CFM「空中分解」 #0185の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
教授はここで諦めれば良かったものを<あること>を思い出してしまったので ある。 (注:この自動販売機は、傾斜した段が幾つもあり、端のビンを引き抜くと次 のビンが転がってくると云う構造をしていた。信頼性が劣るため現在は余り見ら れなくなってしまったが、裏町辺りに行くとまだあるかも知れない) 彼はこの種の機械によくある傾向、即ち、機械の奥に転がり損なって横を向いて 止まっているビンがありがちなことを思い出したのである。 (読者の中に、ここで疑問を抱かれた方もあるだろう『自販機に馴染みが薄い教 授が何故そんな知識を持っていたか?』と。それは・・・まあどうでも良いこと なので話を先に進める) 普通の人ならここで先ず中を覗いてみるのが常識なのであるが、残念ながら野 良理教授は「普通の人」ではなかったので、その様な常識を持ち合わせてはいな かった。彼は触覚でもって、ビンの有無を確かめようと試みたのである。 先ず彼は一番下の段から、その試みを始めた。彼は『残っているなら見え難い一 番下にこそ、その確率が高い』と考えたからである。 悲劇のクライマックスはここから始まった。 彼が手を、入口(=ビンの出口)から差し込んだとき、彼の左手がこの口にある ローラーを押し上げたのであるが、手首が通り過ぎるとそのローラーは下に降り てくると、ロックされてしまったのであった。 この機構について読者は容易に想像できるに違いない。要するに、硬貨を入れた あとビンを引き抜くとき、一度だけロックが解除される仕掛けになっているので ある。 教授はすぐにはこの状況を把握することが出来なかった。しかし、やがて、押 しても引いてもこの忌まわしい機械から自分の左手を引き抜くことが出来ないこ とを知ると、みるみる顔が真っ青になっていった。 そのうち、教授の悲鳴とも蛮声ともつかない声を聞きつけ、近所の人達が集まっ てきた。 だが、悲しいかなその中の誰一人として、教授をこの惨劇から救いだすことは出 来なかったのである。時が刻一刻と過ぎて行くうちに教授の恐怖感は増すばかり であった。たまたま、近くに住んでいる大工が「何事だろう?」と、使っていた 鋸を手にしたまま近付いて来るのを見たときなど、断末魔の悲鳴をあげてそのま ま失神してしまった程である。 やがて誰かが一一九番を回し、消防署からレスキュー隊が到着した。 この頃、周囲には五〜六十名ほどの野次馬が集まっていた。(新聞には「百名」 などと書いてあったが、これはマスコミがよくやる<誇張>である。そもそも、 マスコミと言うのは誇張が好きなのである) 隊員達は先ずガス溶断機を持ってきたが、余りにも危険が大き過ぎるとして、こ の方法による救助を断念した。次に、いろんな道具で以て自動販売機を分解しよ うと試みたが、自販機にはさまざまな盗難対策の為の仕掛けが施してあって、被 害者に危害を加えずに分解することは、極めて困難であるとの結論に達したので あった。 最早、野良理教授を無傷で救い出すことは不可能かと人々が思い始めた時、人 垣の中から一つの小さな影が進み出た。それは最も教授が愛する孫の、秀太郎君 であった。 とりまく人々の中には、この哀れな老人の不幸を見かねて小さな胸を痛めている に違いない彼の姿を見て、思わずハンカチを握り締めるの者の姿もあった。 ところが秀太郎君は、そんな人々の思い入れには一切関心がないかのように、い かにも自然な動作でもって、一枚のコインを自動販売機の硬貨投入口に放り込ん だのである。 すると不思議〜でもなんでもないが〜なことに、あれほどしっかりと挟み込んで いた自販機から楽々と教授の手首が抜け出てきたのであった。 回りを取り囲んでいた大人達は、このあっけない結末にしばらく誰一人として声 を出すものもなかった。 そのうち誰からともなく沸き起こった拍手の渦が、哀れな老人と小さな英雄を包 み込んだのである。あるいはこの拍手は、こんな簡単な救出を思い付けなかった 自分達大人の照れ隠しのあらわれだったのかも知れない。いずれにしても、この 日の出来事が野良理教授の心をいかに傷つけたか、読者なら容易に想像できるで あろう。だがしかし・・・・メデタシメデタシ。 野良利教授のバラード 第二話:恐怖の自動販売機(完)
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