかったんなら別ですが。 第二に僕は死体に目を奪われたりなんかは、絶対にしませんよ。第三に動機 がむちゃくちゃです。達也の読書好きは高校からだったんですよ。それを秋 子さんがまったく知らずに、結婚するでしょうか。第四に金田正樹を完全に 無視している。本当に近頃の年寄りはこれだから困る。」 こんなにもけなされて、吉田刑事は怒りが頂点に達したのか、顔を真っ赤に して怒ろうとしたが、次郎はそれに構わないで続けた。 「それでは、私の推理をお話しましょう。秋子さんは先の理由で、犯人で は有り得ません。さて消去法はここでやめて、犯人について少し、考えてみ ましょう。犯人は第一の殺人の時、しおりにメッセージを残しました。つま り犯人は、南というあだ名をその時点で知っていた、と言うことになります。 だから犯人は僕、東、西、北、下岡の五人の中にいるはずです。ここで話が しやすいように、先に密室トリックを解明してみせましょう。達也はページ をめくるときに、指に唾を付けてめくる癖があった。犯人はそこに目を付け、 ページのはしに青酸カリを塗っておいたのです。その本を達也は部屋に持っ て入り、鍵を掛け、読み進めるうちに青酸カリが致死量に達し、死んだので す。密室になったのは犯人の意志ではなく、達也の意志だったのです。」 「おい、その本は調べたんだろうな。」 と吉田刑事は何とか次郎の推理に欠陥を見つけようと、必死の形相で言った。 「まだ調べていませんが、これから理科の得意な西に調べさせます。この ために、道具を持ってこさせたんですから。おい、西、本を調べてくれ。」 驍ニ流次郎が西に命じた。みんなが緊張して見守るなか、西が本を調べ始めた。 十数分後、西が言った。 「結果をお伝えします。青酸カリは検出されませんでした。」 「ハハハハハ、やっぱりな。素人には無理なんだよ。欠陥だらけだよ。ハ ハハハハ・・・。」 と吉田刑事は自分の推理が間違っていたのも忘れて、高笑いをした。ところ が次郎は、何ともない顔で言った。 「思っていた通りだ。これで犯人が断定が出来る。西、おまえだよ、犯人 は。」 「何故、私が犯人なんです。」 と西は汗を大量に肌に浮かせながら、震え声で言った。 「僕を甘くみてもらっては困るね。全く、部下に甘くみられるなんて、心 外だよ。西君、君はサングラスを掛け、あごひげをはやしているが、金田正 樹とは同一人物だと、僕はニラんでいるんだが、違うかな。」 と流次郎は、背広のポケットから本を取り出しながら言った。本を包んであ るビニールを外し、次郎は神風来坊に向かって言った。 「神風さん、あなたは理科の教師でしたね。西の道具を使って、この本を 調べることが出来ますか。」 「出来ますよ。」 神風は、次郎から道具と本を渡されると、調べだした。十数分後、 「確かに、青酸カリがついています。」 と神風が言った。流次郎はその後を受けて、 「つまり西、君は僕が第一の殺人事件において、君に警察が見落とした物 を捜してくれと頼んだときに、本をすり替え、例のしおりを挟んだのさ。本 をすり替えたのは、万が一、密室トリックに気付かれたときの用心のためだ ろう。君は理科の担当だし、薬品工場勤めもしていたのだから、青酸カリも たやすく手に入るだろう。」 と言うと、西はガクガクと震えだしながらも、ポケットに手をやり、薬の瓶 らしきものを取り出した。観念しての自殺かと誰もが思い、目を向け、叫ぼ 、としたところ、それを察したかのように西が、 「心配しないでください。最初の事件以来、体調を悪くしているので、精 神安定剤を飲んでいるんです。私は絶対に犯人じゃありません。これから反 論してみせますから、聞いてください。」 とはっきり言い切って、薬を飲み込んだ。みんなは安心して目を放したが、 それから一分もたたないうちに、西の顔色はみるみる変色し、何というか凄 い顔になって、椅子ごと床にひっくり返ってしまった。吉田刑事が近づいて 脈をとってみたがなかった。顔面に表れた様子から、死因は青酸カリによる 中毒死だとわかった。椅子の裏には、『ここに殺人パーティが終了いたしま したことをお悔やみ申し上げます』と書かれたカードが張ってあった。流次 郎が西のサングラスを取り、アゴヒゲを引っ張ると、そこには金田正樹の顔 があった。吉田刑事が言った。 「こいつが犯人だったのか。しかし流次郎さん、こいつはどうやって達也 氏の本に毒を塗ることが出来たんです?それに南を殺す動機は何なんですか。」 「そこですよ、問題は。もう一人、共犯が必要なのです。いや、こちらの 方が主犯でしょうね。この主犯は予告どうり、2×4=西を殺す、と言うの を実行したのですよ。その共犯とは、先にあげた五人の中では下岡君しか考 えられない。」 下岡の顔が青ざめる。すぐ表情に出るのは、高校の時と少しも変わってない。 次郎が続ける。 「君は達也が好きだった。だが、秋子さんと争い、敗れてしまった。達也 と秋子さんの恋物語を聞いていると、達也が秋子さんを選んだらしい。下岡 君は、それが許せなかった。愛していた分、憎しみと怒りも深い。でも、一 人だと気の弱い君は殺すなんて事は出来ない。そんなとき、うまい具合いに 西が、達也に借金をしている金田正樹と同一人物だと気付き、西を脅かして 殺人を手伝うよう、命じた。そして君は達也に会い、一度本を借りて、西か らもらった青酸カリを塗って返した。高校の時の同級生なら、これくらいの 事は出来るだろう。あ、もちろん、借りた本が達也は未読だということも確 かめて、だ。南を殺した動機は、犯人が僕に挑戦している下のようにみせる ため、つまり本当の動機を隠すためさ。西を殺したのは、西が逆に脅して来 たり、白状したりしないようにするためだろう。西の持っている薬全てに、 髏ツ酸カリを塗っておいたのだろう。ついでに言うと、西だけの罪にできるよ うにという意味もあったのかも知れない。」 下岡は全てを認めた。が、吉田刑事が少し、イチャモンをつけた。 「でも西はよく、予告に2×4と書かれるのを承知しましたね。」 「それはきっと、下岡君が『あんたが疑われないようにするためよ。』と か言ったのでしょう。」 「では、カードの張ってある椅子に、西を座らせた方法は?」 「下岡君は、ここに早く来た。そして全部の椅子の裏に、カードを張って おいたんですよ。」 次郎にそう言われ、吉田刑事が椅子をひっくり返すと、確かにそこには同じ カードが張ってあった。 「あ、それから、この青酸カリのついた本は、うちの事務所の西の机の引 出しの奥から見つかったんです。証拠として、提出します。」 「どうして西は、この本を処分しなかったのでしょうな。」 「恐らく、下岡君を脅迫する材料にするつもりだったんだと思いますよ。」 と流次郎は言った。 帰途の時、流次郎はこう思ったそうだ。 「女の執念は恐ろしい。そういえば、僕が推理を話しているとき、秋子さ んが、頼もしいわって感じでこちらを見ていたけど、簡単に受け入れて、大 丈夫なのかしら。」 −了−
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