●短編 #0219の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
鎌田さんというひとが書いた「自動車絶望工場」というルポをず ーっと昔読んだ。これは自動車工場に季節工として入って、その労 働のようすをルポしたものだ。この手の潜入型ルポの古典といわれ ているものだ。 ワタシがスズキの季節工募集に応じて、浜松のスズキの工場に入 ったときは、もちろんこのルポのことが頭にあった。三交代流れ作 業の自動車工場はむちゃくちゃしんどいで、といわれるが、実際は どうなのか。どんな感じなのか。 単に金の問題だけなら、わざわざ浜松まで季節工にいくことはな かった。当時の東京には仕事はいくらでもあった。 当時、ワタシは20代なかば。体は元気だし無理もきいた。少々 しんどくてもやれるはずだという思いもあった。またその数年前に は、千葉県の日立の工場でテレビのブラウン管を作る工場で、三交 代流れ作業も経験している。それを半年契約で、ちゃんと最後まで 勤めた。その自信もあった。やれるはずだという思いがあった。 しかし、仕事を始めて見ると、これはまあ大変な仕事だった。最 初は慣れないからしんどいのかと思っていたが、結局最後まで慣れ ることもなくしんどいままだった。 流れ作業をしたことないひとは、やっていることをみてどうって ことないと思う。ゆったり仕事をしているみたいに思えてしまうの だ。しかし、やっているものからすると、常に仕事に追われている。 ひとつできても、部品は次から次へとやって来るのである。常に動 いている。目が回りそうである。 同じ時間で部品は流れてくる。それを自動車に取り付ける。それ だけの動きが8時間繰り返される。最初は軽く取り付けられる。し かし、ひとは疲れていくのである。だんだん取り付けるスピードが 遅れてくる。しかし部品は流れてくる。だんだん苦しくなっていく。 もう嫌だ、部品投げつけて帰ってやる。そう思い詰めるころ、仕事 の終わりのベルがなる。毎日この繰り返しである。 こう書いても、あの流れ作業のしんどさというものは理解しても らえそうもない。やったものしか分からないしんどさである。やっ たことあるひとだと、流れ作業しんどいね、というだけでお互い了 解できるが、したことないひとだと、本当のことはわからない。部 品はゆっくり流れているし、楽にできる作業ばかりである。これで 何でしんどいの、とか思ってしまうだろう。 三交代というのもしんどさのもとだった。たとえば、昼勤から夜 に変わった最初の日は何とかなる。二三日目がもっともしんどいか な。体が慣れないので。それが週末ころには何とか慣れてくる。そ の慣れた頃また朝からの勤務に変わるわけである。こんなんで体に いいわけがない。事実体ががたがたになった。若かったから何とか 続けれたわけである。 休みの日でも外に遊びにいく元気もない。本も読めなくなった。 漫画も読めない。漫画もあれで読むには結構パワーがいるわけであ る。テレビだけは見ることができた。あんな状態でもテレビは見れ るのである。テレビは見るのに、何の努力もいらないのだな。 半年契約だったが、三ヶ月でギブアップした。続けられなくなっ た。ある仕事をずっとしていた、何とか慣れていたのだが、急に別 の仕事に回された。そしたらもう耐えられなくなった。また一から やり直しかと思ったら、もうやってられなくなった。仕事している 最中、ウオーと叫んで部品をたたき付け、そのままやめてしまった。 浜松から新幹線に乗って大阪に帰った。何だか監獄から脱獄した らこうなんじゃないかと思うような自由さを感じたのを覚えている。 「自動車絶望工場」に書かれていたことは、まったくその通りだ った。
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