CFM「空中分解」 #0216の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「ここまで、よく来たものだ。」僕は少しため息をついた。若い頃から冒険の好きな僕 であるが、夕日にきらめく、オレンジの雪山−−−ヒマラヤ山脈を眺めると顔に似合わ ずセンチになるものだ。偉大な自然の芸術、今までたくさんの人を魅了した山、そして 多くの人の命を奪った山。「素晴らしい大パノラマだ。」世界の聖域ヒマラヤは僕を飲 み込むように大きく広がっているのである。この光景は、彼女を思う感情と交差して深 く心に焼き付いた。ジェット、双発機、車、馬車、そして徒歩・・・。彼女を追いかけ て出発したのは、もう3週間前になる。果して、彼女は何処へ・・・。 我を忘れている時、ガイドのカラモラさんが声を掛けた。「カラモラ」と言うのは現 地語で「偉大なる王者」と言う意味だそうだ。でも、僕には現地語の「楽しい、おじい さん」すなわち「ケラケラ」の方がふさわしい呼び名ではないかと思っている。 「ほっ、ほっ、ほっ。もうホームシックかね。まだ、まだ、先は長いんじゃよ。じゃ が、もうすぐ、占い師のババにあえるじゃろう。あんさんの恋人の啓子ちゃんの行方も 判るじゃろうて。ウワッハッハッ。」 日に焼けたカラモラさんの顔が笑うとまるで黒い梅干しだ。彼の顔は僕を陽気にする には充分である。一日中見ていても飽きないかもしれない。 この地では日本の女性は非常に珍しい存在である。不思議な格好をした日本女性は現 地の人の注目を浴びる。そして、そのニュースは信じられない速さで遠い僻地まで伝わ るのである。今までこの信頼がおける「噂」を頼りにここまで来た。しかし、ここで啓 子の情報は途絶えたのである。後はカラモラさんの言うババさんに会うしかないだろう。 「ババ」という人はチベットでは有名な人で、不思議な力で100%の確率で近い将 来を予知するらしい。年齢は不明だがカラモラさんがもの心がついた頃はすで非常に有 名な人だったらしいから、優に80歳は越えているに違いない。元来、僕は占いなどに は興味がないのであるが、このチベットはその様な事がごく自然と思わせる雰囲気があ る。 「今日はここじゃ。ホッ、ホッ。」カラモラさんは陽気につぶやいた。 今夜の宿になるその山小屋は古い丸太でできた簡素なもので、人の住んでいる気配は ない。しかし、一晩の休息を得るには充分な場所だ。 僕は小屋の中に入り肩から荷物をおろすとそばにあった椅子に腰をかけた。不思議に 汚れていない。 「ふうーーっ。今日も疲れました。でも、良い汗をかきましたから、ぐっすり眠れそう です。」僕は早速リックから寝袋を出して、休息の準備をしだした。食料が少なくなっ てきているので今日の晩飯は抜きである。次の人里までは我慢をしなければならない。 「ババさんには、いつ逢えるんです?」僕は支度をしながらカラモラさんに尋ねた。 「ほっ、ほっ、今日じゃよ。もうすぐ、ババは現れるじゃろう。」 その答えに僕は思わずカラモラさんの顔を覗いた。目が合うとカラモラさんはニッコリ と笑い顔を返してくれる。こんなカラモラさんが僕は大好きだ。 「ほれ、もう来おったわい。」その声に僕は辺りを見渡し、耳をそばたてた。 (微かな音がする。気のせいか、少し部屋が明るくなったかも) と思った瞬間、部屋はみるみる電気を帯びたように光りだした。 −−−−−−−−−−シューーーーッ−−−−−−−−−−−−− 部屋の中央からはと少し低い音とともに何かぼやけたものが現れた。その水蒸気のよう なものは中心に集り、どんどん形を作って行く。 「おうっ。ババか?久しぶりじゃのぉ?」 カラモラさんの呼掛けが終らないうちにそれは人間の形を作っていった。そこには、 20歳くらいの女性の姿があった。腰まである長い髪をしたその女性はこの土地の人に はないブルーの目をしていた。端正な顔立ち、優しそうな微笑み、気のせいだろうか体 のまわりが光ってるように感じた。 「はじめまして。私がババです。」 その女性はゆっくりと僕に話しかけてきた。信じられない情景に僕は声も出せずに口 をポカンと開けていた。胸の鼓動だけが大きく響く。 ///つづく///
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