●連載 #0766の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
2週間後、つまり1月8日金曜日が2回目の診察日で、待合室の前で待ってい たら、あれ、あれはマサルじゃない? なんでマサルがこんな所にいるんだろ う。向こうも私をちらっと見て慌てて顔をそらした。私は近づいて行くと椅子 に座って体をよじるようにして顔を隠している。マサルの肩をつついた。「マ サルでしょ?」 「いやぁ」観念したようにこっちを向く。 「なにやってんの、こんなところで。太っちゃって」 「ちょっと色々あって」 お互いに診察も終わって薬ももらってから駅前のケンタッキーに行って、そこ で何があったのか話してくれた。マサルの場合、偏差値55点の女がやらせて くれたら55点以下の女は全部征服みたいな感じで、どんどんハードルをあげ ていくのだけれども、「とうとう偏差値70点クラスの女をものにしたんだよ ね」とマサルが言った。「横浜の方で。そんで意気揚々と横浜から都内へ首都 高を走っていたのだけれども、大黒ふ頭付近に差し掛かったら、もの凄い狭い 高架で丸で空中を走っているジェットコースターのレールのように華奢な感じ で、道路の両脇の立ち上がりも1メートルぐらいしかなくてちょっとハンドル を切り損ねたらあそこを乗り越えて地上に落っこちていくんじゃないか、と思っ たら心臓がどきどきしてきて、ばくばくしてきて、冷や汗も出てくるし、どう しよう、ちょっと休みたい、でも道路は狭いし路肩に停車スペースもないし、 ミラーを見れば後ろからトラックが迫ってくるし、どうしよう、どうしよう、 どきどきするわ、息苦しいは、のどがからからで気道がからからに乾燥してい るようで、水が飲みたい。押し出されるように本線から大黒ふ頭SAの入り口 にそれていって、大黒ふ頭で休んでいたのだけれども、又あの狭い高架を走る と思うと怖くてできない。車が少なくなる夜中まで待とうと思って待っていた ら今度は暴走族が集まってきて、結局帰れたのは明け方だったけれども。それ で、俺は、なにしろ偏差値55点の女がやらせれば55点以下の女は全てとい う発想だから、一回起こったパニック障害の発作は繰り返すわけで、何か逃げ られない状況に追い込まれると発作が起きるんだよねえ。電車でドアが閉まっ た瞬間に心臓がどきどきばくばくする。床屋で首にシートを巻かれた瞬間にど きどきする。授業開始のベルがなった瞬間にどきどきする。自分の部屋の奥の 机に座っていてドアの所に誰かに立たれるとどきどきする、とだんだん対人恐 怖症にもなっいったんだよねえ。去年の10月頃からだけれども。それであち こちの医者に連れて行かれたんだけれども、どこの医者に行っても安定剤をく れるだけで、それを飲んでぼーっとして、食っちゃ寝、食っちゃ寝を繰り返し ていたらみるみる太ってさあ。このままじゃあひきこもりになると恐れた親父 が森田式っていう精神療法を探してきて、そんでこんな遠くの病院まできてん だよ」とマサルが言った。「そっちはどうしたのよ」 「ん? うーん。お肉が食べられなくて」 「食ってんじゃん」 「今は薬飲んでいるから」 「何飲んでいるの?」私はもらってきた薬を見せてやった。 「俺とおんなにような感じだなあ。あそこの病院ってこれしか出さないのかな あ。このドグマチールは俺も飲んでいるよ。これ飲むとおっぱいがでかくなる んだよねえ。あとちんぽが小さくなる気がする」 「そんな副作用があるんだ」 「これからどうするの?」 「今日?」 「今日じゃなくて、学校とかさあ」 「マサルは?」 「うーん。禅寺に行こうかなあと思ったり」 「禅?」 「うん。俺の先生は森田式だからね。禅がいいっていうんだよねえ。その先生 が言うには脳も自然だから、こう、どんなに精神集中しても川を逆流させる事 は出来ないのと同じで、自分の脳もままならず。自然のままに、あるがままに。 というわけで禅について色々調べたんだよ。鈴木大拙も読んだしね。それから」 というと携帯を取り出して操作する。「これ見て。永平寺の住職の言葉だよ」 といってyoutubeを再生する。住職が喋り出した。「自然は立派やね。私は日記 をつけておるけれど、何月何日に花が咲いた。何月何日に虫が鳴いた。ほとん ど違わない。規則正しい。そういうのが法だ。法に適っているのが大自然だ。 だから自然の法則を真似て人間が暮らす。人間の欲望に従っては迷いの世界だ。 真理を黙って実行するというのが大自然だ。誰に褒められると言うことも思わ んし、これだけのことをしたらこれだけの報酬が貰えるということもなく、時 が来たならば、ちゃんと花が咲き、そして黙って、褒められても褒められんで もすべきことをして黙って去っていく。そういうのが、実行であり、教えであ り、真理だ」そこで動画が終わり、マサルはパタンと携帯をたたんだ。「これっ て禅か? こんなの、何時花が咲いたかなんてめもっておいて、桜の開花予想 か?」とマサルが言った。「これって俺のナンパ術に近いものを感じるんだけ れども」 「違うよ」私はコーラをちゅーちゅー吸う。「この住職は、自然が立派だって 言っているんだよ。だのにどうしてマサルは住職が立派かどうかをチェックす るわけ? 自然を見ろって言っているんだから自然を見ればいいんだよ。マサ ルは結局自分の新しいご主人様を見付けている感じだよ。それじゃあ悟りの道 は遠いね」 「アキコ、すげーなあ。飲んでいる薬が違うのかなあ」と言って私の薬を見た。 だけれども、と私は思った。絶対的貧困はどうするんだろう、パレスチナのゲ イはどうするんだろう。それに禅なんてやらないでも精神安定剤で肉を食べら れるようになってしまったこの現実…と思いつつ今食べたチキンの骨を見る。 パーティーバーレルとか全部骨にしたら、博物館の恐竜の骨みたいになるのか なあ。なんとなく下っ腹がうずく。生理がくるかなあ。頭の中で計算してみた。 4ケ月ぶりか。生理がもどったら幸福な結末とも思わないけど。「私さあ、4ケ 月休んだでしょう」と私は言った。「4ケ月ぐらいでだぶるのも嫌だけれども、 今更学校へ行ってもハツネとかヨシコにあわせる顔がないよねえ」 「俺もヒデオには絶対に会いたくないね。俺の事、大爆笑しているからね」 「私の事って、学校で噂になってる?」 「なってるよ。もう有名人だよ」 「みっともないよなあ。4月に定時制に編集しようかなあ」といってコーラを 飲みきった。 奥の席になにやら援交っぽいおやじと女子高生がテーブルにトレイを置いて着 席した。彼女は同伴のオプション料金はもらっているのだろうか。添い寝5千 円、夜明けのコーヒー5千円だよ。 「そろそろ行く?」とマサル。 「うん」 通りに出たら何故かユーコとかエコテロの事を思い出した。エコテロには請求 書を送りたいよなあ、家に帰ったらメールを送ってやろうかなあ、いや、これ 以上関わり合いにならないほうがいいだろう、などと思いつつ歩いて帰る。 ♪今日はぁー歩いて〜、帰ろう おしまい
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