AWC DOG BOY −迷走 1974−   アンゴラ


        
#542/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (QDA     )  87/12/ 5  19: 2  ( 59)
DOG BOY −迷走 1974−   アンゴラ
★内容
 闇の中、光輝く、二つの目。いや、一対の目、といったほうが正しいのかも
しれない。光る、といっていいべきか?その眼光は、正しく人間の物ではないか。
なぜならば、それは獣の輝きとは異なる色を光を放つ。
「畜生・・・」
 それは、やはり人間であった。かすれた声で、言語を使う。言葉を使えるのは
人間に他ならぬ。
 夜の静寂をぶちこわすような、銃声がした。それが潜むしげみが、一度だけ、
音をたてる。
 いま、微かに歯ぎしりが聞こえたような。
「いたぞ、こっちだ!!」
 今度は、確かに人間の声がした。足音が、複数聞こえてきた。一人、二人・・・。
気配が近付く。
 ガサッ。しげみから黒いものが飛び出す。さっきの生き物だ。
 −−それは・・・!!これを人間と呼べるのであろうか?いや、姿形は人間そのもの。しかし。驚くべきことに、それは通常の人間が持つべきものがなく、ないはずの
ものを持っていた。年は15、6か。その少年に、耳はなかった。
あるというべきか。しかし、それは人間の耳ではなかった。獣の耳・・・犬の耳が
普通の人間の耳があるべき場所に付いていた。
 そして、尻尾!!フサフサとしたそれは、犬の尾である。尾、という以外なんと
いえるのであろうか?
「見つけたぞ、この野郎」
  下賎の民のようなその声は、聞き苦しく、重装備の姿は醜かった。
「手間をかけさせやがって。」
 もう一人のものが、にくにくしげに呟く。
「おまえが最後だ。最後の一匹だ。」
  その言葉が命取り。    ~~~~
「・・・・・・」
 少年・・・いや、犬は。その言葉を言い放った男の喉笛に噛みついた。
 野道が朱に染まる。その朱は、殺された男のその血は、心なし、薄汚れた朱であった。 もう一人の男がその醜い顔をこわばらせ、後退した。
「おとなしくセンターに戻れ。命だけは助けてやる。」
 精いっぱいドスのきいた声でいっても、それは無駄な努力というもの。声が
恐怖のためハスキーになっている。
「いやだ。」
 ひとこと。それだけいって、少年は男に飛びかかった。
 銃声はただ一度。
 やがて。路上は朱。深紅に染まった。
 断末魔のあがきとでもいうのか。男の手と、少年の尾がびくんと震えた。

 あれは、いつの頃だっただろう。少年が人間になりたい、といいだしたのは。
遺伝子操作の結果生まれた−創られた−彼は、センター以外の場所、即ち外界を
知らなかった。人間は、そんな彼にとって羨望の的であった。犬として生まれた
彼は、こう願った。今度生まれてくるときは、人間になりたい・・・と。
 所詮、それもただの夢にすぎぬ。犬に生まれたものが人間になれる筈がない。
が、彼は。つい数日前まで、心底そう願っていた。けれども、数日前の出来事が
彼をかえた。仲間が、殺された。上司に叱責された部下の腹いせによって。
彼は怒り、それを殺した。殺すのは簡単であったが、そのあとが問題であった。
下手をすれば殺される−−その意識から、彼は仲間と脱走を試みたのだった。

 少年の手が、もう一度震えた。首が起き上がる。
「ち・・・くしょう・・・」
  うめくように声を振り絞る。
「何が人間だ・・・。ふざけるな・・・。俺は犬だ。もう、二度と・・・」
 声が小さくなっていく。
「人間になり・・た・・い・・・などと・・・」
 首ががくんと垂れた。
 少年の頬をつたうものは、こめかみの傷から噴き出した血の様でもあり・・・
涙のようでもあった。
                                           (Fin)




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