CFM「空中分解」 #0542の修正
★タイトルと名前
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闇の中、光輝く、二つの目。いや、一対の目、といったほうが正しいのかも しれない。光る、といっていいべきか?その眼光は、正しく人間の物ではないか。 なぜならば、それは獣の輝きとは異なる色を光を放つ。 「畜生・・・」 それは、やはり人間であった。かすれた声で、言語を使う。言葉を使えるのは 人間に他ならぬ。 夜の静寂をぶちこわすような、銃声がした。それが潜むしげみが、一度だけ、 音をたてる。 いま、微かに歯ぎしりが聞こえたような。 「いたぞ、こっちだ!!」 今度は、確かに人間の声がした。足音が、複数聞こえてきた。一人、二人・・・。 気配が近付く。 ガサッ。しげみから黒いものが飛び出す。さっきの生き物だ。 −−それは・・・!!これを人間と呼べるのであろうか?いや、姿形は人間そのもの。しかし。驚くべきことに、それは通常の人間が持つべきものがなく、ないはずの ものを持っていた。年は15、6か。その少年に、耳はなかった。 あるというべきか。しかし、それは人間の耳ではなかった。獣の耳・・・犬の耳が 普通の人間の耳があるべき場所に付いていた。 そして、尻尾!!フサフサとしたそれは、犬の尾である。尾、という以外なんと いえるのであろうか? 「見つけたぞ、この野郎」 下賎の民のようなその声は、聞き苦しく、重装備の姿は醜かった。 「手間をかけさせやがって。」 もう一人のものが、にくにくしげに呟く。 「おまえが最後だ。最後の一匹だ。」 その言葉が命取り。 ~~~~ 「・・・・・・」 少年・・・いや、犬は。その言葉を言い放った男の喉笛に噛みついた。 野道が朱に染まる。その朱は、殺された男のその血は、心なし、薄汚れた朱であった。 もう一人の男がその醜い顔をこわばらせ、後退した。 「おとなしくセンターに戻れ。命だけは助けてやる。」 精いっぱいドスのきいた声でいっても、それは無駄な努力というもの。声が 恐怖のためハスキーになっている。 「いやだ。」 ひとこと。それだけいって、少年は男に飛びかかった。 銃声はただ一度。 やがて。路上は朱。深紅に染まった。 断末魔のあがきとでもいうのか。男の手と、少年の尾がびくんと震えた。 あれは、いつの頃だっただろう。少年が人間になりたい、といいだしたのは。 遺伝子操作の結果生まれた−創られた−彼は、センター以外の場所、即ち外界を 知らなかった。人間は、そんな彼にとって羨望の的であった。犬として生まれた 彼は、こう願った。今度生まれてくるときは、人間になりたい・・・と。 所詮、それもただの夢にすぎぬ。犬に生まれたものが人間になれる筈がない。 が、彼は。つい数日前まで、心底そう願っていた。けれども、数日前の出来事が 彼をかえた。仲間が、殺された。上司に叱責された部下の腹いせによって。 彼は怒り、それを殺した。殺すのは簡単であったが、そのあとが問題であった。 下手をすれば殺される−−その意識から、彼は仲間と脱走を試みたのだった。 少年の手が、もう一度震えた。首が起き上がる。 「ち・・・くしょう・・・」 うめくように声を振り絞る。 「何が人間だ・・・。ふざけるな・・・。俺は犬だ。もう、二度と・・・」 声が小さくなっていく。 「人間になり・・た・・い・・・などと・・・」 首ががくんと垂れた。 少年の頬をつたうものは、こめかみの傷から噴き出した血の様でもあり・・・ 涙のようでもあった。 (Fin)
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