AWC リレーA>第9回 サイボーグ RYOU*T


        
#265/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (MCG     )  87/ 8/21  12:55  ( 96)
リレーA>第9回  サイボーグ      RYOU*T
★内容
  バイカーンの中に響く女の声が、強く圧力を加え始めた。
 (…教えてあげる…私達は敵じゃない…さぁ、追いかけるのはやめて…)
  この時バイカーンは、全身に激しい不快感が走るのを感じた。
  「お、おれは…こういう類の奴が…大っ嫌いだっ!!」
  バイカーンの叫びにも動じず、女は彼の意思をねじ伏せようと力をかけてくる。
  (追いかけるのをやめなさい。…忘れてあなたの日常に帰りなさい…!!)
  「超能力者」…以前、闘った事がある。ホッパーに養成され醜悪に歪んだ化物!!
前の男もそうだった。個人の意思を無視し土足で人の心を操る!!
  バイカーンの意識の焦点がひずんできた。ともすれば屈しそうになる中、最後の反
撃に出るため彼は気力の全てをふりしぼった。
  その時である。遠くで男の声が叫んだのを、バイカーンはかすかに感じた。
  「…やめろっ!…加奈っ!!」
 そのとたん強い意思力がバイカーンに注がれ、彼の中から女の気配を叩き出した。
  走っていた乗用車型装甲車両が横滑りするように目の前に急停車し、中から一人の
男がおりてきた。
  「バイカーンか…。そういえば、高倉のスポンサーはホッパーがらみだったな。」
  「誰だ?!…お前たちは何者だ!!」
  この成り行きに叩きのめしたい思いを押さえバイカーンは訊いた。男は答えた。
  「俺は自由超能力集団の堤だ。高倉とは敵対している。悪いが今は時間が惜しい。
一般人に負傷をさせ、命があぶない。一刻を争っている。…治療のための目的地は高
倉の研究所だ。ついて来たければ来い。しかし邪魔はするな、この男が死ぬ。」
  堤は健をバイカーンに示し、バイカーンは興味を引かれた。
  目前の男も負傷者もホッパーではないようだ。しかし…高倉の研究所?!
  健は、薄れ消えゆく意識の中でバイカーンと視線を交わした。と、言ってもフード
越しであるので、そんな気がしただけかもしれない。かすかに車の動きだす振動を感
じつつ、健は静かに意識を失った。
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  静かな葉擦れの音がする。頬を、髪をかすかに風がなぶっていく。
  柔らかな白熱灯の光を感じて健は目を開けた。
  「気が付いた?」
  夜だ、何時頃だろう…。…?…女の顔が傍らにある。…よく見るとナオミだった。
  「…あれ?ナオミ…おれは……?」
  頭がどうもすっきりしない。おれは上体を起こし首をふった。時間の感覚がつかめ
ない。間延びした様な、途切れた様な…一体、今はいつだろう……?
  周囲を見回すと質素ながらも落ち着きのあるインテリアが目に入った。どことなく
年月の重みを感じさせる…そのくせ生活感の無い奇妙な空間。その心地良さ……。
  「ここは高倉家の別荘の一つ、長野県よ。ここならしばらく安全よ、安心して。」
  意味がわからない………が、徐々に記憶がよみがえり………!!おれは跳び起きた。
  「…調子……よさそうね。」
  「え?……あ!」
  慌てて見たおれの身体にも腕にも異変はなかった。全く無い!あのケガは……!?
  「ナオミ…これは………。」
  「…………機械でね…補ってあるの。特殊な付加機能と特別の強度をもった……。
つまり……サイボーグ………。」
  おれは激しいショックを受けた。
 「あの見掛け以上に臓器のダメージが大きく…生きるか死ぬかどちらかだったの。」
  その言葉を聞いた時、一瞬おれの中に強く死への憧れが走った。
  「今からでも、死ねるわ。あなたはいつでも死を選べる…、でも無意味で罪悪ね。」
  ……?!…おれの心を読んだのか?おれはナオミの顔をまじまじと見つめた。
  「…思い出した…あの時。……堤さんは『加奈』…と名を呼んで…。」
  その時目の前の女はせつなく微笑み、おれは混乱しきっていた。
  「………あ………。」
  何か言おうと思った。何か質問しようと思った。しかし言葉にならない出て来ない。
  何から整理すればいいのか。…何を考えればいいのか…わからない。
 …………とにかく今は一人になりたかった………。
                                       
 堤は木立の中をゆっくりと歩いていた。その様子は周囲を警戒し把握しようとして
いるようにも見えたが、ただくつろぎ散歩しているようでもあった。
  少し冷やかな空気が心地よい。空には星がちりばめたようにかぶさっている。
  「………勇弥!………ここにいたの。」
  ナオミの顔をした女が木立の間を小走りにかけて来た。
  「……加奈。………黒沢が気付いたのか、…様子は?」
  「ええ、やはり人並みの動揺を……でも彼の抱えている問題は一つじゃないわ。」
  二人の視線が重なった。
  「……待って!」
  健に会うため戻ろうとした堤を加奈は呼び止めた。堤は振り返ったが、加奈は何も
言わなかった。
  ……………堤は加奈を残して別荘へと歩きだした。
                                       
  しばらく行くと堤はふと足を止めた。
  「バイカーン、そこにいるんだろう?」
  堤の呼び掛けにこたえ、バイカーンが頭上の枝から飛び下りて来た。まだ装甲を身
にまとっている。飽くまでも素顔を見せる気はないようだ。気を許さない。…当然か。
  「ずっと走ってついて来たのか。ご苦労な事だ。」
  バイカーンは堤の言葉を無視した。
  「お前は超能力者か…おれは超能力者は大嫌いだ。」
  「…よほど今迄の当たりが悪かったんだな…。超能力者にも色々いるさ…いい奴、
悪い奴。人の『能力』を変に限定しなければ『超能力』は、もはや『超』能力じゃあ
ない。人本来の能力だ。この自然の与えた力だ。俺達はけっして化物じゃない。」
  「そしてお前は『いい奴』と、いう訳か!」
  「さてね、我ながら意地の悪い男だと思っているところさ…。……加奈がすまなか
った、許してやってくれ。…あいつは焦っているんだ。」
  「お前は違うと言うのか?」
  皮肉に笑うバイカーンに堤は微笑みかえした。
  「バイカーン、見ただろう?俺達は高倉の研究所にフリー・パスだった。なぜだ?
……確かに加奈の『力』によるところも大きかったが…それだけじゃない。
 加奈と俺が呼んでいる女の本体は高倉ナオミ…高倉源三の娘だ。今は身体を失った
加奈の意識が存在を支配しているが………逆だ…。ナオミの意識は生きている。
  そして今も…学習している。加奈の意識の奥底で全ての経験と知識と技術を加奈か
ら吸収している…。そして彼女は高倉の後を継げる女だ。加奈はもう気づいている。」
  堤は言葉を切りバイカーンを見た。
  「これからは多くの事が動く。そして高倉ナオミがその鍵だ。」
  (……諸共に……)
  バイカーンは、ふと堤の思いを聞いた気がした。
                                                 《つづく》




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