AWC リレーB>第14回   因縁     [三月兎]


        
#565/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XAD     )  87/12/11  22:19  ( 73)
リレーB>第14回   因縁     [三月兎]
★内容
 “彼”はまだ<夢>をみていた。 甘く気だるい<夢>を....

 “彼”が眠っている寝台の傍らには、人の背丈程ある機械が据えられていた。“彼”の耳の付け根あたりから出ている数本のコードで、機械と“彼”は繋がれている。機械は、音も無く静かに動いているようだ。機械に組込まれたモニタに映し出された絵だけが、目まぐるしく変わっている。それ以外の光りも音も、この部屋の中では何一つ動く気配はなかった。

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 2本の剣の輝きは、洞窟の一角を照らし出すのに充分だった。金色の光りの中で、2つの影が、動いている。
 「あんた、ちゃんと言ったの? 選ばれし者同士に上下の別け隔てなんかないって事。へんな優越感は、あたしたちにとっちゃ、邪魔以外の何者でもないのよっ!」
パームの厳しい声だった。と同時に、輝く剣のうちの一本の光りが鈍ったようだった。
 「いずれ彼自身で分かる時が来るさ。私達が教えても意味が無いって事はキミも知ってるだろう。自分自身で納得しなきゃ、心なんて簡単に揺れ動いてしまう。」
パームは、ジャンの言葉で自分のせっかちをたしなめられた気がした。
 「そうだね。あたいもちょっと、こいつに対してイイ気になったみたい。悪かったょ」鈍った剣にまた元の輝きがよみがえった。それを見てジャンは再び口を開いた。
 「我々の力の根源である“劣等感”を忘れちゃいけないな。優越感に浸った余裕は、劣等感が持つ這い上がり根性の恰好の餌食だ。彼の第一の目標は、無意識層の底層に根強く劣等感をはやす事だな。彼なら、劣等感の重みに耐えて反発できると、私は見た。」
 「根拠はあるの? ジャン」
 「彼はライバルに負けたんだ。それも徹底的にな。さらに彼にとっては、啓子の心にも敗れてしまった。完全に。 しかし、彼はそんな彼女に再び闘いをいどもうとしている。告白という闘いをな。」
 「その、啓子ってのが彼にとっての・・・・・ 」
 「それはパームには関係の無い事だ 。これ以上は彼個人の問題だからね。彼が話す気になった時に彼自身から聞けばいい。」

 地面の上に横たわった芳岡の足元に、輝きを失った一本の剣が落ちていた。

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 “彼”はまだ夢を見ていた。いつのまに現れたのであろうか。“彼”のまわりを取り囲む人影が、また話しをしていた。
 「様子は、どうじゃ?」
 「ハッ! 彼の視覚イメージからは“啓子”の情報は減ってまいりました。その代わりに、別の東洋人の姿が。ちょっとスクリーンを覗いて下さい。」
 機械にあったモニターは、ホログラムのように窓感覚で覗く立体映像であった。
 「さすがは画家志望じゃ。こんなに見やすい視神経イメージの映像も珍しいのぅ。おまえ達も、早く脳の能力に左右されぬアナライザを作れ。このあいだの数学者にはまいったわい。方程式しか出てきよらん! あれでは映像化の意味がないわい。どれどれ・・・・んー、これは芳岡じゃ。 オ? 後ろに重なってるのは誰じゃ? よう見えんわい。
ちょっと、像を90゜水平回転してくれんか。 おぉ、そぅそぅ・・・その調子・・・
 あゃぁ? これはジャン! それにパームも! どうしてこの3人が揃っとるんじゃ?劣等感を取ってやった芳岡は、力に溺れて脱落、3人は分裂の筈・・・・・・・。
いや、よく見れば光っとらん剣が1本あるわい。  そぅか。 フフフフ・・・・・
このまま邪魔さえ入らねば、思う壷じゃて。
 芳岡の姿を透視したとは、こいつもいよいよ本物じゃな。 のぅ、お前たち。」
 「それが、ババ様。様子がちょっと変です。この像は彼の脳で合成されただけではないようです。と言うより、むしろ合成だけをしたと言うべきのようで。」
 「えぇぃ、一体どういう意味だ。」
 「つまり、情報そのものは外部から供給されて、彼の脳は単にそれを絵に描いているだけの可能性があります。どぅも、ほかの脳と結び付いているようです。手段は分かりませんが。おそらく、かなり強い因縁を持った同士の脳ではないかと。 あるいは、この像にある、ミスター芳岡かも・・・・。」
 老婆の顔が一瞬曇った。
 「すると芳岡が、ここに寝ている彼を通してこっちの様子を知ることも出来るのか?」 「場合によっては。それには、ミスター芳岡がこの事を認識している必要があります」 「それはまずい。なんとか、断ち切れ!」
 「すぐには無理です。結合手段が我々の知識を超えていますから。」
 「では芳岡はこの事に気付いているのか?」
 「それもこちらでは分かりません。」
 「なにか手掛かりはないのか?  そうだ、聴覚神経を音声化してみろ。むこうの会話 を聞き取れるやもしれん。」
 「わかりました。やってみます。」

 機械の唸る音が部屋に響きだし、やがてそれとは異質の音が流れ始めたた。
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