●連載 #0466の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「対決した二人を除いた面々に、結果は知らされるのかな? たとえば、最初 の六人いる状態で、ウタマロがピカソにチャレンジし、四番と推理した。結果 はピカソは三番であり、外れだった……という風に」 「いや、そこまで細かくは教えてもらえない。誰が誰にチャレンジしたかのみ、 知らされる。負けた人は無論、勝った人ももう戻って来ない。だから、人数が 減っても考えねばならない番号は減らないんだ」 「参加者同士の協力は?」 「言及がなかったから、認められていることになる」 「じゃあ、もしも複数名による同盟が成立していたら、チャレンジ前に仲間へ ある程度の情報を伝えることはできる」 「うん、そうなるな」 「念のために聞くが、暴力や脅しなどで、他人の番号を聞き出す行為は御法度 だな?」 「もちろんだよ。命が懸かってるのだから、暴力を振るわれても言わないと思 うがね」 「ルールの質問は次で最後だ。チャレンジは、いつでもできるのか?」 「そうなっていた。極端な話、ゲームがスタートした瞬間にチャレンジをして もいい。ヒントを一つも聞かずにそんなこと、やれるはずないけれどさ」 「よし。それでは改めて尋ねるぞ。実際のゲームはどう進行し、どんな結末を 迎えたんだ?」 「それが、のっけから急展開で。俺の番号は2だった……。いや、やはり、一 日目から話そう。一日目は、俺と同じように、他の四人――麻宮さんを除いた 四人もお遊びだと思っていたんだろうな。実にリラックスしていて、見知らぬ 者同士ながら、和気藹々とした雰囲気だったよ。麻宮さんも、楽しげに会話に 加わっていたしね。そんな歓談後、一人になる時間ができて、宛われた部屋で くつろいでいると、麻宮さんがやって来た。二人きりで話がしたいと言うから、 何事かと……正直なところ、胸が高鳴った」 「愛の告白を期待したか」 「それもある。ただ、頭の片隅では、ヂエの事件についての、自白もあり得る かなってね。コンマ数パーセントの確率だったけれど」 「どっちだった?」 「どちらでもなかった。ゲームで勝ち残るため、協力し合わないかという申入 れだった」 「ほう。必勝法でもあるのかな」 「そういうことではなくて、単に、お互いの番号を知ることで、有利になると 言う理屈だった。当然、断ったよ。裏切られる恐れがあったし、ゲームの趣旨 に反していると感じたんで。そのとき、彼女はゲームで本当に死ぬかもしれな いのよと念押ししてきたが、まだまだ信じられなかった。結局、二度、拒否し たら、麻宮さんもあっさり引き下がったよ」 「申し出を受けて、彼女の番号を見て、すぐさまチャレンジしてやろうという 気にはならなかったのかい? 初恋の人が相手だと」 皮肉のつもりで言った近野だったが、目の前の遠山はぽかんと口を開け、し ばし、沈黙した。グラスを持った手を、宙で止めている。やがて、思い出した ようにそのグラスを口に運んで喉を鳴らすと、 「……思いも寄らない考えだな、それは。全然、頭になかった」 と、感嘆した風に息を吐いた。 近野は近野で、大きなため息をついた。本当に死を賭したゲームをくぐり抜 けたのだろうか、この男は。今の遠山を目の当たりにしていると、疑いたくな る。 近野は無言のまま、手振りで続きを話すように促した。 「それからは……二日目のヒントタイムに話を移していいと思う」 「午後二時から三時過ぎに掛けてのことだな」 「うん。この初めてのヒントのとき、俺は何となく、最初から順番にと考え、 『私は1番ではない』と吹き込んだ。ついでに、立会人に声を掛けてみたが、 全然反応してくれなかったよ。 午後三時になると、六人が広間に集まり、テープを聞いた。聞き終わって、 ぞくっとしたよ。俺を含めた五人が、『私は1番ではない』と吹き込んでいた んだから」 「……残りの一人が1番と確定した訳だ」 「ああ。その人物、『私は4番ではない』と答えたウタマロは、さすがに驚い た様子だった。目を丸くし、おちょぼ口で何やらごにょごにょと呟いたあと、 『真っ先に、しかもこんな早くに戦線離脱とは、つまらんですな』と大笑い。 つられて、俺達も笑い声を立てた。麻宮とルノアールを除いて」 「ルノアール……女子大生風の参加者だな」 「ルノアールは、『私も早く上がりたいので』と言い残すと、実に素早く席を 立ち、自室に入った。しばらくの間、何が起きたのか分からなかった。つられ て笑った俺達だけでなく、ウタマロ自身すら、理解していないようだった。五 分か十分ほどして、館内放送らしきアナウンスがあった。声の主は立会人で、 口上は、大体こんな感じだったと記憶してる。『ルノアールからウタマロへチ ャレンジ成立。ルノアールは訴えの間へ入ること。ウタマロは裁きの間に入る こと。両名以外は自室に入り、ドアを閉め、次の指示があるまで出て来ぬこと。 以上、速やかに実行されよ』」 「訴えの間と裁きの間とは、別々の部屋なんだろうな」 「あとで知ったが、その通りだよ。間に小部屋があって、そこに立会人がいる。 銃の受け渡しを行うために」 「……今、気が付いたが、そういう風に受け渡すのなら、チャレンジされた人 物は銃を受け取った瞬間、立会人を襲撃できるんじゃないのか」 「恐らく、無理だよ。欧米の窓口によくあるスタイルなんだ。客と係員の間に ガラスの仕切りがあって、お金とチケットのやり取りは、そのガラスの下に設 けられたターンテーブルで行うっていうあれだよ。雅浪館にあったのは、ガラ スじゃなくて、マジックミラーのようだったけれど」 「あれか。仕切りが特殊強化何とやらなら、確かに銃も無効かもしれない。だ が、立会人が狙いを付けるための銃眼があるはずだが」 「裁きの間にいる者からは見えないよう、巧妙にカムフラージュされているら しい」 「訴えの間にしても裁きの間にしても、外から施錠できるんだろうな。結果が 出るまで、監禁の必要があるのだから」 「自動的に鍵が掛かる仕組みだった。銃、それもたった一発の弾丸では、壊せ そうにない」 「……続きを頼むよ」 まだ確かめたい点がいくつかあったが、先に話を聞こうと思った遠山。 「続きと言われても、この一度目のチャレンジ自体については、それっきりさ。 さっきも言ったように、ルノアールとウタマロが退場した。唯一、確実なのは、 ウタマロが1番であり、ルノアールはそれを間違えやしなかったであろうこと。 勝者は間違いなく、ルノアールだ」 「遺体の処理はどうするんだろう?」 早速、疑問を提出する。さらに重ねる。 「そもそも、対決した二人がそのまま退場したら、本当に死人が出たか、分か らないじゃないか。麻宮にかつがれている可能性、ゼロじゃないぜ」 「いや。近野、それはないんだ。本当に命がけのゲームだった」 答えたきり、遠山は急に両手で頭を抱え、肘を左右ともテーブルについた。 何か嫌な記憶が蘇ったのだろうか、呼吸が荒くなる。 「……黙り込まないで、断言する理由を言えって」 「二日目の夜十時十五分頃だった。立会人が現れ、皆を広間に集めた。特別に お見せしよう、とかどうとか言って、赤い布に覆われた塊を業務用の台車に載 せて運び入れてきた。薄手の布だったが、色が濃いため、透けてはいなかった。 布の下の物体は、高さ二メートル余りあったかな……。立会人が布をさっと取 り去ると、そこには巨大な氷があった」 「氷?」 氷とは、想像の埒外だった。おうむ返しをした近野に、遠山はようやく面を 起こし、目を向けた。 「透明の氷だった。いくつかの四角、じゃないな、直方体に分かれていて、ブ ロックみたいに積み上げられていた。それぞれ、サイズは異なるが、バランス よく積まれていた。その氷一つ一つの中に、切断されたウタマロの遺体が封じ 込められていた」 「……面城薫が発見されたときと、同じか?」 「そう、ほとんど同じだ。切断のされ方はウタマロの方が細かかった。確実に 死んでいることを示しつつ、遺体の腐敗を防ぐための処置であると、立会人は 説明を加えた。呆然とする俺達の前から、立会人は氷詰めの遺体を乗せた台車 を押して、足早に去って行った」 「……氷に閉じ込められてりゃ、死んでるのは明らかだろうに」 吐き捨てる近野。脳裏に浮かんだイメージが、嫌悪感を増幅させてくれる。 激しくかぶりを振った。 「そのときの他の連中の反応は?」 「俺自身、茫然自失って感じで、他の人達を気にかける余裕がなかった。それ でも我に返って、皆の顔色を窺うと、麻宮さんを含んだ全員が、青ざめている ように見えた」 「犯罪が行われたんだ、警察に通報するとか、館を出るとかしなかったのか」 「俺も元刑事だ。通報するように言った。ところが、みんな、反応は鈍い。ゲ ームを主催した麻宮さんはまだしも、他の二人までがね。訳を聞いてみると、 ゲームの参加を決める際に、誓約書にサインさせられたらしい。ゲーム中、何 が起ころうとも公にしないことと、死者が出た場合、その責任は全参加者が負 うことに同意したという。言葉を濁したが、要するに殺人依頼の体裁を取って いたようだ。そんな文書が警察の目に触れたら、直ちに容疑者扱いされる」 「しかし、おまえは誓約書にサインしていないんだろ?」 「そのつもりだった。ところが……」 いきなり、声のトーンが下がった。見れば、遠山の表情が暗く、沈んでいる。 「麻宮さんが、数枚の書類を持ち出してきて、俺に見せるんだ。俺の字で署名 があった。混乱して、文章をじっくり読む余裕をなくしたが、同じ誓約書なの は間違いない。書いた覚えがないんだが……恐らく、雅浪館に着いてしばらく は連日酒宴も同然だったから、その最中に書いてしまったんだと思う」 「……無効だろう。こんな公序良俗に反するゲームに関した決め事なんて、破 棄できるんじゃないか」 「かもしれない。だが、現実問題として、電話は掛けられないんだ。知っての 通り、携帯電話はつながらないし、固定電話はあるのかどうかすら分からない。 強引に外に出ようとしたら、麻宮さんに窘められた。全ての出入口には施錠さ れ、内側からでも鍵なしでは開けられない。地下にあるから、窓ガラスもない」 「実質、軟禁状態。勝たねば生きて出ることはかなわない、という訳か」 「その通りだよ。ピカソもダヴィンチも、顔色こそ悪いが、覚悟はできた風だ った。思うに、麻宮さんか立会人に弱みを握られているんじゃないかと考えた が、当たりかどうかは分からない。とにかく、ゲームは続行された」 「その流れだと、次は2番が危ない。つまり、おまえだよな、遠山?」 「そうなんだよ!」 遠山は勢い込んで返事した。テーブルに置いた両腕に力が入ったらしく、空 になった皿が震えた。 「俺も気が付いた。このままじゃやばい、と。どうしよう?とおろおろする内 に、ピカソが立ち上がり、『遊びでないと分かった今、これは真剣に考えなけ ればいけない。一人でじっくり、戦略を練らせてもらいましょう』と言って、 自室に引っ込んだ。ダヴィンチは、ピカソほど落ち着いた風情はなかったが、 『私もそうします。ここにいちゃ、バッジを落として、見られてしまうかもし れませんし』なんて、おほほほと笑いながら部屋に入った。広間には、俺と麻 宮さんの二人だけになった」 再度、協力の提案があったのだろうと、近野は推測した。 (分からないのは、麻宮が完全に主催の立場なのか、他の参加者と全く同じ立 場なのか、だが。今までの話だけでは、はっきりしない……) 「麻宮さんは内密の話があるからと言って、俺と一緒に、俺の部屋に入った。 そして、改めて申し入れられたよ。お互いの数字を教え合おうと」 「今度は受けたか?」 遠山は首を振った。やけに力がなく、肯定なのか否定なのか、明確でない。 「迷った。信じていいのかどうか。ヂエの事件の前なら、無条件で信じていた だろうが……一度、彼女を疑った身だ。彼女がヂエでなくても、疑われたこと を恨みに思って、俺を裏切るかもしれない」 「それが正常な判断じゃないか。たとえ親友同士でも、このパズルゲームの下 では、信用してはいけないと思うぜ」 「ああ……近野ほどドライに割り切れなかったが、俺も最終的には同じ結論を 出した。協力し合えるのならしたいが、番号を教えるのだけはだめだ、と。す ると、麻宮さんは次に、共同戦線を張るメリットの大きさを語り出した」 遠山によると、麻宮は段取りを説明し始めたという。いわく、ヒントテープ には二人は常に同じ番号を吹き込みましょう。そうすれば、少なくとも四回目 のヒントまで、番号を特定される恐れはなくなる。それどころか、運がよけれ ば、三回目のヒントの時点で、ピカソとダヴィンチの番号を特定できる――。 「たとえば、俺が2番、麻宮さんが3番として、二回目のヒントで、俺と麻宮 さんが『4番ではない』と吹き込み、ピカソが『5番ではない』、ダヴィンチ が『6番ではない』と吹き込んだとする。さらに三回目では、俺と麻宮さんは 『5番ではない』、ピカソとダヴィンチは『4番ではない』と吹き込んだとす れば、ピカソが6番、ダヴィンチが5番であることが確定する。逆に、俺や麻 宮さんは、絶対に安全だ」 遠山の話に加え、近野は居酒屋に置いてあったアンケート用紙の余白に図式 を書き込むことで、理解できた。確かに、運がよければの話である。それでも、 確実なセーフティが望めるのであれば、魅力的に映ろう。提案を受け入れたと しても、責められまい。 「俺がまだ迷うと、麻宮さんは少し怒った口ぶりになった。『最初の段階で、 同盟を結べていたら、あと一人、仲間に引き込み、三人揃って勝ち上がるはず だったのよ。今じゃあ、生き残れるのはあと二人なんだから、二人でしか組め ない。これを逃すと、チャンスはなくなる。分かってるのかしら?』と来たよ」 「ふ……ん。三人で組む方が、勝率が格段に高まるのは多分、事実だ。一〇〇 パーセントかどうかは、戦略を立てて検討してみないと、即断できないが」 「うん、俺も同じ感じを受けた。追い込まれた気分もあって、麻宮さんと組む ことに同意したんだ。それでも一応、お互いの裏切りを防ぐために、番号はぎ りぎりまで教え合わないことにした。つまり、三日目の午後二時の直前に教え 合い、吹き込む番号を決定しようとなった。それ以降は、お互いを見張ること で、抜け駆けを許さないという訳さ」 「結果は?」 ――続
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