CFM「空中分解」 #0541の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
近ごろ山上さんは元気がない。クラス内では元々静かなので全くといっていいほど 変わっていないのだが、閲覧室ではファンヒーターの通風口ギリギリに椅子を寄せて 背を丸めて読んでいるといった風に元気がないのだ。僕が同じくらいのところに椅子 を置くと、5分と我慢できない。(寒がりの僕が、である)もしかしたら、燃えちゃ うんじゃなかろうか、と心配しつつ今日も読書の付き合いをしている。 僕はなんとなく山上さんの中身がどっかへいっちゃったような気がしてならなかっ た。あんなに活発だった(僕に対しては)彼女が、今週になって僕とは挨拶程度の言 葉しか交わさないというのはどうしたわけなのだろうか?まぁ、人間にはいろいろな 波があって鬱状態になったりするということもある。僕だって子供ではないから、そ れくらい理解できる。しかし、一言調子が悪いとか、なんとか言ってくれてもいいで はないか・・・ ジュ・・・ジュジュ・・・ブチブチブチ・・ 鼻を突く厭な臭いが音とともに僕を我に返してくれた。ふと、振り向くと山上さんが そのままファンヒーターに寄り掛かっているではないか!さっきの音はもしや・・・ 僕は考える間もないままに彼女を抱き起こした。そして、とっさに髪に目をやった 。茶色くなってないな。次にざっとだが制服を見回した。どこも焦げた様子はない。 とりあえず山上さんを近くにあった新聞コーナーのソファに寝かせた。 その時だった。山上さんをどけた時に崩したときに落としたと思われる週間雑誌が 鮮やかかな閃光を放ったのは。火はみるみるうちに雑誌のあちこちから現れた小さな 炎が集合しあっという間にひとつの生命のようになった。が、しかし、ファンヒータ ーの吹き降ろす熱風が灰なった紙片を吹き飛ばすとボウ゛ォォォ!と唸り声を上げな がらも小さくなっていってしまった。 僕はバサバサと炎を踏み付けて消火したあと、山上さんのほうを見遣った。彼女は ぐったりと瞼をとじたままだった・・・ ソファごと、天窓から差し込む西日の当たるところへ移動させるとすぐに山上さん は気がついた。日に当たって輝く髪とは対象的にその顔は蒼白であった。彼女は眩し そうに瞬きをしてから、僕に無理矢理笑顔をつくってみせた。しかし、その頬に痛み からくる震えが一瞬走ったのを僕は見逃さなかった。彼女はそれでもなんとか隠そう としたらしく、上半身をぐぃと起こし肘立てに腰をあてがうようにして態勢を保った 。僕は余計にみていられなくなってしまった。 「紀実さん、体の調子が悪いようだね?大丈夫かい?」 「うぅぅん、心配なさらないで・・・ちょっと昨日夜更かしをしたものだから眠くな ったと思うんです・・・」 「寒くはないのかい?」 「ええ、もう大丈夫。本当に。どうもすいません。」 「そりゃ、僕はいいんだけれども・・・でも・・・」僕は彼女の真っ青な顔が引きつ るたびに言葉をとぎらせてしまっていた。「顔色が・・・」 「・・・でも、大丈夫、本当に!」彼女の声はけんのある物だったが悲しいことに、 僕には息漏れの方が大きく聞こえてしまったのである。 「病人なんだから、無理せずに今日は下校しようや。」 「まだ・・・ちょっと調べ事がありますので・・・橋本くん、先に・・・」 「先になんか帰れるわけないでしょうが!」 「・・・もう駄目なのよ!」山上さんは、一気に噴き出したかのように言葉を吐き出 した「パワーが・・・パワーが使えなくなって・・・」 「う・・・嘘でしょ?」 「嘘でこんなことが言えますか!」流れ落ちた涙が眼鏡の縁で止まり溜まっていた。 「・・・先週、マラソン大会以降からかなぁ・・・パワーで持ち上げるとき体全体に ズゥーンとした重さがのしかかるようになったの・・・今週に入るとその重さが普通 にしていても残って、使うたびに増しているよう・・・段々パワーが出せなくなって きて・・・今日なんか・・・今日なんか・・・」 「今日何か・・・あったのですか?」 山上さんは苦しそうに息を詰まらせた。 「・・・橋本君を呼ぶことができなかったのよ。」 確かに今日は彼女からテレパシー(と、勝手に僕らが言っているのだが)は送られ てこなかった。では本当に、彼女からパワーが消えうせてしまったのだろうか?彼女 の体調の悪さもそこからきているのだろうか? 「体調が悪いからでは、ないのかい?」 「違うでしょうね。だって、パワーがそういう現象を現してからですもの。」 「医者は?」 「・・・・・・・」 「見てもらってないのかい?」 「怖いんですもの、私が普通の人間と違って・・・」 僕は紀実さんの瞳を見た。午後のセピアがかった光の中でキラリと輝いた。瞳孔の 深みのある黒が微妙に大きくなったり小さくなったりしていて、輝く水滴の中でとて も美しくみえた。その目には希望の光より助けを求める色が多いように思えた。 「わかった。」僕はソファの横に腰を降ろした。「分かりました。大丈夫。何も心 配することはないよ。」 「でも、」 「静かに。もし、紀実さんのパワーが、その、なんです、使うことが出来なくったっ て、あなたが僕にくれた分が残っています。病院で不安なことがあったらそれを使え はいい。」 「でも、」 「″でも、″よりも早く病院にいくことですよ、魔法使いさん。」 結局、山上さんは2日ばっかり休んだ程度で元気に復帰した。クラス内では相変わ らずであり、山上さんが″魔法使い″だってことや僕とのことなども一切知れていな かった。(そこが重要なのですよね)そして、僕の中にある″魔法″は使わずに済ん だのでありますが・・・ 「また、疲労になりますよ。・・・手が空いているのならそれで持ちゃあいいでし ょうが。」僕はすぐ横でプアプア飛んでいる「2010:odyssey two」 を横目で見ながら紀実さんに声をかけた。 「もう大丈夫よ、よくよく考えたらこの間は使いすぎちゃったのよ。」 「もう、知りませんからね、ズゥーンと重くなっても。もっとも、元気になって重く なるかもしれませんがね。」 「じぁ、カロリー計算できる人と交際しましょうかねぇ。」 「どうぞどうぞ。」僕は本棚から閲覧室に通ずる長い通路を彼女の後ろを、クラーク 先生の御本といっしょについていきながら、おどけた。これこそ骨が喉元から取れた 思いというのだな。 と、そのとき山上さんが立ち止まった。本がバラバラとページを空気を切って落下 したので僕は床ぎりぎりで受け止めることが精一杯だった。まだ、本調子じゃないん だな、僕はテレパシーで何が起こったのか聞いてみることにした。 ″どうかしたのですか?″ ″誰か、人がいるのよ。閲覧室に″ ″そんなぁ〜″ 僕がもう一回考えをおくろうとしたとき、バケツとドロドロになった雑巾と何やら 大きなものをもって用務員のおじさんが出てきた。 「閲覧室を使えないんですか?」 「いやいや、使えるよ。しかし、馬鹿がおってな、ファンヒーターに雑誌を突っ込ん だ奴がおるんだよ。まったく・・・お陰で、雑誌のビニール・カバーの溶けたやつが ほれ、このとおりだ。」と言って、おじさんは通風口の格子の部分を前に出して見せ た。黒くなったビニールから異臭がまだかすかに立っていた。 「新聞コーナーのところが日当たりが良くて気持ちがいいぞ。どうせ、本読みがアレ じゃないだろう。」おじさんは目を笑わせながら事務室へと足を進ませていった。 「と、いうことらしいですよ、魔法使いさん!」 僕らは、ちょっとほこりっぽいしかし、そのために光のカーテンが交錯する閲覧室 へと入っていった。そとからは別の方法でおのが青春を過ごす若人達の掛け声や歓声 がこだましてきていた。 −−−−−FIN−−−−− PS:来訪者は、試験がおわってからねぇ
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