CFM「空中分解」 #0539の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
久美子は、あれから久野管理人の部屋に呼び出しの手紙を入れたのだ・・・ 推理した事を事件の一部始終を見ていたように書いて、ほとんど脅迫まがいの手紙に したので、久野管理人も口封じの為か、呼び出しに応じたのである。 「止めてったら!そんなもので刺したら怪我するでしょう! 逃げられやしないんだから」 「お嬢さんが永久に黙ってくれれば、バレないさ」 ポンプ室の太い鉄管を盾にして、久美子はあちらこちらと逃げ回る・・・ 後をじりじりと追いかけて、隅の方に追い込もうとしている久野管理人は、顔の相も 変質者そのものに一変して、目の光も気違いじみてきた。 さすがに気の強い久美子も、豆電球の下で殺風景な狭いポンプ室を逃げ回るのには限界 が有るので、ぞっとする恐怖が襲って来る・・・ 「あいつ、何してるんだろ?私が殺されちゃうじゃない・・・」 いつしか、汗びっしょりで右に左に逃げ回る久美子だった。 「さぁ、もう逃げられないぞ・・余計な事に首を突っ込んだのが不運だったな、儂は もともと臆病者でナイフを使って人を殺すなど、恐ろしくて出来なかったのだが こうなればしかたない、命は貰うぞ」 とうとうポンプ室の隅に追いつめられて、万事休すとなってしまった。 「お願い!やめて・・・助けて!芳夫君!」 気丈な久美子も思わず悲鳴がでる・・・ 久野管理人が不気味に光るナイフを構えて、身をすくませている久美子に飛びかかった のと、鉄製のドアが開けられて何物かが飛び込んで来たのは、殆ど同時であった。 「ウッ!」 久美子と管理人の間に飛び込んだ男は、右の二の腕を押さえてうめき声を上げた。 押さえた手の間からみるみる血が吹き出して来る・・・ 苦痛に歪んだ顔は、いつもの芳夫君より数段頼もしく見えた。 「芳夫君!大丈夫?」 「ああ、平気だ・・・遅くなってゴメンよ・・・もう警察も到着する頃だ」 その言葉を裏付けるように遠くからパトカーのサイレンが聞こえて来る・・・ 「畜生!」 久野管理人は捨てぜりふを残して、ドアから外に飛び出していった。 緊張の糸が切れたのか、腕の痛みに耐えかねたのか、芳夫君は腕を押さえたままガック リと片膝をつく・・・ 「ね、芳夫君!怪我はどうなの?酷い血だわ・・・ 早く医者に行かないと死んじゃう!」 「久美子、頼みが有るんだけどな・・」 「え?」 「このまま死んでもいいから、キスしてくれ・・・」 私は、思わず絶句してしまった・・・ 「そんな事言っている場合じゃないでしょ・・・酷い怪我なんだから」 「う、腕の動脈が切れていたら出血多量で、医者に行くまで保たないかもしれない・・ 最後の頼みだ・・・もう、久美子の顔がよく見えない」 後になって考えると、あんな暗いポンプ室の豆電球で、しかも逆光になっているのに顔 が良く見える訳はないのだが、その時は結構悲壮な気持ちになってしまっていた。 私は意を決して芳夫君の唇に自分のそれを押しつけた・・・ 芳夫君に肩を貸してポンプ室から出て来ると外はすっかり暗くなって、団地の外れに 赤いランプを点滅させたままパトカーが数台止まっている。 「久美子、大丈夫だったか?」 よれよれのトレンチコートを翻して走ってきたのは、兄の後藤刑事である。 「お兄さん!芳夫君が刺されて怪我しちゃった!」 「なに!それはいかん!すぐパトカーで病院に運ばせる!」 病院に向かうパトカーの中で、久野管理人が逃げだしたところを逮捕された事を聞かさ れた。 兄に勝手な行動を酷く怒られたこともつけ加えておこう・・・ それから芳夫君の怪我は以外に重くて、全治2週間の創傷だったが神経が切れていな かったのは救いであった。 その夜、久しぶりにパソコンに向かった私は、ある全国ネットのBBSにメッセージを 書き込んだ・・・一人の女子高生が、今日初めてファーストキスを体験した事を・・ 翌日の朝刊には「お手柄、女子高生探偵!」という見出しで、事件の一部始終が大々的 に扱われていて一躍有名人になった気分だ。 一番の謎であった殺人の動機は、小原和江が高田氏と久野管理人の三角関係を清算する 為、金もなく若くもない久野管理人に別れ話を持ちだしていた事が明らかになった。 たまたま相手の久野管理人は、表面は好人物だが偏執狂的な性格の持ち主だった事が 事件の引金になってしまったらしい・・・・ 生来の臆病者だったので、あのような殺し方をしたのがかえって捜査を混乱させるのに 役だった訳だが・・・ あの夜、高田氏が妙に落ちつかなかったのは昼間に小原和江を訪ねていた事が明らかに なるのを恐れていたのだという話である。 もちろん、新聞ではなく兄の後藤刑事の話であるが・・・ 「お早う!」 「すっごいわね!久美子!」 「話して聞かせろよ!」 クラスでも武勇伝を一通り話さないと自分の机にも行けない程であった。 芳夫君の机は、主人が入院中のため空席になっているのが寂しい。 「小林君は久美子を守るために、犯人に刺されたんでしょ?」 下校途中で、真弓がクリクリした目を輝かせて言った。 「きっと私だったら、感激してBくらいまで許しちゃうな・・・・自分の為に刺される なんてさ」 「え?・・・Bまで?・・・それはちょっと・・・行きすぎじゃあ・・・」 「あれぇ?久美子、顔が真っ赤じゃない?・・さては?おぬし・・・こら!白状しろ! どこまでいった!」 「知らない、知らない・・・私、芳夫君のお見舞いに行くからここでサヨナラするわ」 真弓と別れて、バスで芳夫君の入院している病院に行くと、芳夫君は丁度寝入った ところで、投げ出された右手の真っ白な包帯が痛々しい。 私は回りを見回して、誰も居ないことを確かめると芳夫君の唇に、そっとキスをした。 「やったぜ!2回目のキスだ!」 熟睡しているとばかり思っていた芳夫君は、卑怯にもタヌキ寝をしていたのだ! 私は照れかくしに、真っ赤になって怒った・・・・ 「このぉ!よくも騙したわね!」 急に賑やかになった病室の窓の外には、今にも降りそうだった鉛色の空から白いものが パラパラと落ちてきた。 −−−−−−−−−−−−< END >−−−−−−−−−−−−−−
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