#523/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (HHF ) 87/12/ 2 14:48 (160)
MARUS 《4》 ■ 榊 ■
★内容
第2部 「リルフィーの章」
By Sakaki
第三章 リルフィー
カタッ…………カタッ…………カタッ…………
ゆっくりとした足音が、壁を通じて聞こえる。
一階したの階段を登っている男の様子が、心の中に易く想像できた。
赤い目をした、愛美を殺した奴と同じ色の目をした男。
たくましい体。
殺すことを何とも思わない心。
そして、闇に光る赤い瞳。
人ではない男が階段を登ってくる。
カタッ…………カタッ……………………キュッ……カシュッ……
踊り場を回った…………もうすぐだ。
カタッ…………カタッ…………カタッ…………カタッ………
足音は段々大きくなる。
男は、もう殆ど、すぐそこに来ている。
心の中に、男の階段を登る様子が浮かぶ。
一歩、一歩、太い足を持ち上げ、コンクリートの階段を踏み込む。
カタッ………カタッ……………………カツ「「「「「ン!
来た。
男は同じ階にたどり着いたようだ。
すぐそこに、壁を越したそのすぐそこにいるのが解る。
男はしばらく立ち止まっていた。
そのまま、沈黙が続く。
キュッ………カツーン………カツーン…………カツーン
動きだした。
部屋は、ここだけしかない。
男は、端にあるドアの方に近付いて来る。
来る。もうすぐ来る。
俺は銃を握りしめた。
握りしめた右腕に激痛が走り、左手で傷口を押さえる。
出そうになった声を引っ込め、俺は息を吐き出した。
<男を………男を倒さなければ………>
赤い目をした男達は複数いる事が解った。
人間とは思えない彼らは複数いた。
彼らは一様に、黒い瞳を持つ俺達を攻撃の的にし、殺戮を繰り返していることも解った。黒い目の人々はわけも解らず、逃げ惑う。
赤い目はそれを殺し歩く。
まるで、狩りを楽しむように。
黒い目の者はそれをおびえ、赤い目の物はそれを楽しむ。
赤い目の男達は、死を恐れず向かっていき、殺すことを楽しむ。
死ぬまでは、立ち上がっては襲ってくる。
追いかけてくる。襲ってくる。
最後の時がくるまで。
彼らによって、人が全滅したような気がした。
彼らの殺戮を好む心に全滅したように思えた。
人がいない。彼らがいる。
殺しがある。平和がない。
俺は、人を見つけるために歩き出した。
しかし、人はいない。
そして、彼らがいる。
今、俺は彼らを倒すために歩き出した。
彼らは、俺から全てを奪った。
両親。友達。人。そして、地球。
ただ、あいつらが憎かった。
俺は、歩き続ける。
愛美を、殺した、あいつらを、倒すために。
カッーン…………………………
止まった。
ドアだ。
ドアの前にいる。
どこかのオフィスらしき部屋の、机の影に隠れていた俺は、半身を机の上に乗り出し、ドアを見つめた。
キュル…キュル…キュル…
ノブが回り始めた。
俺は、銃をドアに向ける。
照準を、見えない敵に合わせる。
しかしその姿は、心の中にくっきり現れていた。
ドアの後ろにそびえ立つ、一人の男の姿が。
キュル……カチッ………
ドアが開いた。
引金にかけた指に力がこもる。
ドォン! ドォン! ドォン! ドォン!
低い、うなる音と共に、木のドアに穴が開いていく。
一つ、二つ、三つ、四つ。
そして、銃声は止んだ。
俺は動かずに、じっとドアを見続けた。
ドアはカタリとも動かない。
俺は、銃をドアに向けたまま、歩き出した。
机と机の間を、動かぬドアを見つめながら、ゆっくり歩く。
汗が頬を伝う。
緊張の度合が増していく。
右腕の傷がうずく。
机の端を曲がり、ドアに向かって歩き始める。
もう一度、銃を握り直し、大きく息をはいた。
そして、ドアにたどり着く。
俺はゆっくりノブに手を差し伸べた。
銀色に鈍く光るノブに手が届く。
いや! 手は何もつかめずに空を切ったのだ!
「「「「!」
ドアが、信じられないスピードで開く!
飛び退こうとし、足に力が入る。
ドアの隙間から、手が延びてきた!
その手が、間違いなく俺の首を掴む!
「はぐっ!」
そして、ドアは開かれた。
そこには、男がいた。
赤い目をした男がいた。
がっしりとした体つき。
短くした髪の毛。
そして、赤く光る目を持った、無表情な顔をした男がいた。
次第に、首にかけられた手の力が込められる。
ゆっくり、無表情な男の顔が残酷な笑みに変わった。
男は俺の死を確信している。
男は俺の死を楽しみにしている。
「ぐ、ぐ………」
息が苦しい。
頭が重くなっていく。
だが、まだ生きている。
俺は、相手に解らぬようにナイフを抜き出した。
すーっと取り出し、右手に構える。
段々意識が遠くなっていく。
しかし、俺の腕は本能的に動いた。
下から、相手の胸に。
「しゅっ!」「ぐはぁっ!」
相手の手が離れた。
俺は手が外されると、そのまま倒れ込んでしまった。
殆ど見えなくなっていた視界に、微かに光が戻っていく。
そして、急にせき込んでしまった。
「けほっ、けほっ、けほっ……」
せき込みながら、俺は男を見上げた。
そして、信じられない光景を見た。