AWC 「死神の祝福」           メガネ


        
#540/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (HRJ     )  87/12/ 4   0:21  ( 68)
「死神の祝福」           メガネ
★内容

「死神の祝福」           メガネ

 毎年の様に続く世界規模の凶作。疫病の蔓延。不安定な世界情勢。教育の崩壊。
悪化する公害。明るい夜。死神の笑いの様に輝く赤い空。僕達はそんな中で知り合
った。1999年8月。かつて世紀の大予言者ノストラダムスの予言通りの状態に
なっていた。人々の心は荒れ狂い、強盗、殺人が当り前の様に起る。僕達はそんな
中で知り合い、恋に落ちた。
 「ねえ、もう日本は駄目なのかしら。」
 「駄目になるのは日本だけじゃないさ。アメリカもソビエトも…未だ戦争が起っ
ていないだけ幸せさ。」
 確かに戦争は始まってはいなかった。が、ベルリンでは米・英・仏・ソが血で血
を洗う内戦が行われており、全面戦争になるのは時間の問題に思われた。
 僕達は小高い丘の上で町を眺めている。街は荒れはて、路には死体がごろごろと
横たわっていた。
 「この街もいつ全滅するか判らないな。」
 「そうね…そうだ、家に来てみない?」
 「え…いいのかい?」
 「別に構わないわよ。家は父も母もいないんだし…」
 そう、彼女には父も母もいない。殺されたのだ。疫病に。
 僕達はゆっくり歩きだした。彼女の家は丘のすぐそばにあった。中に入ってみる
とがらんとしている。
 「TVや金庫なんかはみんな盗まれてしまったわ。でもいいの。今の私にはいっ
さい必要ないし…」
 彼女はほっそりとした美しい娘だった。名を静子といった。
 「あら、外を見て。雨が降ってきたわ。」
 僕は窓を見てみた。さっきまでは晴れていたのに雨がザアザアふっている。そし
て何故か窓硝子が汚れていく。
 「変だな。窓がどんどん汚れていくぞ。」
 「外に出てみない?」
 戸を開け、外に出てみた。
 「なに、この雨…べとべとしてて黒っぽいわ。」
 僕は雨を手に取って見てみた。ドロドロとしたねばっこい黒いものだった。
 「汚い雨だな。中に戻ろう。」
 僕達は水で手を洗ったが黒い色は容易には落ちなかった。
 「あ、ラジオはあるかい?」
 「ラジオ? ラジオならあったかも知れないわ。」
 プツン。ザー。ラジオのスイッチを入れ、チャンネルを合せると静かな音楽が
流れてきた。
 「へー、いいなあたまにはクラシックも」
 僕がそういった瞬間、静粛は打ち破られた。
 「臨時ニュースです。先程午後4時20分、ソビエト大使館は日本大使館に宣戦
を布告しました。その10分程後に北海道の札幌に核ミサイルが落下し、同市は全
滅という情報も入っています。自衛隊は………」
 ソビエトがついに宣戦。札幌に核攻撃。とするとこの黒い雨は放射能雨だ。僕達
は顔を見合せた。
 「街をみにいかない?」
 「然し、放射能雨が…」
 「傘をさして行けば大丈夫よ。」
 丘に上って街を見渡した。がれきや死体は雨で真っ黒になっていた。
 「街が真っ黒だわ…」
 「来る時が来たのかも知れないな。」
 沈黙。しばらく僕達は変り果てた街を眺めていた。
 何故か胸が高鳴る。ふと空を眺めるときらめく物が飛んで来るのが見えた。
 「知り合って未だ2週間もたっていないというのに…皮肉なもんだな。君と会っ
ていなければ…」
 僕がなにげなく独白いた。
 「会えたから…」と君が小さな声で遮った。
 「静子…」
 僕は静子をおもいっきりだきしめ、そして初めてキスをした。最初で最後の…。
 「今日が私達の結婚式ね。」

 死神はこの街の外れに落ちてきた。しっかりと抱きあう二人を祝福するかの様に
まぶしい光が二人を包み込んで…………。








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