CFM「空中分解」 #1640の修正
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下関の九月。空には煌々と照らしだす月。二人の青年が向かい合って座っていた。ひとりは徳利をぶら下げている。名を杉野森という。杉野森は、もう一人の松本という男に徳利を差し出し、濁り酒をすすめた。 すすめられた松本は、濁り酒のなみなみと注がれた茶碗を口元に近づけたが、その茶碗を再びおいて語りだした。 「花の下では花びらを杯に映すような清酒がよいが、このような名月の下では月の白さを思わせる濁り酒がふさわしい」 「うむ」 「濁り酒というと一段下がったものとしか考えない輩がいるが、とんでもない話だ」 「うむ」 「ある意味では、濁り酒こそが水増し用のアルコールの入っていない、混じりけのない酒だ。米だけがこの味を」 「うむ」 「たとえば酒を傷口につけてみるとよくわかる。まっとうな酒なら消毒になるが、変な酒だとかえって傷が」 「うむ」 「それはそうと、文化人症候群と言うものを知っているか。自分の意見をまくしたて、人の意見は問ど」 「うむ」 「用と相手にしない。正論でぶつかる相手にはあるいは誰かのお」 「うむ」 「返しじゃないかと批判する。相手に」 「うむ」 「を言わせないんだな。だが、そう言っている本人はというと、確かに他の人間とは違うことを言っているように見えるが、それだけなんだ。自分はそこら辺の有ぞ」 「うむ」 「象とは違うんだという顔をしていても、自分自身の意見なんて物は何もない。あるのは世間と逆の意見だけだ。でも、祇園精舎の鐘の声、諸ぎょ」 「うむ」 「常の響きありってことだな。ああ言うのも一種の流行廃りに過ぎないのだ。渡○昇○なんて、何とかいう東大助教授に完全に押されて、姿も見られないじゃないか。まあ、渡○昇○の場合は、テレビのボリュ」 「うむ」 「を下げればいいことだが、厄介なのはそんな奴が身の回りにもいることだ。やあ、月が完全に見えなくなった。しょうがないか、有明の月だからな。しかし朝っぱらからこんな物を飲まなければならないとは嘆かわしい。あの、このバリ」 「うむ」 「ほんとに飲むんですか。まあ、健康診断だから文句言っても始まらないか」 医者にかかるのも大変なのだ。 [完]
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