CFM「空中分解」 #0313の修正
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鉄十字章をシュタイナ−が受章してから1週間もたたないうちに,今の壕を捨てて前進せよという命令が下された。彼らの維持する地区はソ連軍が頑強に抵抗を続けていたために,一進一退の攻防が続いていたが,最新の偵察機からの情報によるとソ連軍がこの地区の戦線を縮小したということであった。現実に移動するのは二個連隊ほどの規模で,それほどおおがかりのものではなかった。連隊長のシュミットは何か俯に落ちなかったが,さりとてその根拠もなく師団からの命令に素直に従う他はなかった。彼らが何の抵抗もなく,新しく着いた場所は前の平地とは違って,周りが小高い丘のようなもので囲まれた,盆地のようなところだった。シュミットは師団本部に赴いた。電話では,相手にされぬと思ったからか。 師団本部は二個連隊と共に,前進していた。シュミットがそこに到着したときは簡易の防御施設が建設途上にあった。彼は副官と共に,本部と称される建物の中に入って行った。 「第2連隊のシュミット大佐です。」司令部付きの若手の少尉が言った。 「電話で済まぬ用件とは一体どのようなものかね。」 「先日の134地区からの進撃のことについてです。」 「あれは私の一存ではないよ。軍団本部からの指示があって,したことだ。」 師団長のヘ−ルがシュミットには辟易しているといった顔を近くの兵士に向けながら言った。忍耐強き連隊長が言った。 「あの地区は防御網を設置することが困難であり,また突出部になっているではありませんか。いくらロシア兵が弱兵であろうといえども,三方から攻撃されるようなことになれば,我方の苦戦はまぬがれますまい。」 「で,何が言いたいのだ?君は」 「ですから,あの地区が少なくとも突出部で無くなるように配慮をと。」 「君も連隊というものを預かりながら,まだ戦略というものが分かってないらしいな。突出部というのは戦略的には攻撃側に有利なものだ。まぁ,確かに防御にあたっては三方包囲という脅威があるがね。だが,まだロシアにはそんな力はない。」 「既にお聞きになられたことと思いますが,ソ連の新鋭二個戦車師団がこの近辺に存在しているはずですが。」 「ロシアの戦車など恐るるに足らん。どうせ,ブリキの箱ではないか。」 「過日の戦闘において,37mm対戦車砲の通じなかった戦車があったと報告されていますが。」 「それは有効距離外だったからだろう。報告のあった大隊には新兵がかなり多く配属されていたからな。往々にして,そういうミスを犯すものだ。」 シュミットはヘ−ルの無知で自分勝手な考えに怒りを覚えながらも言った。 「将軍,私だって戦略は多少は心得ております。ふつうならわざわざここにまで来て意見具申をしようとは思いません。しかし,今度ばかりは少し訳が違うのです。あれほどまで,執拗に抵抗を続けていたソ連軍が掌をかえしたかのように退却した,近くに強力な戦車師団があるというのにです。」 「ならば,君に聞こう。君の連隊のある138地区には奴らがそうしてまでする,何か特別な理由があるというのかね。」 「それは分かりません。」 「それでは根拠がないではないか。一々そういう危機感といったものに相手をしている訳にはいかんな。」 ヘ−ルは勝ち誇ったような顔をして言った。 「私は今から作戦会議に出席せねばならんのだ。また次の機会にすることにしようではないか。」 一方的に話を切上げて,ヘ−ルは立ち上がった。シュミットは彼らしくもなく,敬礼もせずに出ていった。 シュミットは乗って来た車の方に向いながら副官に向かって話かけた。 「あの男は何も分かっておらんのだ。事態がどうなっているか正確に把握しておらんのだよ。戦線のあちこちでソ連軍のまとまった反撃が見られるようになったというのに。しかも,我方の主力戦車の三号戦車では歯がたたないという敵の新型戦車が多数現れたというではないか。」 「しかし連隊長、三号戦車の上を行く四号戦車が配備されつつあると聞きましたが。」 「だがそれも全体のほんの一割か二割にすぎん。」 「依然として三号が主力なのは変らんのだ。」 二人は車に乗り込んだ。 「もう,今迄のようにはいかんのだ。去年と同じような進撃を続けようとしたら,途中で補給が滞ってしまう。総統本営もそろそろ考えを変えなければならん。」 「しかし,総統は短期決戦を提唱されておられるのでは。」 「短期決戦?その方針が導いたのは何だ。去年モスクワを目の前にしておきながら,呆気なく退かされてしまったのはどうしてだ。」 「........」 「冬将軍のせいではないか。ロシアの厳しい冬が到来したというのに兵士のほとんどが軽い夏装備だったからだ。あまりの快進撃に,皮肉にも,補給が追い付かなかったせいだ。今年も同じことをやったら,戦線は壊滅するよ。」 それを最後に二人は黙りこんだ。 車は泥をはねながら進んだ。シュミットは道路のわきに休止している兵士たちをじっと見ていた。どの兵も軍服が汚れ,疲れている様子を見せている。 以前はどこでも見られた装備を手入れしている兵はあまりいない。 「敗残兵のようだな」シュミットはつぶやいた。 <続>
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