CFM「空中分解」 #1676の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
汝が人生は曲線の上にあり 「新聞見た?」 「ああ見たさ」 「あいも変わらず、与党の圧勝ね」 「ボケボケのじじいなんかに選挙権を与えたままだから、こういう結果になる。まった く。ロージンホームの園長を抑えちまえば、ここの有効票の四割はかき集められるんだ から」 「ところでさ、緑さんから頼まれた仕事、うまくいってる?」 「だいたいは、終わったんだけどね」 「どれどれ。私が助言を与えてしんぜよう」 「宏美の意見なんか、役にたつかよ」 「言うじゃない」 「ああ言うよ」 「ったく」 「絵画なんて、興味ないくせに」 「いいから!」 「F氏の作品を解釈することが、まず先決だろ。それくらいは解るね」 「解るわよ。そうでなきゃ偽物かどうかなんて解るわけないじゃない」 「そこでだ。彼の作品の評価をグラフに表わしてみたんだ。そうすると、面白い結果が いや、面白くはないが。点をプロットしていくと、くるくると回りこんで、破局に向かってるのが分かる。……ほらね」 「いきなり話がトブのね」 「だから言いたくなかったんだ」 「でも、どういう評価なの。これ。エックス軸とワイ軸の意味するところが全く理解で きないわ」 「僕にも説明できない」 「ほんっっっんとに、あんた……いいかげんね」 「まあ、いいじゃない……F氏はこのカタストロフを知っていたんだ。画家自身が自分 の作品に対して、こういう評価ができるとは思えないんだけど、そこは偉大な芸術家の 直感てやつでね」 「……それで」 「それでって、分からない?」 「いいから続けて」 「自殺したのさ」 「どーゆう理由よ」 「たとえば、山で。酷い吹雪のとき、どうするかって問題だ。常識だとそこでじっとし てるのが得策だよな。救助してくれるかもしれない、待っていればこの吹雪が止むかも しれない、からね。だけど、彼は、おそらく芸術家っていうのはきっとそういう人間だ と思ってるんだけど、こっちが麓だって思って歩き始めちゃったんだな。この例え話、 嫌い?」 「えっと。人間には左だか、右だかに曲がる癖ってのがあって、また元にもどっちゃう んでしょう」 「そうそう。きき足の側だったか、どっちに曲がるのかは忘れちゃったけど、そのとお り」 「だから。なんなの」 「F氏は芸術という手段を用いて、麓へと向かおうとしていたのに、たどり着くだろう そこが、麓ではなかったって事。例えばさあ、煮詰まる、って経験あるかな。どうにか 変えようと思っても、変えられない。抜けようと思えば思うほど、そこにはまり込んで いってしまうような世界」 「分かりにくいなあ。もう少し、ヒントちょうだい」 「E氏の漫画好きだったよね」 「うん!」 「汚い言葉だなあ」 「あの人の作品、ほとんど全部、台詞まで覚えてる」 「それじゃ、欲しいものが、てにはいらないっっっ! って台詞がある場面覚えてる?」「ああ、作者自身が出てきて言うのよね」 「そう。あの作者は、その先のストーリーが出てこなかったんだ」 「なるほど。煮詰まるって意味、分かる気がする」 「彼は幸い、マルチな人だから、自殺までいかなかいだろうけど」 「違うわよ。お気楽な人間だからよ」 「そう? まあいいけど」 「けど……けどね。行き詰まったぐらいで、人間、死ぬもんかしら」 「自分自身では革新的なもの、これまでに誰もが到達し得なかったもの、に挑むつもり が、いつのまにか、自分自身の作品の醜悪とさえ思えるコピーに成り下がっているんだ 彼のインタビューとかを作品発表年と照らしてみると解る。作品の間に、ドラック、離 婚と結婚の繰り返し、同性愛に走ったり、挙げ句のはてに殺人未遂まで犯してる。下手 すりゃ、画家としての彼の生命が絶たれる所だ」 「そんなことまで?」 「彼にそんなことまでさせたのは何か? 新しい知覚、未知の感覚とか、おそらくそう 言ったものだろう。これまでのものの見方を変え、普段通りのものであるはずのものを 別の次元から捉え直す。……まあ、これは芸術全般に言えるもので、僕が考えたわけじゃない。昔から皆がしてきたことだ」 「そして、行き詰まったのね」 「そうやって行き詰まったということが、どんなことだかわかる? 僕にも分からない し、誰にも分からない。……だから、あとは天国か、地獄からの視点を求めるしかなかったのかもしれない」 「あたしも今の会社じゃ、才能認めてもらえそうにないし。私も行き詰まっちゃったの かな……いっそ会社やめようかな。ね。どう思う?」 「しらないよ。そんなこと」 「どーせい愛に走っちゃおーかぁ?」 「おねがいだから! 同性愛に走っちゃった時は、俺に言って。カメラ持ってって、録 画するから、ね」 「いーかげんにして!」 「まあまあ。それはこっちに置いておいて。これでF氏の自殺の解析は、ここまで。そ して、例のF氏の名を騙って作品を描いていたんじゃないかって言うL君だが……まあ 誰が描いたかどうかはおいておいて、緑さんに鑑定を頼まれた一連の作品をここのグラ フに重ねてみる」 「ぴったり、ってわけね」 「そうなんだ。F氏のタッチを真似た偽物じゃないか、だから本当はF氏の作品じゃな いんじゃないか、って言う作品が、だよ。確かに点までは重なってはいない。同一作品 としての贋作ではないからね。しかし、F氏のこの作品の曲線上にぴったりのるなんて 本人による本物以外の何物でもない証拠だ。だいたい、全く同じ評価尺度で描かれたグ ラフに描ける事自体がおかしいんだ……もし他人が描いたというならね」 「これはF氏のだ、って言う先入観からかも知れないじゃない」 「いや、違うと思う。そして、今、ぼくの言ったことも違う。明らかに緑さんに頼まれ た作品は、F氏のものではない」 「違う誰かが描いた作品が、F氏のもの、だったわけね」 「そう。透過撮影してみると分かるけど、色ののる前の段階、絵の具を削った跡とかは 確かに他人のものだ。それなのに、確かに作品としてみれば、F氏の作品なんだ……だ から……」 「だから?」 「……だから。答えは、ない」 「私なら。私なら、ね。……やっぱり、他人の作品。つまり、L君の作品だ、って結論 したいな」 「そうなんだ。僕の答えは、逃げなんだ。はっきり言っちゃうとね。でも、僕は緑さん にこう答えようと思う。F氏の作品だ、って」 「やさしい、のね。やさしすぎるわ。私には、それが本当に優しさかどうか、分からな いけど」 「そうは言うけど宏美の答えじゃ、残酷すぎる」 「緑さん!」 「有田さん「「」 「……聞いていたのなら、答えは御分かりでしょう」 「「「宏美さんの言う通り、有田さんの答えは……いえ、答えを出してしまうことが… …私には残酷だわ」 「これは問いかけが生まれたときから、答えがない問題だった。L君の感性がF氏と同 期してしまったときからね」(しかし……一世紀も違う時間を越えて、人間同士が全く 同じ感性を共有することがあるだろうか?) 「そして、L君が自殺し、君が疑問をもってしまったことで、答えを出さなきゃならな くなった」 「そんな答えなんかいらない」 「君はどっちの答えも望んでなんかいなかったのさ」 「やめて!」 「L君が君のお父さんに絵を持ってきたとき、恋人である君は直感的に、それはLが描 いたものだって知っていたんだ。だけど美術商に勤めていたL君は、F氏の作品といえ ばそれがさばけると思ってしまったんだ。自分の作品だというより、高く売れるってね」「彼は贋作なんか売ってないわ」 「緑さん。いったいどっちの答えが望みなんだい。Lの誠実さを裏付けるものか、才能 を裏付けるものか。作品がF氏の描いた本物なら、彼は詐欺を犯したことにはならない 作品が偽物なら「「F氏よりうまく描けている偽物として、おそらくL君は話題を呼び Lは名を残すことになろう」 「……」 「緑さんの本心はきっと……L君の描いたL君の作品だという答えを望んでるんじゃな いの? というより真の答えは、そうなんじゃないかしら。……だって、彼は「「L君 はF氏と同じに、このカタストロフの上を突き進み、思い悩み、自殺してしまったんだ から」 「ほら見て、L君のこと。新聞に出たわ」 「おいおい。朝っぱらから、事務所きたりして、会社はどうしたんだ?」 「やめちゃった」 「まったく、しょうがないな」 「なによ、その笑いは」 「なんでもない。……どれどれ、貸してみて。『F氏の魂、死なず』ねぇ。 『……しかし、著名な批評家T氏はこの透過写真をみても、まだF氏のものだと主張す る。「科学的分析を信じないわけじゃなくて、つまり、この作品群がそれだけ優秀だと いうことです」これからもこの一連の絵画の評価には議論が絶えないであろう。しかし 偽物として売りつけた罪は残ったとしても、純粋な作品としてみた時、そこには嘘のな い真の輝きが与えられていたということになるのではないだろうか。』 あれ、俺の意見は何処に書いてあるんだ?」 「誰があんたのようなプーたろうの意見載せますか」 「わるかったな。プーたろうみたいで」 「そろそろこんなやくざな商売やめて、なにかに真剣に打ち込んだら?」 「はい、はい」 「あんたには人生ってもんが分かってないらしいわね」 「人生に答えはないんじゃない。もっともらしい言葉だけど、そう思う。例え俺が、ど うしようもない曲線の上を歩いているなんて考えても、誰にも分かりはしないんだ」 「そのこと、私も考えてたのよ。もしかしたら、F氏も、Lさんも、見落としているこ とがあったんじゃないかって」 「おもしろい。聞かせてよ」 「一本、軸が足りなかったのよ。例えば、この前のグラフで言えば、Z軸ね。彼らは平 面を這いまわってるって勘違いしてたんじゃないかしら。人間は、回りながら高みに登っていくと思うの。だがら、死を選ぶなんて間違っているのよ。例えそれは低い山でも、 次の山へ、また次の山へと何かを目指しつづけるんだわ」 「でも、彼らが登ったところから見た世界がどんなものだったか、ぼくらには解らない んだよ。もしかしたら、地獄が見えたのかもしれない」 「そう。そこから見えたのは地獄だったかもしれない。でも、それは天国だったかもし れない。例え地獄だったとしても、彼は彼の描く絵によってそこにいる人達を救うべき だったんだわ。そこから逃げてきて、逃げきれないと解って彼らは死んだのよ。私たち を見捨てて。自分の定めから逃げようとしただけよ」 「もうやめよう。こういう救いのない話は」 「そうね。今更、どう考えても無駄なことね」 「それより、会社辞めたんだから、次のステップは同性愛だね」 「なんでそーなるのよ!」 END
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