CFM「空中分解」 #0038の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
二人がエレベーターで2階に降りて『シャングリラ』という東急インチェーンの レストランでコーヒーとトーストの朝食をしていると、ちょうど大田郁子と 浅野医師と山本晴彦が連れだって入ってきて向こうのテーブルについた... こちらには気が付いていないようである。 一雄はタバコがなくなったので、レジに行ってセブンスターを一箱買って戻って くると泉が向こうのテーブルの山本晴彦の手元をじっとみつめている.... 「どうしたんだい?」 「ええ、ちょっとね...昨日あの人はロングピースを吸っていなかった?」 ちらっと山本を見ると、今朝はマイルドセブンライトという軽いタバコを吸っていた。 「ああ!そうだったな、最近はロングピースも置いてないところが多いからなぁ..」 泉の顔に視線を移すと、もう総て忘れたようにニコニコして手のひらをひらひらさせて いる???? 「それセブンスターでしょ?一本ちょうだい!」 警察官に未成年者がタバコをねだるとはどういうことだ!! 渋い顔をこしらえてセブンスターの封を切ると、一本渡してやりながら... せきばらいして説教を... 「タバコはいいかげんにやめろよ、体に悪いんだぞ」 説教しながらライターで火を付けてやっていてはなんの効き目もありはしない。 「そうねぇ12月に20才になるから、そうしたら止めてお酒だけにするわ..」 「未成年のくせに酒なんか飲んでいいわけないだろ!」 「たしなむ程度よ、貴方と一緒にホテルに行くよりずっと健康的だと思わない? おなかが大きくなったりしないしね..」 泉の白い指に挟んだセブンスターから青い煙がたちのぼった... 目の前の若さに溢れた愛らしい泉の顔に、セブンスターと、お酒と、 ホテルがどうしても結び付かない一雄はゆっくり首を振ってつぶやいた。 「今時の若い娘はさっぱり分からない...」 「ねえねえ、タバコっていえば今キャビンのCMに出てくる中年のレーサーの人って カッコイイわねぇ! あの人松本恵二という現役レーサーですって...」 タバコを吸い終ってトーストをぱくつきながら泉の皮肉な視線が一雄の足の爪先から 頭のてっぺんまで移動する。 「まちがってもそんなのと俺を比べないでくれよ...」 煙を吐き出しながら元気のない声で言った。 「貴方はそのいかにも頼りなさそうなところがグッとくるんだから 自信もちなさいよ!」 頼りない男にグッとくる女なんて自信もつほど沢山いるとは思えないが... 昨日水野主任に聞いたところでは、山本たち3人も今日の高徳線で徳島に行って 仕事を済ませ、今日中に高松に帰ってもう一泊してから名古屋に帰るとの事だから、 行きも帰りも泉たちと同じ日程らしい。 9月に入ってもまだ日中の日差しは強く、高松駅構内のディーゼル急行 『あしずり3号』の赤とクリーム色の車体もガスコンロのフライパンのように 灼けていた... 発車が10時14分で琴平着が11時ちょうどである。 ブーッというディーゼル特有の音とともに発車した急行列車は晩夏の讃岐平野を 薄墨色の排気とともに疾走した... もう少しすると黄金色の穂波をみせる稲も、まだグリーンのまま風にゆれている。 旧式の木造家屋の琴平駅はクリーム色のペンキで化粧して、秋の観光客を待ち受けて いるが、夏のほてりを残した今の季節はまだ閑散として蝉しぐれの中だ... 現代建築の駅を見なれた目には木造の駅舎が、かえって新鮮な感じさえして、 駅前の石どうろうに素晴しくフイットしているように思われる。 金比羅さんまで歩いて行こうと言う泉を押しとどめてタクシーに乗り込み、 金比羅さんの石段のとっかかりまで行った... 長い石段を歩いて登るのに街の中まで歩かされてたまるものか..と足が商売道具の 刑事にしては、だらしない事を考える。 石段を半分ほど登ったところで.. 「もう!だらしないわねぇ!」 「ち、ちょっと待ってくれ...息が切れて...」 さすがに寝不足の一雄を、若さでかなり引き離した泉は随分上の石段で手まねき している。 石段もさることながら奉納のとうろうや石塔の数がものすごく、大衆の信仰とは凄い エネルギーである。 長い石段の両側はみやげ物屋がずらりと並び、お祭の縁日のような雰囲気を ただよわせている... 『ぶどう餅』というお餅を土産に買って、高松のホテルに戻ったのはまだ日も高い 午後4時30分だった。 フロントには水野功からのメッセージが届いていて、北署に至急きてほしいという 内容だ。 部屋に荷物を置いてバスを使い、着替えをしてから少し早いかと思ったが泉の部屋に 行ってドアをノックする... 「そろそろ出かけるよ」 ドアをノックして暫くするとドアがあいて、バスタオルを巻き付けただけの泉が 濡れた髪のまま立っていた。 「いまシャワー使っているから部屋に入って待っててね」 一雄の心臓が急ピッチで暴れ始めた... 「過激なスタイルだなぁ...終るまで自分の部屋で待っていようか?」 「すぐ済むからここでいいわよ」 すでに一度男と女の関係になっているせいか泉は解放的である。 「いや、やっぱり部屋に帰っているから...」 急いで廊下に出てドアを閉めると自分の部屋に帰ってタバコに火を付けた... 間違えてフィルターに火を付け、あわててひっくりかえしてくわえたので口の中を やけどした! 「うわっ!アッチッチイ!!」 何処からみても立派な三枚目だ.... こんな自分が確かに一度泉を抱いたことは有るのだが、 あの時はお互いに酔っていたし十分な実感を持つまではいかなかった.... と、その時ドアをノックする音がして泉が入ってきた、 黒のスカートに白いブラウスで清楚で大人っぽい服装である。 薄く化粧した泉は見とれるほどの爽やかさだ... 「お待たせしてごめんなさい」 「別にかまわないよ、さあ行こうか..」 一雄はまだ半分ほど残っていたタバコを一気に吸い終ると、灰皿にもみ消して 立ち上がった... 高松駅近くの北署に着いたのはそろそろ夕闇も迫る6時頃であった。 事務所の中はまだかなり沢山の人が残っている.... 受付で水野捜査主任の名前を言って、応接室に通されると、すぐドアがあいて 水野功が丸い顔を覗かせた。 泉と一雄は昨日の夕食のお礼を言ってから今度の事件の話に入った。 「今日司法解剖の結果報告があって、死因は青酸性の毒物だと判明した... 殆ど即死に近い状況で殺人という事は疑いない... しかも弱いヒ素反応もあったという事だ」 殺風景で、ろくにクーラーも効かない室内は昼間のほてりがのこって蒸し暑い。 「やっぱり...」 「ところが妙なことに被害者の口には毒物反応があるのだが胃の中には殆ど 毒物反応が無いのだ」 一雄は泉が調べたのだと言うことを前置きしてから、 浅野医師の脅迫状の一件を話した。 すると水野功は急に立ち上がると逮捕状を取るといって応接室から出て行きかけた.. その時までじっとなにか考えていた泉が、急にはっとした顔をして水野主任を止めた。 「主任さん少し待って下さい、取り調べるのはいいんですけど浅野先生は多分 犯人じゃ有りませんわ...私も勘違いしていましたから」 「ええっ!なんでそんな事が分かるのですか?動機もあるし毒物も自由に手にはいる 立場なんですよ、あいつが犯人に決っている!少し締めあげてはかせますよ..」 その時婦警がお茶を持って入ってきたので話が中断した...沢口靖子に良く似た なかなかの美人婦警である...自然に一雄の視線がそちらに移る..と.. 「いてえっ!」 泉の指が一雄の太股を思いきりつねりあげていた。 「あなたねぇ、よくこんなところで鼻の下のばしてられるわね、 もう少しデリカシーを持って欲しいものだわ」 「いや、あの、この人があんまりキレイだったもんで..いや、その」 美人婦警もそのユーモラスなやりとりに声をだして笑うと、泉のほうを指して.. 「こちらのお嬢さんも大変可愛いですわ..ふふふ」 水野主任が大笑いしている。 「芝原君、この男が君に前から話していた愛知県警の高村だよ、残念ながらこの お嬢さんが高村の恋人らしい..少し座って話していかんか?」 水野主任の話では、美人婦警は芝原恵美子といって花婿募集中なので水野と同期の 一雄を恵美子の相手にどうかと話していたところらしい。 そこへ一雄が突然泉をつれて現れたわけだから話にもなんにもなりはしないが.. 「それは残念ですわ、なかなか素敵なかただと思っていましたのに」 「今のは100%お世辞だから、本気にしちゃだめよ!」 苦笑している一雄をまん中にしてしばらく雑談してから芝原恵美子は席を立って 事務所に戻っていった。 それから話はまた今回の事件に戻る... ついさっきとはうってかわって真面目な顔で水野主任が泉に聞いた。 「なぜ浅野医師が犯人ではないと断定できるのですか?」 「あの時の状況から見て、浅野先生が毒物を飲ませるなら船酔の薬か缶ジュースしか 有りませんけど、どちらにしても胃の中に毒物反応が出ないわけはありませんわ」 「ふーーむ、なるほど」 「それに青酸カリって速効性の劇薬でしょ?じゃあ一度もデッキにあがって 来なかった浅野先生では毒物を飲ませる方法が無かったと思いますよ、 私達もデッキにいましたし」 さすがに腕利きの水野捜査主任も腕組をして考えている... 「たしかにそう言われればそうですなぁ...それなら犯人は誰なんです??」 「まだよくわからないんです、こうなにかひっかかるところは有るんですけど確証が 掴めなくて」 その日は一応それで帰ることにした..水野功も見送りに出口まで同行した.. 水野主任にも泉の名探偵ぶりが理解できたらしく、別れぎわに一雄に顔を寄せて ささやいた。 「おい高村、おまえ泉ちゃんを離しちゃだめだぞ..なんとか頼み込んで結婚して もらえ..そうすれば、お手柄の連続で警部の椅子は間違い無いからな...」 「俺が頼み込んで結婚してもらうのか?」 「あたりまえだろう、おまえみたいにノンビリした貧乏デカに、あんな可愛い娘が くっついているだけでも奇跡というものだ?」 「ノンビリした貧乏デカとはひでえ言い方だな」 「事実だろ」 こういうときの水野功はさすがに腕利きだけに遠慮ということを一切しない。 舌打ちして水野と別れてから... 階段を降りてホテルのほうに歩きかけたが夕食を食べていない事に気が付いて、 高松駅のすぐ右手のビルの2Fにある『ごんな』というラーメン屋に入り、 味噌ラーメンとギョーザを食べた... テーブルが4つばかりで、あとはカウンターだけの小さな店だし、 お世辞にもきれいな店とは言えないが味はなかなかよさそうだ。 一雄は犯人を見つけるより安くて旨い食い物屋のほうに鼻がきくのである。
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