CFM「空中分解」 #0305の修正
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「シュタイナ−。あんたにいい知らせがあるぜ」 まだ朝霧の晴れぬ森の中でノイマンが走り寄って来て言った。息を切らせながら。 「連隊本部であんたに鉄十字章を受章させるそうだ。」 シュタイナ−は何も言わなかった。ただうなづいただけであった。さも嬉しくないかのごとく。 「シュタイナ−,どうした。俺たちの夢の鉄十字章がいただけるというのに..。まぁ,いい。後で壕にヘッサ−中尉が迎えに来るそうだから、身なりを整えておけということだ。」 ノイマンがそれだけを言い去っていくと,あたりには再び静寂が戻っていた。 鉄十字章。シュタイナ−は思い出していた。第一次大戦中に,血気盛んな故にそれを得んとして,冒したことを。 祖国ドイツが開戦に踏み切ると同時に,学校をやめて軍役に自らの意志で就いたシュタイナ−は18だった。彼は陸軍の一兵卒となり,間もなく東部戦線に配備された。友軍が西部戦線でフランス軍と戦っているのを聞くたびに自分も参加したいという気持ちが募るばかりであった。しかし,ついにその機会も訪れた。ドイツ大本営の二段両面作戦も虚しく,東部戦線の戦いが開始されたのだった。帝政が揺らぎ,国内のまとまらぬロシアはドイツ軍の敵ではなかった。開戦後,わずか1年でブレスト=リトフスク条約というロシアにとって屈辱以外の何物でもない条約が締結され,その1ヶ月後,膠着状態の続く西部戦線へと東部戦線の大部分の兵力が引き抜かれたのだった。 その中にシュタイナ−もいた。彼と今,再びソ連と戦っている仲間もいた。その彼が西部戦線で初めて見たものは,無数の塹壕であった。 「穴に這いつくばって,戦争ができると思うか。」シュタイナ−はいつもそう,同僚に言っていた。 彼が何人かの兵と共に,斥侯に出たとき,彼らは偶然森の中で,自分たちの大隊本部の方角に迫撃砲を発射しているフランス兵の一小隊を発見した。シュタイナ−をのぞく斥候隊の全員が報告すべきで,攻撃すべきではないと言った。シュタイナ−は上官であり,良き先輩であったミュ−ラ−を説得するつもりだった。 ミュ−ラ−は上官に対する反抗と見られるのも辞さないシュタイナ−についに根負けしてしまい,攻撃を承諾してしまった。彼もまた鉄十字章にかけるシュタイナ−の意気込みの激しさを知っている人間であった。 何故か,その2門の迫撃砲の近くには砲手と装弾手しかいなかった。ミュ−ラ−もシュタイナ−もこのことの持つ重大な意味には気が付かなかった。つまるところ,側面の森に潜む何人かの小銃兵のことに。 斥候隊はゆっくりと砲の近くに歩み寄っていた。 「はやく,そして静かに,そして見つからぬように。」ミュ−ラ−の心中がそう顔に表れているようだった。 最後尾のシュタイナ−が手留弾を手に持とうと木の陰に身を屈めたときのことだった。 砲兵しかいないと思っていた,前方から突如3,4人の銃を携えたフランス兵が飛びだし,発砲した最初の一撃で先頭にいた兵がなぎ倒され,応戦しようと銃を構えると同時に側面からフランス兵が現れたのだった。 シュタイナ−は「斥候殺し」と異名を取るこの罠に初めて気が付いたのだったが状況は最悪であった。隊の半分が既に戦死し,一人はそのショックで気がおかしくなってしまっていた。銃弾を受けていないのはシュタイナ−ただ一人であった。 ミュ−ラ−も肩に弾を受けていた。残りの兵も辛うじて歩けるといった状態であった。 一瞬のその出来事に茫然としていたシュタイナ−を現実に引き戻したのはミュ−ラ−だった。 「シュタイナ−,何をぼんやりしているんだ。全滅したいのか。早く,後退するんだ。」と,それがミュ−ラ−の言った最後の言葉だった。次の瞬間,シュタイナ−の見たものはミュ−ラ−のこめかみに空いた穴であった。 口を開けたまま倒れかかってくる死体を受け止めると,彼は生き残った兵に大声で叫んだ。 「早く,早く,脱出しろ。」そう言わないうちに,シュタイナ−も走り始めていた。 <続>
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