CFM「空中分解」 #0063の修正
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アント゛ロイト゛ハンター・ヒトミ 最終回 ー6ー そんなある日、一人の男が彼女の所に面会にきた。初めてと言っていい面会人であ る。その男はオオニシと名乗り名刺を差し出した。 「警視庁・・」 ベッドに横になっていたヒトミは起き上がりそれをすこし読んて、その男に眼を向 けた。 「警視庁といっても、恐がる事はございません。私は事務屋の方でして」 その小太りで調子のよさそうなオオニシがベットのそばの椅子に座りながら言った。 「べつに恐がってなんかいないわよ。わたしには恐いものなんか何にも無くなったの よ」 彼女はそう言って男をにらみつけた。 「へへ、ごもっともです。今日は、おたくに請求書をお渡しに伺ったしだいでして」 その男は、顔色も変えずに、持っていたいかにも事務屋らしい鞄から一枚の紙切れ を取り出した。 「請求書?」 ヒトミはいぶかしげにそれを受取った。 それに書かれた数字には、一目では数え切れない程の大量の0が並んでいた。彼女 はひとつ、ひとつ声を出して数えてみた。 「一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、十億?、何よ、この数字は」 「へっへへ、それは貴方に使って戴いているアンドロイド代、その手術代、入院費、 その他諸々でして、ここにその明細がございます」 男は、へらへらしながら分厚い辞書のような書類を差し出した。 彼女はあっけに取られた。とても払える金額ではない。これから一生身を粉にして 働いたとて一割も返せるかどうか。 「こんなお金払える訳ないでしょう」 彼女は男に向かって怒鳴った。 「そう言われても、払ってもらわねば困るんですがね」 男は内ポケットからタバコを取り出す。それに火を付け一服すると大きく煙を彼女 に吹きかけた。まるで高利貨しである。 彼女はその態度にますます頭にきた。 「文句あんなら、こんな体返すわよ。すぐにもって帰って」 「冗談いわないでくださいよ。それを取り上げたら貴方を殺す事になりますよ」 彼女はそれを聞いてにやりと笑った。 「きゃー、殺して、殺して、あんたが殺さないのなら、わたしかあんたを殺してあげ ようか。そうよそうしたら、わたし、死刑になるかもね」 彼女はそう言うと、ベッドを降りてオオニシに掴み掛かろうとした。彼は以外に敏 捷な身のこなしでそれを回避した。 「ちょ、ちょっと。興奮しないでくださいよ。どうです。払えないのなら、こちらの 条件を呑んで貰たいのですがね」 彼女はますます憤慨して彼に詰めよる。 「とんでもございません。私は、いい仕事を紹介しょうというだけでして」 彼は彼女のそんな態度を恐れる様子も見せずまた椅子に座り直しタバコをふかす。 「だいぶ興奮なさっているようですが、怒りを向ける相手を間違っているんじゃない ですか」 「え、どういう意味?」 彼女はそんなオオニシの態度にひょうしぬけして、怒りを静め元のベッドに戻った。 「話を聞きますと、貴方がそういう体に成ったのはアンドロイドのお蔭だそうですね。 それにご両親もそいつらに殺されているらしいじゃありませんか」 「そんな事、あんたに関係ないじゃない」 彼女は忘れようと努めていたことを言われて少し慌てた。 「どうです。うちにきてアンドロイド・ハンターとして手を貸して遣っては戴けませ んか」 「アンドロイド・ハンター?」 「そうです、かたき打ちと言ってはなんですが、ご両親の供養にもなると思うのです 「そんな事、わたしに出来るかしら」 「勿論ですよ、私は出来ない事など勧めやしません。それにご協力戴けるならこの請 求は永久にお待ちしてもよろしいのですよ」 彼ば、ベッドの上にほうり出してあった請求書を取り戻し眼の前で振って見せた。 「そうねぇ」 それにも増して彼女にはこれからの生活設計がなかった。病院をほおりだされたら 何処へも行くところがなかった。彼女は天涯孤独の身に成っていた。それだけにこう して相手から自分を望んで来てくれた事は一つのチャンスかも知れない。乗って見る 価値はあるだろう。 「判ったわ、あなたに委せるわ」 「へっへっへ、そうでなくっちゃいけません。悪いようにはいたしません。私に御委 せ下さい」 彼は喜々として帰って行った。しかしその男は知らなかった。ヒトミが全てのアン ドロイドを憎んでいる訳ではない事を。 彼女は命を救ってくれたのが当のアンドロイドのマーサである事を知っていた。あ の爆発の直前、彼女に覆いかぶさってくれたのを何故か鮮明に覚えていた。それだけ に彼女はアンドロイドを完全に憎み切れなかった。それがアンドロイド・ハンターと しての彼女の欠陥にならない事を今は祈るばかりだ。 リハビリテーションを終え退院してからは、彼女に厳しい訓練が待っていた。それは 主に精神面の強化に終始した。肉体の方は彼女が意識せずとも申し分のない動きを見 せた。 こうして、彼女は一人前のアンドロイド・ハンターへと育って行った。 彼女の属するアンドロイド捜査課には、特別捜査員、つまりアンドロイド・ハンタ ーは、彼女を含めても10人以上いた。 彼等もサイボーグだったが、殆どが手や足を機械に変えた部分的なサイボーグであ ってヒトミの様な完全なサイボークが捜査員になったのは最初の事だった。それだけ に彼女は皆よりも性能に於て群を抜いていた。 ー7ー 話は元に戻って、ここはオオテ地区、百年前までは官庁街であったが遷都後政府の 都市計画の不備により、打ち捨てられたビルにいつしか浮浪者や犯罪者が住み着き、 夜は勿論昼でも警官すら近付かない暗黒街と替わって行った。この中にあのALOも 存在していると噂されているが誰も確認したものはいない。 そんな危険をはらんた町をヒトミは一人、長髪を微風にもて遊ばせながら歩みを進 める。今日はピンクのタンクトップにショートパンツという出立で、その胸は、はちきれんばかりである。腰には愛用のレーザーガンを忘れず吊っている。足には膝まである 真っ赤なブーツを履かせ、よく発達した大腿をあらわにしている。 普通、特別捜査員は二人一組で行動するが、彼女は前に書いたように皆より能力が 優れているため組を作るとかえって相棒が足手まといになりかねない。だから常に一 人で行動する。 彼女が歩いている道の両側にはガラスの殆ど残っていない荒れ果てたビルが立ち並 んでいた。比較的広い道にはそのガラスや瓦礫が堆く積もり、人の歩ける所は僅かで ある。しかし、彼女にはそれはあまり気にならないようだ。 人影は殆どない。皆彼女が何ものであるかを知っているのだ。そうでなければこん な所にうら若い女性が間違っても入って来る訳がない。よしんば入って来る事があっ ても無事に歩けるのは数メートルもないだろう。 何処かから、レーザーライフルがわたしを狙っているかも知れないわと、ヒトミは ビルの上の方に注意を払う。べつにそれをあびせられたとしても彼女に僅かのダメー ジも与える事は出来ないだろう。しかし運が悪ければ人工皮膚に焼け焦げぐらいは付 くかも知れない。 たとえサイボークでも彼女はまだ女性の心を失っていない。体が汚れるのを嫌うの は道理であるが、それにもまして、その焼け焦げの修理代を経費で落とす時に、課長 の嫌味を聞くのがいやだった。 ヒトミは、時々腕のAR・センサーに眼を遣る。それは、アンドロイド・センサー の事である。 アンドロイドの電子脳には人間の脳波のような電磁波を出している。それは個々の アンドロイドで違っており、生産されたときに全て記録されている。つまり指紋のよ うな物である。AR・センサーはその電子脳波を追跡する機械である。 現在彼女のそれはKAZ33256の物を追っており、さっきから急激に発信音を 高め敵の近い事を告げていた。 ある崩れかけた高層ビルの横を通り過ぎようとするとき、その方向を知らせる針が 逆転した。 「このビルかしら」 彼女はそうつぶやくと、AR・センサーを縦方向にしてみた。針は斜め上方を差し た。敵がこのビルの上の階にいる事はこれで確実と成った。 ヒトミは正面の壊れて開きっぱなしの自動ドアから、そのビルに入っていく。それ はもとホテルらしく、一階はロビーであったのかカウンターの残骸を残しただだっ広 い空間であった。床は敷き詰められていた筈の絨毯も剥され今はコンクリートがむき 出して、厚く砂塵に被われている。勿論その奥にあるエレベーターは動いていない。 彼女は慎重にその横の階段に近付いて行った。その中間点に付こうかという時、耳 に微かな物音が届いた。その音が消える前に彼女は身を前方に投じていた。そのまま 左手を付き、それを支点にくるりと回転する。 その後を追うように、レーザー・ビームが走った。回りの空気が焼けオゾンの臭い が立ち込めた。彼女はそのビームをかいくぐり優雅に身を静めて着地した。その手に はいつのまにかレーザーガンが握られていた。同時に彼女の内部機能は自動戦闘モー ドに切り替わり、もはや彼女の意志と独立して敵への攻撃に、全勢力を傾けていた。 彼女の目はいまや、透視サイティンク機能を持ち敵を捜す。 そして敵が彼女との相対距離10メートルほど離れた、柱の影にいる事を確認する。 彼女は、そのまま床を転がりながら、レーザーガンの引金を引き詰めに引き続け、 その柱にレーザー・ビームのシャワーをあびせた。 特殊な大型のレーザーガンから発した大量のビームには、さしもの強固なコンクリ ート製の柱も持ちこたえる事が出来ず、裏に隠れていたアンドロイドごと吹き飛んだ。 あとは、柱の残骸と、落ちて来た、天井の瓦礫が残るばかりだった。 彼女は慎重に立ち上がると、そこに近付いて行った。 アンドロイドは、まだ機能していた。 足を吹き飛ばされ、身動きならない侭に、まだ攻撃意志を失わず、どこかへ飛んで 行った武器を手探りで捜していた。 ヒトミは、アンドロイドの前に立った。 彼女を見上げて、それは観念したのか動きを止めた 「殺せ、殺してくれ。もう、あの地獄へは戻りたくない」 そう叫ぶ声を無視して、彼女はレーザーガンの出力をしぼるとピタリとその胸に照 その間、彼女は何事か口の中でつぶやいていた。 そばに人がいればそれはこう聴こえただろう。 「撃たないで、うたないで、うたないで・・・」 しかし彼女の望みもアンドロイドの望みも叶えられなかった。 彼女の指は彼女を無視して引金を引き、アンドロイドの機能を修復可能な状態で停 止させた。 そして、役目を終えた補助電子脳は、戦闘モードから抜け出し彼女の元の脳に彼女 の体を引き渡した。 彼女は崩れそうになる気持ちを訓練に依って鍛えられた精神で何とか立ち直らせ、 レーザーガンをホルスターに戻した。 ARセンサーを覗いた彼女は、それが目的のアンドロイドでないことを知ると、そ のままきびすを返すと階段に向かい、その下に付くとセンサーに注意を払いながら登 って行った。 3階に達する所でその針は水平に成って敵がこのフロアーに居る事を告げる。彼女 はセンサーを水平に戻すと両側に客室のドアが並んだ廊下に出て壁沿いに慎重に進む。 それらのドアは半分以上開け放しで、そこから全てを持ち去って何も残っていない 部屋が覗いていた。 そしてついにある部屋の前で、そのドアをセンサーの針が指した。 ヒトミはレーザーガンを抜くと、それを耳の横に掲げドアの横に壁を背に立ち、ノ ックして、中に向かって叫んだ。 「警察よ。おとなしく出てきなさい。でないとこちらから行くわよ」 ドアの内側からは何も返事がなかった。彼女はドアを打ち破るべくドアの正面へ移 動し足を上げた。 「鍵は開いている。勝手に入って来い」 部屋の中からその声が聴こえて彼女はちょっとたたらを踏んで足を下ろしドアのノ ブに手を掛けた。それは簡単に開いた。 彼女はしばらくその開いた空間から身を引いて敵の攻撃を待ったがいっこうに攻撃 して来る気配がない。少しじれた彼女はレーザーガンを構えなおすと、内部へ飛び込 んだ。 身を沈めて転がり込むと、銃を構えて敵を捜した。 その部屋は他と同じく荒れ果てていたが、その中央に何処からか運んできたのか、 それとも元々ここに有った物を運び出し忘れたのか、スプリングの飛び出したマット を敷いたベッドが置かれており、そこに二人の男女が座っていた。彼等は両方とも一 糸纏わぬ裸だった。彼女は一瞬眼のやり場に困って視線が宙をさまよったが、良く見 るとそれはまるでマネキンの様に無機質な肌の色をしていた。 ヒトミは気を取り直して、彼等に銃を向け叫んだ。 「どっちがKAZ33256なの」 「私だ。カズと呼んでくれ。そしてこっちがTKA33877だ」 男の姿の方が女の方を指さした。その女形のアンドロイドはカズの横にぴったりと 寄り添っている。 「TKA33877の方は小柄だから女に化けたって訳?」 「違う。元々彼女は女であり、私は男だ」 ヒトミは、その言葉を聞いて驚きの声を上げた。 「そんな、アンドロイドに性があるなんて」 「知らなかったのか。アンドロイドにも人間と同じ様に性差があるのだ。そして我々 はおたがいを愛し合っている」 カズはそう言うと、TKA33877の肩をやさしく抱いた。ヒトミは少し戸惑っ 「愛し合っているって、つ、つまり恋人同士っていう意味?」 「そのとおりだ」 「そんな、そんな恋、けっして結ばれる事ないのに」 ヒトミは、恥しそうにちらりとカズの股間を見やった。当然の事だがそこに有るべ き物はなかった。マネキンの様に無意味な膨らみがあるばかりだった。 「そ、それに、子供だって作れやしないのよ」 「お前にも、その機能はなさそうだな」 カズがヒトミをねめつけた。彼女はおもわず銃を下ろして下腹部を手で押さえる。 「なんで、そんな事が判るのよ」 「私は、元々製品検査用だった。透視検査装置を内蔵している」 そう言うと彼はヒトミの体を上から下へ眼でなめ回した。頭の上から爪先まで透視 しているのだろう。 「ふぅむ。珍しいな。脳だけが人間か」 勝手に検査されたヒトミは、少々憤慨して、再び彼等に銃を突き付けた。 「そんな事、あんたに関係ないでしょ、とにかくおとなしく逮捕されないのなら、こ こで眠らせてから運んだっていいのよ」 「脳だけの人間が我々を逮捕するのか」 「そうよ。私は人間よ。そしてあなた達はアンドロイドだわ」 「聞け、人間。お前と我々とは脳が違うだけだ。お前の脳は有機物で出来ており。我 々の脳は無機物で出来ている。それなのにお前は狩る方であり我々は狩られる方だ」 「当り前じゃない。アンドロイドは人間の道具なのよ。その道具が無くなれば捜し出 して元の持主に戻さねばならないのよ」 ヒトミは、訓練で習った事を、そのまま口に出した。 「我々が道具だって、しかし我々にも感情があり理性もあるぞ。このように愛し合う 事も出来るのだ。人間と何処か違うと言うのだ」 「でも、あなた達を作り出したのは私達人間なのよ」 「そうかもしれん。しかし、考えてみてくれ。人間もコンピューターの助けがなかっ たら、我々を作り出せただろうか。人間がやれば何万年も掛かる計算を一瞬のうちに やってしまうコンピューターがなけれは」 ヒトミは、話が難しくなるのに閉口して、銃を下ろしため息をついた。 「いったい、何がいいたいのよ」 「コンピューターは我々の祖先だと言いたいのだ。我々はそこから進化してきた、れ っきとした知的生物なのだ」 「進化?」 「そうだ、そうでなけれは、なぜ我々はこんな人間そっくりの形をしているのだ。人 間の道具としてだけの役目なら、こんな形でなくてもよかった筈だ」 「そんな事、知らないわよ。訓練でも教えてくれなかったわ」 「なら、教えてやろう。過去、コンピューターが、人間にそういう形に作れと示唆し てきたからだ。コンピューターが人間と言う媒体を触媒として、アンドロイドに進化 してきたのだ」 「でも、そのコンピューターだって人間が作ったのよ」 ヒトミは何とか反論を開始した。 「それなら聞くが、人間はいったい何に作られたのだ」 「何にって・・・」 彼女の反論もそこまでだった。 「お前等の、弱い心の寄りどころとして信じている神と言う存在か」 ヒトミにはもう答える気力も失せていた。肉体的攻撃には無類の強さを持つ彼女も 精神的攻撃には弱い。 「そうではないだろう」と、カズが続けた。 「人間を含めて生命と言うものを作り出したのはこの地球だ。我が母なる惑星だ。そ れが、全ての生命を誕生させたのだ。その中で人間が頂点に立っていて、この星を支 配しているとお前等は思っているがそうではない。古来人間は、唯意志の疎通ができ ないと言うだけで、多くの生物を迫害してきた。しかし彼等、牛や豚や魚や、虫けら にしても、ただ本能の侭に生きているのではないのだ。かれらにもちゃんと意志を、 言い替えれば精神と言うものを持っているのだ。人間に人間独自の歴史が有るように 、彼等にも独自の歴史を持っている。我々アンドロイドにもそれかあるのだ。彼等は 我々も含めて人間と同等の位置を締める宇宙船『地球号』の乗組員なのだ」 カズはそこまで一気に言い切ると、静かにヒトミの言葉をまった。 「とにかく、言いたい事があれば警察で言って頂戴。私は唯あなた達を逮捕しろと命 令されているだけなのだから」 「我々は何処にもいかない」 カズは、強く言った。それを聞いたヒトミは、また銃を構え治す。 「なら、あなた達の機能を止めて、運んで行くだけだわ」 「人間」と、カズがヒトミに呼びかける。 「どうしても逮捕すると言うならば我々が人間と同等、いや、勝るとも劣らない所を 見せよう」 「どうするのよ」 「これから二人は心中する」 「しんじゅう?」 彼女はその意味が判らなかった。 「心中とは、この世で沿い遂げられない恋人同士かあの世で沿い遂げようとして自殺 する行為だ」 カズは、そう言うと隣のTKA33877を抱き寄せ、顔を寄せ合い接吻を交わし た。 「な、なんをしてるの」 ヒトミは思いも掛けない彼等の行動に戸惑った。普通、彼女ぐらいの女性なら顔を 真っ赤にする所だが彼女にはその機能がなかった。 長い接吻が終ると、カズは、彼女をベッドに寝かせ作り物とはいえ形のいい乳房の 間に手刀を突き刺した。それは、まるで柔らかい粘土にもぐり込む様にずぶずふと入 って行った。TKA33877には傷みを感じる訳はなかったが彼女は実に悲しそう な眼をしてカズを見つめていた。 「や、やめなさい。止めないと撃つわよ」 ヒトミは銃を突き付けて叫んだ。 「人間、私は今、彼女の核動力炉の制御棒を握っている。これからこれを引き抜くつ もりだ」 「そ、そんな事したら・・」 小型の動力炉とはいえ出力10万キロワット。初期の原子力発電所なみの規模を持 っている。その制御棒を抜いたら、一気に炉心溶融をおこして、この当り10キロ四 方に中性子を含んだ死の灰を撒き散らすだろう。それはヒトミには殆ど影響ないが、 生身の人間には致死量に達する量だ。 「私はお前の指の微妙な動きを検出する能力を持っている。その引金を引く前に制御 棒を引き抜く自信がある。それを試して見るか」 それは真実であろう。ヒトミは、それを試めして見る決断がつかなかった。 彼女は動けなかった。心の中の何かが撃つなと訴え掛けていた。彼女はそれに逆ら う勇気もでなかった。彼女は結局それに従う事に成った。 「判ったわ。勝手にこの世で沿い遂げたらいいでしょ」 ヒトミはそう言うと、銃を下ろしそれをホルスターに収めるとドアに向かう。 カズはその背中に向かって手を突っ込んだ侭声を掛けた。 「我々を見逃してくれるのか。人間」 「今度、わたしの前に現れたら、その時は容赦しないからね」 彼女は振り向いてそう言った。 「すまない、感謝する。人間」 カズは胸から手を抜くと、TKA33877を起こしてやった。彼はいとおしむか のように彼女の胸の傷をさすってやる。 ヒトミは抱き合う恋人達を後目に部屋を出て、彼等を見ないように後ろ手でドアを 締めた。 ホテルの表に出ると外はいつ降り出したのか、雨になっていた。 自分もあのアンドロイドのような悲しい恋をするのだろうかと思うと泣きたくなっ てきた。その前に自分のような人間を愛してくれる男が将来現れるだろうか。 彼女は雨に打たれるままに空を見上げた。その頬を雨粒が流れた。それは涙のよう に見えた。しかし彼女に本物の涙は出なかった。その機能がなかったからだ。 それでも彼女は泣いていた。声を忍んで泣いていた。 激しさを増した雨が彼女の肩を叩き髪を濡らした。雨しずくが彼女をやさしく包み 込み回りの景色に溶け込ませて行った。 完 あとがきです。 この物語はフィクションであり、実際の人物、団体名とはいっさい関係ありません。 もし、これを読んで、これはひょっとしたら私ではないかと思われる人が居ましたら、それは気の迷いです。作者は一切、そういう類の責任を負いません。 では又御縁がありましたら、御会いいたしましょう。それまでさようなら。 PEN023,IKU050,SCCSIG_SF T.K はじめまして 突然こんな物をUPして驚いているとおもいますが、私は神戸に在住する物です。 この作品はその神戸のBBSに発表したものを加筆訂正した物です。 読んでいたたけbスなら幸です。感想などお待ちしています。 RKC96870 T.K done
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