CFM「空中分解」 #0472の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
一直線に、遥か向こうまで続く商店街。 その横の舗装されたブロックの歩道。 そこに人はいなかった。 そこに車は通っていなかった。 驚くほどの静寂のみが、そこにたたずむ。 まだ開けかけのシャッター。 足下に転がって来た、見覚えのある小さなボール。 そして、道に広がっている、破れた洋服の数々。 スカート、学生服、背広。 点々と限りなく遠くまで続く服・服・服・服。 時折、ランドセルや、黒い学生鞄も見えた。 どこまでも遠く、その光景が続く。 「ちょっ、ちょっと……何なんだ………」 よく解らなかった。 一体どうしたのかよく解らなかったが、俺はなんとなく、少しだけ理解した。 しかし、その考えを否定したかった。 <全ての人がいなくなったなんて> 孤独感か、恐怖心のせいか、俺は走り始めた。 いてもたっても、いられなかっのだ。 誰一人いない商店街を。 静まり返った、一直線にどこまでも続く歩道を走り出す。 <誰か、誰か………> 親とよく来た焼肉屋。 子供の頃、店の前でよくだだをこねたおもちゃ屋。 さっき挨拶をしたばかりの魚屋。 そこには、誰もいない。 美樹、おじさん、がきども……… 可愛かった、喫茶店のウェィトレスさえいやしない。 <どこに、どこに行ったんだ!> 歩道に広がる服の数々を踏みにじり、少しでも早く走る。 母さんがいつも行く八百屋を見つけると、俺は角を右に曲がった。 このまま、まっすぐ行けば俺の家がある。 俺は走った。 家が見え始めると、俺はいっそう加速した。 まるで、追っかけて来る恐怖から逃げるように。 2階建てのコンクリートの家が立ち並ぶ中、自分の家が、他と何も変わらない自分の家が見えてきた。 俺の家は何ら変わりはなかった。 少し崩れているが、気にするほどでもない。 ドアの前で、俺は立ち止まった。 「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」 息が荒い。だが、その時の俺は、そんなことなど気にはしなかった。 殆ど、止まっているような速度まで歩を遅くすると、玄関の鉄格子を開け、家のドアに歩いて行った。 ドアの前で立ち止まり、立札を確かめる。 確かに自分の家であることを確認した俺はノブに手をかけた。 心臓の音が頭に響くように良く聞こえるが、走ったせいか、ドアを開ける恐怖のせいか、俺には解らなかった。 振るえる手でドアを開ける。 中に入るが全体的に暗く、よく見えない。 その暗さに少し目を痛めるが、すぐに慣れていき、次第に中の様子が見えてきた。 何も変わっていない、中の様子に、僅かな安堵感を憶える。 僅かにためらい、俺は靴のまま上がった。 右手の方から連続する何かの音が聞こえた。 「水の音だ………」 俺は音のする台所の方に足を向けた。 俺は台所を覗いた。 机の上にはまだ、朝食の用意が置いてあった。 カップからは湯気が出ている。 俺の食べたパンの残り糟まで残っている。 たったいままで人がいたようである。 しかし、そこには、いるはずの父さんも、母さんもいなかった。 椅子の上に新聞と父さんの浴衣が、 そして、床の上に母さんの服が転がっているだけだった。 まるで、影だけを残したように服が落ちていた。 「父さん、母さん………」 俺はその服を取ろうとし、よろける足で歩を進めようとした。 しかし、その足に何かに当り、足が止まる。 足下を見る。 そこには、妹の、美砂の赤いランドセルが転がっていた。 その下には、赤いスカートとブレザーが。 俺はそれを取るために腰を折った。 しゃがみこんだ時、心の中の何かの糸が切れたような感覚がした。 それと当時に、一筋の涙が頬を伝う。 何も解らない、誰もいない、どうしたらいいのか解らない。 止めようのない、溢れ出る涙がぽとりと赤いランドセルに落ちる。 体全体に広がる孤独感に、悲しさに、叫び声ともつかない声が漏れた。 「はぅ………はっ………ぁぅ」 まるで、自分をいとおしむ様に自分で自分を抱く。 崩れ落ちるように膝が折れる。 涙が溢れ、体が振るえる。 どうしょうもない不安、押さえることのできない意識。 知らず知らず、俺はランドセルを拳で叩いていた。 「何なんだよ〜〜〜 ………一体………解らねえよー……………………美砂ぁー」 どうしようもない悲しさに、俺はしばらく、ただ身を任せた。 一体世界で何が起こっていたのか、俺には解らなかった。 けれども、その時の俺はただ悲しかった。 第二章 敵 PM 5:00 陽が傾き始める。 俺はさんざん泣いたあと、これからの事を考えた。 解っている事は、人間がいなくなった。それと、あのおかしな<崩れ>である。 色々な場合を想定してみたが、どれも合わない。 核戦争ならば、もっと被害が大きい。 中性子にしたって、俺だけ生き残っているなんて事はない。 どこか違う世界にでも来てしまったのかと思ったが、何もかも元のままであるため納得できない。 ともかく、一つだけ確信していた。 俺が生き残っているのだから他にも誰かいるはずだ。 明日から人探しをしよう。 そして、東京が、いや世界がどうなっているか知りたい。 歩こう。どこまででも歩いてやろう。 俺は何はともあれ荷物の点検を始めた。 ノストラダムスと言う、えらーい予言者のおかげで、俺の家、と言うよりは世界中のほとんどの家に、保存の食料が置いてある。 俺の家は4人の1年分だから、俺一人なら4年分ある。 水もたくさん残してある。 一応すべての用意を、一つの部屋に集めた。 その中に、一つの銃があった。 軍事機器関係の仕事に携わっていた父さんの造った作品である。 父さんは、それを“ブレス”と呼んでいた。 長めで細身の銃身は、短い槍のような雰囲気を与える。 どれほどの威力があるかは解らないが、真っ黒な金属が妙に恐怖感をさそった。 西日のあたる部屋の壁にもたれ、俺はその銃に弾をいれ始めた。 人など殺したくないが、念のためだ。 赤い光の差し込む少し暗い部屋にいる俺の頭の中に、色々な人々の顔が思い浮かぶ。 「「「父さん、母さん、美砂、それに……… そこで俺ははっと気付いた。 「「「愛美は……… 俺は簡単な用意をすまして、家を出た。 愛美の家はそう遠くない。走れば5分くらいの所だ。 俺はサングラスをかけた。 と言っても、普通のサングラスではない。 父さんの会社、シスタル社製の試験作品の一つ、“エルフィス” 全方向モニターで、前を見ながら後ろも見れる。 部分ズームに、赤外線モニター、ノクトビジョンなどが付いている。 それでいて、重量15g。 日本の最先端技術が作ったものだが、まだ生産段階に至っていないため、持っている人は5人といない。 今では父さんの形見となってしまった。 その時俺は、防弾のジャケットを偶然着ていた。 黒の、何も柄のついていないジャケットだった。 そして、銃を握ったまま飛び出している。 不安のためか、知らず知らずのうちに完全に防備をしていたが、それが間違いでなかった事に気付いたのは、後の事であった。
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