CFM「空中分解」 #0229の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
とりあえずおれはバイクを駐車場へ入れ、タイム・カードを押して控室に入った。 ここで支給される制服に着替え、制帽へと手をのばした時、堤 勇弥が目に入った。 部屋にはもうおれたちだけである、だいたい遅刻ギリギリだったのだ。 彼はもう着替えを済ませ軽く腕をくみ、壁にもたれて立っている。手元で帽子を ゆらしながら控室のテレビを眺めていた。飛行機事故のニュースをやっている。 本当ならおれは彼のようなタイプは苦手である。某難関国立の理系に現役で入り、 しかもスポーツ・マンである。クラブは剣道だそうだがたいていのスポーツはこな すらしい。背格好も整っているし、顔も和風とはいえなかなかである。 ここまでそろうと、おれでなくても気味が悪いと思うだろう。 しかしおれはなぜかこの男と気があう。このバイトで知り合ったばかりだが妙に 警戒心がおこらない。歳の割りに落ち着きというか、深みのある男だ。意外と苦労 人なのかもしれない。 まぁ気さくな男ではある。彼がその気なら「晩酌付き週二時間で月五万」といっ た家庭教師でも、女の子にかこまれ何かスポーツのコーチでもできるはずだが、な ぜか彼はここにいる。おれならそっちの方がいい。 「堤さん。随分…深刻に見てるじゃないですか。」 彼は、おれより一つ年上である。 「まさか知り合いが…。」 「いや…。」 「じゃあ……。堤さんの彼女がこの事故を予知してたとか?」 「−−−−−!!」 もちろん軽い冗談だった。ナオミの事が頭にあったとはいえ、おれはまだ本気に なっていなかった。だが意外な彼の表情の変化におれはとまどった。 「黒沢…霊感や超能力を信じるか…?」 「ちょっと……本当に?堤さんの彼女、予知したんですか!?」 「…いいや、あいつはおれには何も言わなかった…。…さぁ行こう。時間だ!」 テレビを切り先にたってドアを出る彼のあとを、おれはあわてて追いかけた。 何か…彼に訊きたかった。しかし、おれは何も言えずにミーティングが始まった。 ナオミが家に着くと、母親が泣いて出迎えた。事故を知ってからずっと泣いてい たのだろう。今は生きて帰ったと泣いている。…いや、昨日ナオミが家をでてから ずっとかもしれない。娘の留学がさみしいと泣きつづけるなど、やりかねない人だ。 ママはいつもママのために泣いている、結局この人は泣く事が好きなんだとナオ ミは感じていた。別にわたしのためじゃない。グラスがわれてもこの人は同じだけ 泣くだろう。 「どうしてすぐ電話をくれなかったの!?どんなに心配したか…!!」 なぜ飛行機に乗らなかったか話すのはやめた。問題はスポンサーである父親だ。 泣いている母親を無愛想に制して事故のことをきいた。 「パパに様子をしらせてもらう事になってるの。まだ連絡はないわ。」 どうせ、パパは仕事だろう。今ごろはかわりに秘書が走り回っているはずだ。 疲れたから…と、やっとナオミは泣きじゃくる母親から離れ自室に向かった。 しばらく戻るつもりのなかった部屋である。整頓されたベッドにショルダー・バ ックを放りなげ部屋のドアをしめた時ナオミは突然激しい感情−−−!に襲われた。 「−−−−−−−!!………………!!! 」 それは前触れもなくナオミの中に起こった。いきなり自分の内に別の人格が生ま れナオミを支配した。この「想い」は誰の………!?と、ナオミはかすかに思った。 立っていられない。この感情をなんといえばいいのだろう。哀しみ?せつなすぎる! しかし、この包み込むような、けなげな感覚をナオミはなぜかなつかしく思った。 (−−−−−−−勇弥!!……………許して!!! ずっとあなたをだまして……) (あの声だ!空港での………これ…は、テレパシー?) 一瞬ナオミはこの相手の全てがつかめそうに思った。相手と自分は重なっている。 女性…?若い…「加奈」それが私の名前……。ちがう……!私は…高倉…ナオミ!! その時、相手…「加奈」がナオミに気付いたのを感じた。 (…!!もしも…私があなたを助けられたのなら…。それが、ずっと悩んでいた答。 「力」なんか、要らなかったけれど……今、あなたが生きているなら………) (−−−−−−−−−−−−−−−−勇弥!!) 最後に叫びを残して「加奈」の気配がいきなり途切れた。 解放されガクッと崩れおちたナオミは、ふるえる両手で体を抱え「自分自身」を 確かめた…。まだ、「加奈」の「想い」が残っている。涙がとまらない………。 息を整え、心が落ち着くにつれて「加奈」の気配が薄れていく。 しかし、今のナオミは「加奈」の全てがわかる気がした…。まるで人生を共にし 夫婦のように、あるいは双子のように分身のように…。「加奈」は「力」を持って 悩んでいた。何のための「力」か…。そして、それを恋人「勇弥」に隠している。 時計をみるとまだ10時27分である。随分長く感じたが一瞬のことだったらしい ナオミは「加奈」を捜そうとおもった。しかし、顔も住所もわからない。その手 の情報はつかみ損ねてしまった…。ナオミは深くためいきをついた。 「おつかれさん。」 「おさきに失礼します。」 おれは仲間たちにあいさつをしながら、小走りに控室にひきあげた。今日はおれ は二時半であがりだ。遅番の奴らとすれちがって行く。 堤さんとはあのあと顔をあわせていないが、おれはずっと彼の事を考えていた。 そして、その彼女のことも…。 堤さんの彼女には一度あったことがある。ナオミと映画に行った時、同じものを みていたらしく遠目に堤さんと彼女をみかけた。感じのよいコだった。 美人というよりも可愛いといったタイプでふわっとした長めの髪が印象的だった。 濃いまつげにやわらかい視線でまっすぐ目をみつめて話す、そんな感じの女だった。 そんな彼女と堤さんのカップルは何というか近付きがたい…そう神秘的な雰囲気 で人混みの中でもめだっていた。 あとで彼から高校からの五年ごしのつきあいだときいた。彼女はおれと同い年の はずだ。…………名前はなんといったろう……。 控室のドアを開けると堤さんがいた。あ、きょう二時半あがりなのはおれたちか。 おれは彼と軽く言葉をかわしながらテレビをつけた。飛行機事故の原因がまだわ かっていないので興味があった。−−−−事故。………偶発的?…………人為的!? 「堤さん。爆発らしいが…原因なんだと思います?」 「…………………………。」 沈黙が帰ってきたが無視されたわけでもないようだ。彼は真剣に考えこんでいる。 「…………心当たりがあるとか?」 「−−−−−!………バカな。」 やっぱり様子がおかしい。気のせいかイライラしているようだが…おれのせいか? 「他も見てみようか。」 と、おれはチャンネルをかえた。つぎの局は特別番組ではなかったが定時の短い ニュースをやっていた。今はローカルの交通事故のニュースだ。 「……本日午前10時過ぎ………の交差点付近の路上において、宮脇加奈さん20 がミニ・バイクを運転中に乗用車と接触。ほうりだされた宮脇さんは即死。……… なお警察では目撃者の証言をもとに、逃げた乗用車を今……………。」 「−−−−−−−−加奈っ!?」 反射的に叫んだ堤さんをおれは呆然と見つめていた。 <<つづく>>
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