●連載 #1162の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
住友惠子誘拐の翌日、大学に警察が入った。 品川の外れにあるこのFラン大学に、パトカーが横付けされる光景は場違いだった。 昼下がりのキャンパスは、いつも通りのんびりしている。 講義に向かう学生、ラウンジでスマホを眺める留学生、 校舎の外では煙草を吸いながら時間を潰す連中。 そんな呑気な空間に異物が混じっている感じだ。 六号館2階のラウンジに、岩本警部補(遠藤憲一似。50歳)と 大友秋絵巡査(渡辺満里奈似。27歳)が姿を現した。 秋絵は現役の巡査でありながら、臨床心理士の資格を持ち、 脳科学にも首を突っ込んでいる変わり種だ。 ラウンジの一角で、サルサ研究会のメンバーを探す。 秋絵は駒込(岡山天音似)という男に目を留めた。 へらへらして、要領のよさそうな学生だ。 「住友惠子さんのお友達って誰か、知ってる?」 穏やかな声だったが、2人で圧をかけて逃がさない。 駒込は少し考える素振りをしてから言った。 「玉置誠だな。彼は……惠子のアッシー君みたいなもんでしたよ。 送迎とか、呼ばれたらすぐ行くし。 正直、利用されてたと思います。 キレてやったんじゃないですかね」 岩本はメモを取る手を止めなかった。 秋絵は、視線だけで誠を探している。 「どの人?」 「あそこにいるよ」とラウンジの奥に座っている玉置誠を指さした。 やがて二人は、玉置誠の前に立った。 誠は、警察というだけでドギマギしていた。 警察だの教授だの医師だのというだけで、ドギマギしてしまう。 「玉置さん」秋絵が声をかける。 「住友惠子さんのことで、少し話を聞かせて」 「……あ、あの、その……」 「落ち着いて。ゆっくりでいいから」 秋絵の声には、尋問の色はなかった。 誠は深く息を吸った。 「自分……アッシー君にされてた、って言われてますけど。 苦痛じゃなかったんですよ」 「どういう意味?」 秋絵が首を傾げる。 「自分はシステムオタクなんです」 誠は急に饒舌になった。 「待ち合わせは新宿の目。 そこから歌舞伎町の地下のサブナード駐車場に行って、 カーシェアはタイムズじゃなくて、三井の方で。 スマホで操作して、1000万のランドローバーを予約するんです。 湾岸線を走って、ららぽーとTOKYO―BAYまで走る。 その一連の流れが、たまらなく楽しいんです」 岩本は眉をひそめたが、秋絵は興味深そうに聞いていた。 「車を運転するのが好き、ってこと?」 「違います」 誠は即座に否定した。 「システムに触れるのが好きなんです。スマホのアプリで予約して、 時間になると、カチャっと車のロックか解除されてハザードが点滅して、 その瞬間が萌えるっていうか」 事情聴取が終わり、二人がラウンジを出ると、秋絵は小声で岩本に言った。 「彼は違うと思います」 「理由は?」 岩本は立ち止まらずに聞いた。 「システムオタクは、扁桃体の反応が独特なんです。鈍感なところと、 異様に鋭いところがあるんですが、 一度ハマると、前頭前野で興味が長く持続するタイプで。 クレッチマーで言えば、粘着気質寄りですね」 秋絵は、簡単にクレッチマーの気質分類論を説明した。 クレッチマーによれば、人間は3つの気質に分類できる。 即ち、循環気質(肥満型で社交的だが躁鬱気味)、 分裂気質(やせ型で、内向的、非社交的、神経質)、 粘着気質(闘士型で真面目、頑固で癲癇気質)である。 誠は粘着気質のシステムオタクなので、今回の犯人とは違うんじゃないか、 と秋絵は言う。 「誘拐犯じゃない、と」 「ええ。今回の事件、もっと粗い、場当たり的で、衝動的な感じがします。 循環気質っぽい匂いがします。 循環気質というのは、快楽を味わう扁桃体だけで生きている様な人間で、 思慮分別を司る前頭前野がないんですよ。だから場当たり的で」 警察が去ると、ラウンジは元のまったりとした空気を取り戻した。 誠は熊五郎の隣に腰を下ろし、低い声で言った。 「俺じゃねーよ。もっと、組織的な連中だろ」 「例えば?」 熊五郎が笑う。 「カンボジアあたりの中国人マフィアとか。 闇バイト使って、誘拐して、現金を奪取する。 そういうシステム化された犯罪に、正直、憧れるけど」 熊五郎は肩をすくめた。 「ノワール的なのがいいんじゃない? 誠、お前は素人の女が苦手だろ」 「……」 「『東電OL』みたいな、どこか壊れた女の方が、安心するタイプなんじゃないのか ?」 誠は答えなかった。
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