CFM「空中分解」 #1695の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
文庫本殺人事件 平野 年男 「いい加減に出ようぜ。」 と、俺、平野年男は言った。でも、俺の目の前に座っている男、流達也は、 「このページを読んでから・・・。」 と言い、指につばをつけて、ページをめくった。達也が読んでいる本の題名 は、推理小説の「カーテン」だ。達也と俺は、高校の時からの友人である。 今は、達也は書店経営、俺は作家をして、それぞれ身を立てている。達也が 書店経営をしているのは、こいつが、大の本好きなためだ。今、こうして、 レストランで食事をしている時でさえ、本を読んでいる。皿には、ほとんど、 手をつけていない。 「さあ、区切りがついたから、出よう。」 と、達也は笑いながら、立ち上がった。こいつが、一週間後に殺されるとは ・・・。 達也は、自宅の自分の部屋の中で、死んでいた。死因は、青酸カリによる 中毒死。読書中に死んだらしく、椅子に座ったまま、机にうっぷして死んで いた。ところで、その部屋だが、読書に集中するためか、机と椅子、電灯の シには、何もなかった。また、窓は一つもなく、入口としてのドアが一つあ るだけであった。錠の仕組みは、外側からでも内側からでも、鍵を使えば、 開閉できるようになっているものであったが、鍵は一つしかなく、それは、 室内の机の上に置いてあった。このように書けば、現場が密室であった事は、 すぐにおわかりであろう。 「第一発見者は、あなたですか。」 この事件の担当となった吉田刑事が言った。 「はい、主人の従兄弟で探偵をしていらっしゃる流次郎さん、それに主人 の友達で、作家をしていらっしゃる平野年男さんと私の三人です。」 と、達也の妻の秋子が、案外、しっかりした口調で答えた。その横では、流 次郎という男が、黙って立っている。秋子というのは、これまた高校の時の 同級生で、仲々の美人だが俺の好みではない。流次郎の方は、俺はこの男と このとき、初対面なので、なんとも説明の使用がないが、第一印象は、顔つ きがするどく、なんでも見抜けるかのような目を持っていることである。背 は一八〇センチぐらい、長髪で鼻が高く足が長い。後で秋子未亡人から聞い たのだが、ギターが大変上手いそうだ。 「発見時刻は午後九時でしたな。その時の様子を話してください。」 と吉田刑事が聞くと、秋子はうなずきながら言った。 「はい、午後七時半頃、私たち二人は食事を終えました。その後すぐに主 人は自室に入り、読書を始めたようでした。それから三十分後の午後八時に、 流次郎さんが訪ねて来こられましたが、急ぐ用も無かったので、主人の部屋 には行かずに私と話をしていました。午後八時二十分に、平野さんが前に借 りていた本を返しにこられ主人の部屋に行きましたが、応答がなく読書に没 頭しているのだと思われ、私たちと一緒に話を始めました。そして午後九時 に改めて平野さんが部屋に行きノックをしたのですが、やはり応答はなく、 力いっぱいノックをしても同じでした。不審に思った平野さんは、私を呼ば れ、応答が無いことを確かめ、鍵がかかっていたので、平野さんと次郎さん のお二人がドアを壊して、中に入ってみますと主人は死んでいたのです。」 「どうも。お二人さん、今の話に間違いはないですな。」 と吉田刑事は俺と流次郎の方を向き、言った。俺達がうなずくと、吉田刑事 は続けた。 「すると密室になっていたのだから、自殺の可能性が高いようですな。遺 書はないようですが、自殺する理由は思い当たりませんか。」 「いいえ、何もありません。経営はうまくいってお金を貸せるぐらいです し、私たちの仲もうまく行っていましたわ。」 と秋子が答えるのに続いて、俺と流次郎も思い当たらないと答えた。 「ふうむ、動機無き自殺ですか。」 「ちょっと待ってください。刑事さん、あなたは自殺と決めてかかってい るようだけど、危ないんじゃないかな。」 流次郎が言うと、吉田刑事は乱暴な口調で言い返した。 「何を言っているんだ、君は。密室だったんだぞ。」 「それが危険な考えだと言っているのです。密室だから自殺だとは限りま せん。少なくとも、この事件では他殺です。」 「どうしてそんなことが言える。」 「死因は青酸カリでしょう?見たところ室内にはコップなどはなかった。 青酸カリを水分なしに飲むでしょうか。」 「そう言われればそうだが。仕方が無い、他殺の線も調べるか。害者に恨 みを持っているような人は。」 「恨んでいるかどうかわかりませんが、高校の時、主人は神風来坊と言う 方と恋敵だったらしいのです。つまり、その方と主人はどちらが早く私の心 を掴むかと言う競争をしていたようです。私はほとんど気づいていませんで したが。それともう一人、金田正樹と言う人です。千二百万円ほど、貸して いたはずです。」 「そうですか。じゃ、平野さん、あなたが思い当たる節は。」 「そうですね、別にありませんが、奴は読書に熱中しちゃいますから、人 の話を聞いていないときがあるんです。だからそういう点でみれば、友人の 全員が腹立たしく思っていたかも。」 驍ニ俺は冗談めかして言った。続いて吉田刑事は次郎にも、同じ質問をした。 「右に同じ。」 次郎はそっけなくこう言ってのけた。吉田刑事は苦い顔をして次郎の方をに らんだが、次郎の方は気づいていないようだ。 「主任、死亡推定時刻は午後七時から九時と言うことです。」 突然、吉田刑事に、部下らしき人が告げた。 「そうか。ご苦労。となるとあなた方三人の証言が正しいとすれば、午後 七時半から九時の間に犯行があった事になりますな。」 「そうすると犯人は何らかの方法で、達也に毒を飲ませる仕掛をした事に なりますね。」 と次郎が言った。 「そんなことはわかっている!」 驪g田刑事が怒鳴る。 「本当にわかっているのですか?謎が五つもあるんですよ、この事件には。 第一に当然ながら、犯人は誰かと言うこと。第二に何のために密室を造った かと言うこと。第三に青酸カリをどうやって入手したかと言うこと。第四に 動機は何かと言うこと。第五に密室内での毒殺であるのに毒を入れる容器が 発見されていないと言うこと。この五つです。密室の作り方は、そう問題で はない。」 「まるで名探偵気取りだな。ま、素人は引っ込んでいた方が無難だぞ。秋 子さん、それでは我々はこの辺で退散させてもらいます。後日、犯人を挙げ てお会いできるでしょう。」 こうして警察は帰って行った。その後次郎は秋子に十円玉を指で弾いて渡す と、 「電話、借りますよ。部下を呼びます。」 と言った。電話をしてから十数分で四人の男が来た。次郎が俺達に部下を紹 した。 「この四人が僕の部下の東、西、南、北です。尤も本名じゃなく、覚え易 いように僕が勝手に名付けたんですがね。」 東は背が二メートル近くあり、指が長い。運動と雑学が得意だそうだ。西は サングラスをかけ、アゴヒゲをはやしている小男だ。数学と理科が得意。南 は女のように色が白く、肌がきれいないわゆる美少年タイプだ。語学ならほ とんどできる。北はまだあどけない童顔の男の子という感じだ。社会が得意。 次郎が続けて、 「まだ秘書として下岡という人を雇っているんですが、今日は留守番でね。」 と言ったのを聞いて、俺と秋子は顔を見合わせた。 「下岡って下岡安子かい。」 「そうですよ。ご存知なんですか。」 「ご存知も何も、高校時代の同級生ですよ。よくよく縁があるんだな。彼 女、達也のことが好きだったらしいな。」 と俺は次郎に言った。次郎が言う。 「それはともかく、警察に負けないよう、こちらも部下に調べてもらわな ければならない。東は神風、北は金田を調べてくれ。西は現場に警察が見落 としたものが無いかどうか調べてくれ。僕が思うには机の上の読みかけの本 が怪しいと思うんだ。南は調査結果をまとめてくれ。」 東と北はそれぞれ人物を調べに行き、南は探偵事務所に戻り、西は現場であ る達也の部屋を調べだした。不意に西が言った。 「本に挟んであったしおりにこんな事が書かれていました。『連続殺人の 幕が今ここに切って落とされたことを祝福しますなお次の被害者は3×3そ の次は2×4であります』と言う事です。指紋は恐らく無いでしょう。」次 郎はそのしおりを西から受け取ると、じっくりとにらんだ。句読点がなく、 読みづらい文である。次郎が言った。 「犯人は少しは頭はいいらしいが、古風で子供っぽい奴だなあ。」 三日後、調査結果がでたと言うので、俺は作家としての興味もあって、次 郎の探偵事務所に言ってみた。小ぎれいな一戸建ての洋風建築だ。ガレージ には水色のバンが停まっている。中に入ってみても、きれいに整理してある。 受付らしい席に下岡安子が座っている。軽く挨拶をしてその前を通り、俺は 流次郎の前に腰掛けた。次郎が言った。 「ようこそ、平野さん。」 「そのさん≠トのはやめてくれないか。せめてくん≠ョらいにしてほ しい。」 「では、平野年男君、来てもらってからこんな事を言うのは申し訳ないん だけど、調査結果をまとめる南がまだ来ていないんだ。他の者は来ているん だが。」 「電話はいれてみたのかい。」 「いれてみたが応答が無いんだ。先程から何度もしているのだが。」 「出ませんわ、先生。」 と下岡が流次郎に言った。次郎は少し考えてから言った。 「これは行ってみた方が良さそうだな。」 「私が行きましょうか。」 下岡が高校の時と変わらぬ気の弱そうな顔付きで言ったが、流は、 「いや、なんだか嫌な予感がする。僕自身が行こう。」 と言って出て行った。俺も付いて行った。バンで南の家に乗り付けてみると、 その室内には、南のつめたくなった身体が転がっていた。 吉田刑事が来た。 いろいろと調べた結果、死因は鈍器による後頭部殴打。凶器はテーブルの上 にあった青銅のおきもの。鍵はかかってなかった。死亡推定時刻は昨日の午 前八時から十二時の間。俺や次郎、秋子それに下岡、東、西、北が呼ばれ取 調べを受けた。アリバイは、俺や秋子は自宅にいたとしか言えず、証明でき 驍ネかった。次郎と下岡は探偵事務所にいた事をお互いに証言しその上、他の 事件の依頼者が来ていたので証明された。東、西、北は調査に奔走していた ので証明できなかった。やっと解放された我々七人は探偵事務所に集まり、 南が死んでしまったので、東と北から人物の調査報告を聞いていた。まず、 東が言った。 「神風来坊はある小学校の理科の教師をやっています。そこはかなり理科 室の設備が整っており、青酸カリの入手は可能です。第一の事件のアリバイ 驍ヘありません。」 つぎに北がしゃべり始めた。 「金田正樹はある薬品工場に勤めていたようですが、しょっちゅう休んで おり、三週間前からは完全に姿を消しています。よってアリバイはわかりま せん。薬品工場なので、青酸カリの入手は可能です。」 「まず、神風という人の第二の事件のアリバイを調べて見るんだな。」 と俺が言うと、次郎が答えた。 「そのくらいの事、警察がもう調べだしているだろう。それよりもどうや らこれは犯人の挑戦だね。」 「そんなこと、明かじゃないか。」 「そうだけど、挑戦の相手が警察ではなく、この僕のようだということに 驍ネるんだよ。先程、吉田刑事は盛んに南を恨むような者はいないかと聞いて きたが、あれは完全に的外れだね。何故なら南というあだ名を知って犯人は 予告カードに3×3と書いているのだから、犯人はこのあだ名を知っている 僕、東、西、北、下岡に絞れるのに。」 「俺も知っているぜ。」 「君は第一の事件の時までは知らなかった。犯人はそのときすでに、南の 事を知っていたはずだ。しおりがあったから。よって君には疑いはかからな いのさ。これは秋子さんにも言える。」 「あら、私、主人から聞いて知っていましたわ。」 「おやおや、疑いがかかると言うのに、正直な人だ。」 「それより、どうして3×3が南になるんだ。それに達也と南を殺す共通 の動機は。」 「それは時機にわかるよ。それよりも僕は吉田刑事が本に挟まっていたし おりについて、こんな重要なものを見落とすなんて信じられない、と言って いた事が気にかかる。」 −続く− ..
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