●連載 #0798の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
*この作品は歴史を題材にしたフィクションです。登場する団体、宗教は無関係です。 風がなびいていた。黒光りする豊かな髪をなびかせる。すこし癖のある髪だ。この地域 では珍しくない褐色のいい肌をした男。家督の継いだばかりのアブガッスムにはより冷 たく感じた。 大シリア主義。後年そう呼ばれるこの国シリアを見下ろしながら青年は言う。 「ダマスカスは、本当に大きな都だ。はるばるガダラから来た甲斐がある」 「へい、旦那。このたびは長い旅になりましたね」 「ああ。今回の旅は、ニザールの高貴な方をお迎えするのだ」 二人はダマスカスの門を潜っていく。砂漠の陽炎が遠くから来た旅人の歓迎しているよ うだった。ダマスカスの街は大都会である。北は地中海から、西はエジプトから人が波 のように押し寄せる。ダマスカスの南門はヘレニズム文化とアラビア文化が合成された 華美な門である。一種の中東地域のおけるランドマークであった。 「騒がしいですね。」 「あたりまえだろう。先の戦で少なからず傷を負ったのだろう。花の都も戦争となれば 騒然となるさ」 この時代、大シリアは戦々恐々としていた。ヨーロッパ諸国で起きた十字軍運動。二度 のキリスト教軍の侵攻に、ムスリムたちは耐え忍んできた。そんな彼らにも疲れは着実 と出てきている。ダマスカスの物価は、日に日に高騰しているし、人々は形のない神、 アッラーにより強く祈るような生活をしてきた。この次に十字軍がやってくれば、確実 にやられてしまう。アブガッスムは、そう懸念していた。 「ニザールの宿はどこにある。」 「へい。案内人を待たせておりますので、わたくしめがおちあって場所を確認してきま しょう。旦那さまは、こちらでお待ちください」 そう言って従者は市場の路地裏へと消えた。喧騒に溶けていった彼を人々は誰も気づか ない。 ***************************** 「残るは6つ。手ごたえのないやつらだ。いくぞ。この遺物も我々の手だ」 転がる骸に投げかけるようにして、黒装束の数人の男たちは虚空に消えた。 ************************************* 「遅い。遅すぎる。」 頭で想像したことが起きていることはわかっていた。彼は足早に従者の消えた路地裏に 入っていく。 「・・・!」 路地裏には、従者の死体が転がっていた。苦痛を保ったまま硬直した顔がこちらを覗い ている。 「ラシード・・・・!」 昼間の喧騒が嘘のようにダマスカスの街は眠りについた。人もラクダも馬たちも音を立 てない。時折、聞こえる鷹たちの鳴き声がここが砂漠の真ん中であることを思い出させ てくれる。 青い色のカフィーヤに頭を覆って、こげ茶色の瞳をぎらぎらとさせている。アブガッス ムである。 「遺物は渡さない!」 リズムよく建物跳んでいく姿はどこか幻想的だった。 ダマスカスの摩天楼の中に、ひと際大きなモスクがある。壁は大理石を使い、中央には コーランが納めてある。 アブガッスムは、コーランを抜き取った。すると、眼下に階段が作られた。 「見つけた」 ゆっくりと階段を下りて行った。 アブガッスムが地下室に降りると黒装束の男が立っている。この地域には珍しい白い肌 と、深く窪んだ奥に光る眼。 右の中指が切り落とされている。誰だかわかっている。ここで落ち合うはずだった人物 を殺した男。 「貴様っ!」 ラシードは、アブガッスムの振り上げた白刃をひらりとかわすと、書棚の上に飛び乗っ た。 「お前はもうわかっているはずだ。近いうちに決戦は行われる。どちらが勝つか。俺に はわかる」 「我々、ニザールの使命は、遺物と聖地を守ることだ。貴様は、裏切り者だ」 「この俺が、飼われているのかと思っているのかい。それは違うね。俺にはもっと高貴 な方々がついていてくれている」 ラシードが繰り出した剣を受け止めることで精いっぱいだった。重い。鉛のような重さ にアブガッスムは、書棚ごと倒れこんだ。そのまま気を失った。 ************************** 頭が痛い。ここはモスクの一室のようだ。お祈りのためにきていたムスリムたちに助け られた。熱心な彼女たちは、優しく接してくれる。 「お前たち、黒装束の男を見なかったか?」 「さあ。ぞんじません。ただ、今朝西門の近くで血染めの黒いカフィーヤが見つかった そうですよ。」 「わずかな情報だが感謝する。」 「アッラーのお導きを」 西門に出たアブガッスムは、周りに人々に話を聞き、馬屋で一番早い馬を買った。 めざすは、エジプト。ラシードを追って。 馬に跨った彼は決意に満ちている。 <了>
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