CFM「空中分解」 #0319の修正
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<道 24行> 道 夕暮どきともなると、樹々のざわめきの奥に見え隠れする獣の対 になった姿をみとめることもある。 館まで小一時間ほどの細い道を、そんな獣たちの挙動を盗み見し ながら登りつめてゆくと、さほど高くない丘の頂が手の届くよう な近さにあると思われて、つい手を伸ばして、届かぬ肉体の限界 と飛びゆけぬ精神の力の足りなさに歯がゆい心持ちが生じ、軽や かな足どりの障碍とさえなる。人には住むべき処と見うべき性質 の夢など、歴然として何もないのだということに立腹してみても、 さしたる問題にもなろうとは思われぬが、かといって、翼が生え て蒼穹(そうきゅう)にはばたこうなどとは考えてみた試しすら ない。 古代、青い、あまりにも深い碧の内海で水底に舞い落ちた慢心の 少年がいたという話は有名だが、そのような慢心のありようもわ からぬではない。 獣道のような、わが眷属(けんぞく)が拓いたこの道を淡々とし た思いで進んでいると、いつしかこの道の絶ゆる先は弓のように 反り返って、ちょうどスキーの跳躍台のように、限りのない大空 の彼方にしなってゆくのではないかという妄想に捉われるのだが、 心の奥底では、あながちそれが幼児的な空想でもないのでは、と いう一種不吉な病が頭を擡(もた)げはじめる。
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