CFM「空中分解」 #0189の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
日曜の朝ともなれば、それはもう滑稽とも云える野良理教授の挙動を見ること が出来た。朝の五時には目を覚まし、たっぷりと着替えに時間を費やし、鼻歌を 歌い(どんな歌かと言えば、中森明菜の十戒!)、靴まで自分で磨くほどであっ た。その姿を見るにつけ、息子夫婦の優欝は増すばかりであった。 初めの頃はなんとかこの〜先が見えてる〜恋愛模様を解消させようと、父親に 働きかけようとしていたのであったが、その気になったら誰がなんと云おうと耳 を貸さない野良理教授のこと、ましてや恋は盲目である。このころはただ諦めて いつか熱が下がることを願いながら黙って父親を見送るだけであった。 「ああ、また今週も彼女に会いに出かけたはねぇー」 「まああれで少しはお父さんの寿命が延びると思えば、まあこれも親孝行のひ とつと思って、黙って見送るしかないなあ」 しかし、息子夫婦の願いは案外早く天に届いたようであった。それは何の前触 れもなく、ある日の夕刻に起こった。 野良理教授が近くの駅から歩いて我が家へ帰る途中の出来事であった。彼はその とき、ふと近所にある小さな公園に目をやったのであったが、そこの白い小さな ベンチに後向きに腰掛けている、見馴れた髪の長い女性を目にしたとき、教授の 胸は高鳴ったのである。 彼はそっと背後から近付いて、やにわに両手で彼女の目を覆ったのであった。そ のとき子供なら誰でも云うように「だーれだ?」とでも声を掛ければ、その後の 悲劇は最小限に済まされたのかも知れなかったが、不幸にも彼はそこまで幼児に はなりきれなかったのである。 彼女は突然後ろから目隠しをされたので、最初は驚いたがすぐに落ち着いてこう 言った。 「誰?・・分かった!ヒロシさんでしょう」 「・・・・・・」 「違うの?・・それじゃああ・・ヨシオさん?」 「・・・・・・」 このときの野良理教授の驚きは大変なものであった。いやそれは驚きという言葉 では表せないほどの驚き(?)であったのだ。 ここで読者は「彼女が言った名前の中に、自分の名前がなかったので驚いたのだ ろう」と思われたかも知れない。ところがそうではないのである。それは呼ばれ た名<言葉>ではなく、彼女の<声>に驚いたのである。 そして野良理教授は、自分が浩子さんだとばかり思っていたこの女性が、明らか に別人であって、早い話が人違いをしでかしたことに気付いたのであった。これ は単なる人違いであるからして、普通の人ならここで「済みません」と言って、 小さな恥をかけば済むところであるが、読者は知ってのごとくかれは異常なまで にプライドを大事にする性格であったため、自分が仕掛けたこの失態に対して、 どう対処すべきか全く分からなくなってしまったのである。 「誰?・・・あなた・・・誰!」 「・・・・・」 教授はまだこれでも手が離せない程動転がつづいていた。そして、遂には・・ 「キャー誰か来てー!・・痴漢よー、ちかん」 このときやっと手を離した教授は、一目散に逃げ出したのであったが、時既に遅 く彼は付近を通りかかった警察官に、婦女暴行未遂の現行犯として逮捕されてし まったのであった。 事情を聞いて息子達が警察署に駆けつけたとき、教授は絶望の縁に打ちひしが れているかに見えた。それまでに彼が何と言って弁明しようと試みたのか不明だ が、警官達が彼の言葉を信じていないことは、明らかだった。 それでも何とか<本物の>浩子嬢がきてくれたことによって、教授の話の一部は 信じてもらうことができて、彼は帰宅を許されたのである。 この事件は浩子さんや家族達の努力で、表沙汰にならずに済んだがそれ以来野 良理教授は浩子さんに対して顔向けが出来なくなって、お陰で恋愛熱もすっかり 冷めてしまったと云うわけである。 野良理教授のバラード 第三話:野良理教授の恋心(完)
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