AWC 詩篇 空中の書14     直江屋緑字斎


        
#321/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (QJJ     )  87/ 9/ 8  10:25  ( 47)
詩篇 空中の書14     直江屋緑字斎
★内容
<魂の滋養 46行>

   魂の滋養

受話器から洩れる魂の誘惑 あくことない耽溺 室内の細い光が
街路へ抜ける 電灯の軋(きし)みを合図に地図に記されていな
い町まで疾る 到着したのは約束の刻限を大幅に超過してからで
ある 暦の下で困惑する少女よ 廻転扉から歴史は始まる 青い
絖(ぬめ) アルミニウムの鏡板(パネル) 古色蒼然とした円
舞曲(ワルツ) 腕の交叉(こうさ)は下半身にて破られる 折
れ曲った肢体から尿のように噴き出る夢 魔物の影が漂う 長い
鎖を静かにインク壷に漬け夜啼きの烏を描く 闇はいっそう深ま
りついに凝固する 仕掛けのある空箱に棲む花嫁 鰐の恋人よ
純白の下着が義歯とともに外される 瞑想(めいそう)など不要
だ 皓々(こうこう)とした珠玉が爪が言葉が黒々と伸張してい
る 南の島では五色の慾望が 瞼(まぶた)の下では蝋燭が 天
井から風がそよぐ 星々の移動が突発的な予定調和をしでかす
いびつな乳房 二つに割れる乳暈(にゅううん) 鋭い腰 沈み
込むような尻 深く愛すると肉体は泥になる 頭脳も鬱血(うっ
けつ)する 髪の毛に毒虫が貼りつき赤い舌を覗かせて冷笑 季
節が外れると関節に痛みが疾る 押し寄せる齢とは一条の螺旋で
あろうか 背中から尾へと向う刃物 魚の臓物に南十字の吐息が
匿され旋毛風が舞う 水道路の遺跡から登場する生物は両足を揃
えて跳躍しながら磁気を食す 星間物質は倉庫で逼塞している
おお鏡の中で燃えつきる踊り子(ダンサー)よ 挨拶を交わす
さすがに疲労は隠せない 面影のうちに種属もなく調理人の熱い
まなざしもなくただ往き来する書物の記名がなびいている たと
えば硝子張りの字引きとか棲処を失った羽虫 溝の消えたレコー
ド かすかな思い違いから鍵を紛失する ひからびたしがらみに
映じる幼児の幻惑 祭の爆竹がはぜる 走馬灯に初寝の影が添え
られる 地震の起ったときに寄宿舎の屋上から海の彼方の炎を見
る 洗濯物は竿に吊られて濡れている 電信柱には骨盤 嫌な顔
をするな 鉄拳が飛ぶぞ 裏通りには首のない変死体 壁の中に
は数奇の運命を終えた老婆 館には魍魎(もうりょう)の出没の
儀 夜は更ける いやまして絢爛の夜 数軒の呑屋を経ても薔薇
(ばら)の花束はしおれない 睡魔の中で次々に裸にされる少女
低温で茹(うで)られる黄身 女どもが真っ先に弑(しい)され
る 恋人を下水管に流した男が強力な下剤を服む 受皿に果実の
種が落とされる 体を引き緊め酒をあおる 夜風が実に快適だ
遠心力の効用とは客船を見事に沈没させる点にある 緩慢な波を
分けて蒸気機関車が青白い烟(けむり)を吐く 海底に向って老
衰する 古代語は白蟻によく馴染んでいる ともに魂の滋養だ
筋肉から弾き出て素敵に印象的な紅蓮の布となる めくるめく即
興曲 幻妖なる画布 不思議の国の扉 不眠症の決り文句だ 柱
時計が酸化する 火傷を何度も負う 夜が明けても空は暗い 羽
を借用して雨の朝を渡ろうか 空白の数行とともに





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