#631/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XKG ) 87/12/30 1:45 (109)
SF「宇宙1のハンサム男」 クエスト
★内容
SF「宇宙1のハンサム男」 クエスト
「あら、いい男ね」
私がスタンドバーでグラスを傾けていると、見知らぬ男が店に入ってきた。
思わず口に出たが、実際その男は素晴らしかった。
上背があり、逞しい体躯、スポーツマンのようにきりりと引き締まっている。
ぴったりと着こなしたスペーススーツ。
そしてまた顔がいーのよ。顔が!
とにかくハンサムなの。
地球から送られてくる3Dビデオのふやけた俳優なんか目じゃないわ。
一目惚れしちゃった。
私は宇宙連合政府の一等エンジニアとして、クールでクレバーな自分を自覚している
けど、こんどばかりはそうじゃなかった。
確かに辺境の惑星開発の仕事もきついけどね。
私、さりげなく彼に近づいて話しかけた。
この機会を逃したら、もう彼とは会えなくて、宇宙一寂しい女になってしまいそうな
気がしたの。
彼って声もいーのよ。声も!
渋くて女心を痺れさせるような声だったの。
そして、紳士だったわ。急にウンコしたりしないの。
本当に心が時めいたわ。
いろいろお話したようなんだけど、なんにも覚えていないくらいよ。
それで私、彼を私の居住ルームに誘ったの。
彼、OKしてくれたわ。
私達、じゃれるようにして部屋に戻ったの。
当然私は期待していたわ。彼が抱いてくれるのを。
そう思わないといられないような気分だった。お酒のせいじゃない。
宇宙1のハンサム男を目のあたりにしたら、だれだって私みたいに思うはずよ。
彼、口説き方も上手なのよーーーー。
私を甘い声、甘い言葉で夢見心地にしてくれたわ。
そして、知らない間に私を裸にしてベッドに...
うっとりするような口づけの後、彼は私の体をやさしく愛撫したわ。
私のおなかの辺りを...ああ、恥ずかしいわ。
ブスッ。
「痛い!」思わす私は叫んだ。
痛みで私をそれまで包んでいた霧のようなものが晴れた。
「きゃーーーーー」
怪物がのしかかっている!
ハエのような頭をした宇宙人。
私は必死でシーツを払い除けた。
私の腹部にはハエ男から突き出た管のようなものが突き刺さっている。
痛ーーーーい!
シューーーー。
怪物は口から白い糸のようなものを吐くと、それは私の体を包み、
私の自由は奪われてしまった。
私は繭にされてしまった...
「大丈夫ですか」
眩しい光りを背に、おだやかな声が聞こえた。
私は意識を取り戻したようだ。
「安心してください。ここは病院です」
「大丈夫じゃありません。いったいどうしたんでしょうか、私は」
「あなたは、たちの悪い宇宙人にたぶらかされたのです」
「強烈な幻覚を性的魅力を感じた異性に与えることのできる宇宙人だったのです」
「すんません」ハエ男が医師の影から不気味な頭を出した。
「ギャー」私は失神しかけた。
「いやー、つい故郷の星の習慣が出てしまって...」
「あんた達、そうやってたぶらかし合って進化してきたの。道理であんたみたいな
不届きな宇宙人がいるはずよね」
「いやー、あなたがあんまり魅力的だったのでつい」
「よくもハエ男の分際で。許せないわ。何が宇宙1のハンサム男よ」
「いやー、故郷の星では私の恋人はそう呼んでくれましたよ」
「彼女もあんたみたいな姿なんでしょうね。ふざけないでよ」
私はハエ男にくってかかった。
「どうも済みませんでした」
ガクッ
ハエ男は崩れるように倒れた。
医師は慌てて男を介抱したが...
「御臨終です」
「ええーー、どうしてーーー」
「老衰です。どうもこの男の種族は代謝が激しいらしい」
「そんなーー。無責任だわ!」
「うまいこと、ずらかりよったなー」
また知らない男が口をきいた。
「あなた誰ですか」
「あんたの命の恩人やがな。居住区の管理人や」
「あんたが繭にされてたんを発見したんや」
「実はあんたがこのボケと一緒に部屋に入っていくのも見とったんや」
「最近地球の女の趣味も変わったなー、思て」
「そう、どうもありがとう!」
私はにやにや笑っている管理人を点滴のバッグで張り倒した。
医師の話では、発見のタイミングが遅く、ハエ男が私に産みつけた彼の子孫は除去で
きないとのことだった。
私は仕方なく宿主となってハエ男の子供を産んだ。
出産の日、数え切れない位の「宇宙1のハンサム男」達が私のおなかから飛び出した。
以後、こいつら、もとい、この子達は私を母と慕いながら成長し、宇宙狭しと
女漁りをしたわけであるが、それはもう御存知のことだと思うので書きません。
異性からの幻覚作用に弱いという、私達地球人の弱点は未だに克服されていないよう
です。
私のこのお話が、皆さんの幻覚による悲劇をなくすために役立てばと思っています。
ええ?幻覚作用こそが生き甲斐?
「ハエにたかられて死んだら?」
FIN.