AWC 深夜連載小説 「イルージョン」(6)クエスト


        
#620/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XKG     )  87/12/26  10:44  ( 58)
深夜連載小説 「イルージョン」(6)クエスト
★内容
 サチはルナのことが気になりながらも、商人の店へ通いつめた。
ラミの、父の仕事をかいがいしく手伝うしぐさ。
ラミのはきはきとした話しかた。
ラミの微笑み。
ラミの溌剌としてエネルギッシュな姿。
サチの心の中で、ラミは次第に光り輝くようになった。

 ある夜、サチは一人で浜辺を散歩していた。
降り注ぐような南の島の夜空を、サチはふと見上げた。
その時サチの心に何かが衝撃的に閃いた。
「僕はラミを愛している」
「ラミが僕には必要だ」
少年の瞳は熱を持った。
 サチはもうラミなしにはいられなかった。

 サチの変化にラミも気付いた。
ラミを見る目付きが違う。
サチの全身から欲望が、まあそんなことはないが、
女の子は自分が求められている時は、それを敏感に感じとるものである。
かといって、サチがストレートに「好きだよ、一緒に遊ぼうよ」などと
言えるはずもなく、
むしろサチの態度は以前よりもぶっきらぼうになるのだった。
これではなかなか話が前に進まなくて困るのであるが。
 ラミは自分からは仕掛けていくことはせず、
そんなサチの状態をむしろ面白く思い、楽しんでいた。
つものようにサチが店に行くと、
ラミの父は用でもあったのか、店にいなかった。
ラミが一人で留守番をしていた。
「チャ、チャンスや!」サチは内心小踊りした。
「今日こそラミを誘たろ」
しばらく品物を物色して、とうとうサチは勇気を出してラミに近づいた。
「こっこれください」
なんとサチは一本のサトウキビをラミに差し出しただけだった。
「毎度、ありがとうございます」
 サチは店を出た...
「なっ、なんや。なんで、こんなもん買ったんやろ」
サチはサトウキビを放り投げた。

 サチはとぼとぼと歩いた。
打ちひしがれたサチの心にまた何かが閃いた。
「そうや、魚を捕まえる時の要領や。さりげなく近づけばええんや」
サチは立ち止まり、また店に引き返した。

 ラミはそんなサチをきょとんと見た。
「あの、ラミ、一度島を案内したいんやけど」
サチはさりげなくラミに話かけた。
しかし、その顔はまだ緊張に引きつっていた。
ラミはちょっとびっくりしたが、にっこりと微笑んで頷いた。

 サチは店を飛び出した。
そして、そのまま浜辺まで駆けていき、海に飛び込むと、
猛烈な勢いでそこいら中を泳ぎまくった。
魚を採っていた仲間が非難を浴びせたが、サチは平気だった。

 浜辺にはルナもいた。
サチのただならぬ様子を見て、ルナは不安な気持ちに心が揺れるのであった。

                       つづく




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