CFM「空中分解」 #0204の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「あの、なにか御用でしょうか?当社の商談は4時以降と決っていますが...」 いつのまにか側に来た、受け付けのOLが不審な表情で話しかけたのは、見すぼらしい 男が、玄関先をキョロキョロ見回すので物売りか何かと間違われたらしい。 「平野重役は居られますか?冬野探偵事務所の冬野和正と言いますが..」 「は?探偵?さん..ですか?」 紺のジャンパースカートの制服を着た、背の高いOLは実に不思議そうな顔をした。 たしかに探偵なんぞ来るのは、始めてだろうから驚いても当然と言えば当然である。 平野重役のオフィスは、日当りの良い3階のエレベーターのまん前の部屋で、広い室内 には、冬野探偵事務所などとは比べ物にならない、立派な机と応接セットが置いて あった 「どうぞ、お掛けください... ちょっと調べ物をしていますので、待っていただけますか?」 「どうぞ、ごゆっくり...」 冬野所長は、机で調べ物をしている平野重役の目を盗んで、テーブルの上のタバコ入れ からタバコを10本ほど掴み出すと、見つからないように背広のポケットに押し込んだ なにしろ不景気でタバコ代にも苦労しているのである。 しかも玉井礼子は、調査費用としても、ギリギリの金額しか渡さない。 以前、冬野が調査費用を全部競馬につぎこんでしまい、穴埋めにその月の玉井礼子の サラリーが三回払いになってしまった事が有って、それ以来ずっとこうなのだ。 所長としては情けないと思うのだが、悪いのは自分なので何も言えない... 5分程で調べ物が終った平野重役は、ソファに座った。 「いかがですか?何とか書類は取り戻せそうですか?」 青い顔の平野重役は、一睡もしていないらしい、落ちくぼんだ目をしょぼつかせながら 冬野所長に、すがるように聞いた... 冬野所長はタバコに火を付けながら「7分3分ですかなぁ...」と、のんびりした 口調で答えた。 平野重役は「戻る確率は3分ですか..」と、少しがっかりしたようだ... 「いえ、7分方は取り戻せるでしょう」 「えっ!では、何か手がかりでも有ったんですね?」 急に声まで生き生きして来るのは、仕方無い事だ。 「書類がどこにあるか分らないだけで、事件の夜何が起こったかは分っているつもり です... お聞きしたいのは、今回の競合会社というのは誰でも知っているのですか?」 「いいえ、営業と技術の課長と私と社長、専務以外は当社で知るものは有りません」 「では見つからなくても、競合会社の手に入る確率は低いですな...」 「しかし、あれが無くては当社は入札に参加出来ないので、結果は同じです なにしろ500ページもある仕様書ですから、今から作っては間に合わない..」 冬野所長はタバコをもみ消しながら、煙そうな顔をして「では、これから私とその 競合会社に出かけて見ませんか?」と言った。 平野重役は不思議そうな顔をしながら、インターホンで車の手配をすると、二人揃って 一階の玄関にエレベーターで降りて行った.. 玄関先には平野重役専用の白いクラウンが横付けされ、細面で中年の運転手がドアを 開けて待っている。 「どちらに行かれますか?」 運転手がエンジンをかけながら、ていねいな声で聞く。 「フジ・システムまでやってくれ」 「そのフジ・システムというのが今回の入札の競合相手なんですか?」 平野重役は「ええ、まあ」とあいまいな口調で言葉をにごした.. SYN−SYSTEMから、車で20分ほどの所のビルが競合相手のフジ・システム である... やはり立派な8階建てのビルで、コンピュータのソフト会社と言うのは、凄くもうかる 物らしい。 会社のまん前が公園になっていて、ベンチとブランコが有るのは、いかにも田舎風の のんびりした風情である... そして冬野所長は、会社の周りを観察するかのように車で、ゆっくりと一周してから 所轄の警察に送ってもらえないかと頼むと、折れ曲がったタバコをポケットから掴み出 し100円ライターで火をつけた。 「何か調べるのですか?」と平野重役が聞く。 「ええ、あの夜アリバイの無い男が一人警察の取り調べを受けているから、その件を 確認してきます..ひょっとすると犯人につながるかもしれないし..」 4時ごろ所轄の警察署に到着した...ここはSYN−SYSTEMのある商業団地の すぐ裏手の国道ぞいである。 冬野所長は入口近くのカウンターに、つかつかと歩きよると、 丸顔で背の低い婦人警官に、なれなれしく話しかけた.. 「やあ!まりちゃん久しぶりだな..杉浦巡査はいるかい?」 偶然にも、この警察署は冬野の学校の後輩が勤務している署なのである.. 話しかけられた婦警は、新井まり子と言って元気の良い21才の娘で、玉井礼子とも 面識が有った。 人見知りしない、非常に明るい現代娘だ.. 「あら!久しぶりねぇ..またタマちゃんに叱られて、お仕事?」 「やめてくれよ、俺は冬野探偵事務所の所長で、タマちゃんはただの事務員!いいね. 経営者と使用人なんだから、そこを間違わないように頼むよ..ね?」 冬野所長は渋い顔になって、手を振った... まり子が、インターホンで名前を呼んでしばらくすると、色のなまっちろい気の弱そう な若い巡査が現れた。 「先輩!またなにか有ったんですか?変なこと聞かないで下さいよ?」 露骨に迷惑そうな顔をする杉浦巡査を、冬野所長はバカにしたように見下した態度で 言った... 「ほう!おまえも随分と偉くなったじゃないか?学生の頃、ゲームに狂ったあげく 小遣いに困ってゲーム機荒しをした時、助けてやったのは誰だったかな?」 声をひそめて話したのだが、杉浦巡査は落雷にでも打たれたように硬直し、気の毒な ほど狼狽して冬野所長のヨレた背広の袖口を掴んで、懇願した... 「せ、先輩!!私はなにも、先輩に逆らうなどと..そんなつもりは! お願いですから、ここでその話しは止めて下さい!なんでもおっしゃる通りに しますから!!」 弱いものには滅法強い冬野所長は、勝ち誇ったように「うん、自分の立場が分っていれ ばいいんだ..実はな..」といって、哀れな杉浦巡査の耳に口を寄せた... それから1時間、冬野所長は暗くなりかけた窓の外を見ながら、事務所のソファーに ふんぞり返って、時々時計を気にしながらタバコをふかしている。
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「CFM「空中分解」」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE